57.『大天使はミモザの香り』
『大天使はミモザの香り』
高野史緒(著)
講談社
こんにちは。
今回紹介するのは、高野史緒さんの『大天使はミモザの香り』です。
『大天使はミモザの香り』は、派手なアクションやテンポ重視のミステリーというより、“空気感”や人物の感情を味わうタイプの作品だと思います。
特に向いているのはこんな人です。
・クラシック音楽やオーケストラの世界に興味がある人
音楽の描写がとても丁寧で、演奏シーンの熱量を楽しめます。
・「才能」と「凡人」の差に苦しくなる物語が好きな人
世代間ギャップや実力差、自信の無さなど、人間関係のリアルさがあります。
・ミステリーより人間ドラマを重視する人
事件は起こりますが、中心にあるのは登場人物たちの感情や価値観です。
・趣味を続ける意味を考えたい人
「アマチュアとは何か」というテーマがかなり印象に残ります。
・落ち着いた大人向けの青春小説が好きな人
高校生の拓人視点もありますが、若さだけではなく“大人の苦さ”も描かれています。
逆に、 「テンポの良い本格ミステリーを読みたい」 「専門知識をサクサク読み飛ばしたい」 という人には、少し合わないかもしれません。
クラシック音楽を知らなくても読めますが、“感情の機微”や“静かな熱量”を楽しめる人ほど刺さる作品だと思いました。
この作品は、クラシック音楽とミステリー、そして人間ドラマが混ざり合った物語でした。
主人公の高校生・拓人は、ある建物から聞こえてくる音楽に惹かれます。
そこに出入りしていたのは、少し怪しく見える大人たち。実は彼らはアマチュアオーケストラのメンバーでした。
読んでいて面白かったのは、「映画でかっこいいと思っていた曲がクラシック音楽だった」と気付かされるところです。
クラシックに詳しくなくても入りやすく、音楽の世界に自然と引き込まれていきます。
物語は拓人と光子、二人の視点で進みます。
光子はかなり心配性で、世間体も気にするタイプ。その性格には共感できる部分が多かったです。
逆に、彼女の考え方が理解しきれない場面もありましたが、それがリアルでした。
専門用語は難しい部分もありましたが、演奏シーンは音が聞こえてきそうなくらい描写が丁寧。
ただ、バイオリンの細かな知識については、興味が薄いせいか自分は少し読み飛ばしてしまいました。
物語が動き出すのは、ホテルで演奏することになってから。
数億円の名器「ミモザ」が行方不明になっていたり、光子の家に侵入者が現れたり、盗撮の痕跡が見つかったりと、一気に不穏な空気になります。
さらに、光子と“大公殿下”の東京デートも印象的でした。
自信のない光子と、自信家の殿下。二人の対比がかなり鮮烈です。
世代間ギャップや才能の差も描かれていて、「同じ音楽を愛していても、こんなに違うのか」と衝撃を受けました。
拓人の語彙の少なさや話し方も、逆に今っぽくてリアル。
高校生らしい未熟さがちゃんとある主人公でした。
ミステリー部分は、途中で「こうなるかな?」と予想できる展開もあります。
でも、犯人については意外性がありました。
そして個人的に一番刺さったのは、「アマチュアの定義は、愛する人」という拓人の言葉。
上手い下手ではなく、“好きだから続ける”という考え方にハッとさせられました。
ラストでは殿下がある提案をします。
その答えに対して、「もったいない」と思う気持ちもありました。
でも同時に、光子の選択にはすごく共感できる部分もあったんですよね。
クラシック音楽、才能、劣等感、そして自分らしい生き方。そういうテーマが静かに描かれた作品でした。
気になった方は、ぜひ読んでみてください。




