納得いかない
「シュミカ・・・どういうこと?」
時間を進めてもらおうだとか、定時報告とかそんなものは全部吹っ飛んだ。
吹き飛ばした原因に向けて、精一杯の笑顔を引き攣らせながら尋ねる。
まさか部屋を草まみれにしている・・・なんてことはないだろう。いくらシュミカでもだ。
すぐに辿り着いた答えは
シュミカは地上に降りている。
降りたい理由は、シュミカだから。で大体終わる、土から離れては生きられない云々の某アニメ映画の
セリフが頭を過るがまあ概ねそんな感じの理由だろう。
自然が大好きだもんね、自分から進んで農家を継いだ子だし・・・。
花の女子高生が土手を転び回って喜んでるのとかシュミカだからとしか言えないもんね・・・。
「僕が説明するよ・・・」
思考を遮るようにギルが私とシュミカの間に入る。
やはりギルの仕業か、いやそれも分かってたことではあるが。
シュミカに説明されるよりは、絶対に分かりやすいだろうとアイリーンとコーマの二人は考えた。
アイリーンは高校時代から、コーマはそれよりはシュミカとの付き合いは短いがシュミカの説明下手は分かっている。
独自言語かってくらいに分かりづらいのだ。
「まず、シュミカのガス抜きといえば大体想像つくと思うから理由は省くね?」
はい、良く分かってらっしゃいますな。さすが神、さす神
「聞きたいのは僕が下界に降りる許可を出した理由ってことでいいよね?」
アイリーンとコーマは同時に頷く。
あれだけ直接の関与はダメだと言われていたのだ、意味が分からない。
「シュミカの作った大陸は人がほとんどいない、いるのはエルフと精霊と妖精と動物だ。そして信仰は精霊信仰だ、ここまでは知ってるよね?」
一つ一つ確認をしながら、二人はゆっくりと頷く。
初期設定は私たち全員が共有しているから、それは分かる。
「そんな環境へ自然を愛でるという目的で降り立つくらいなら関与というラインに触れる事は無いと判断した。それと・・・」
少しだけ言い淀んでからギルは続けた。
「シュミカの大陸はこれ以上の発展を望んでいないし、望めない。それが降り立つことを許可した理由だよ。」
発展を望んで・・・いない?
「は・・・?えっ、どういうこと!?望んでないって・・・!」
そんな事が許されるのか、という言葉を飲み込む。
頑張って思考を巡らせると、言われた通り発展が望めない世界だということが分かってくる。
だって人類が発展するためには大なり小なりの自然破壊が必要になってくるからだ。
人が増え、住居を得るためにはある程度広い場所がいる。シュミカの作った大陸で場所を作ろうと思えば木を伐り森を拓いていくしかない。
ある程度拓けた場所には妖精の住む花畑がある。
唯一の人類であるエルフは自然を護る特性があり、木を必要以上に伐る事もなければ崇める対象である精霊に属する妖精を退けるなど有り得ない。
そういう理屈はわかる、わかるのだけど
納得がいかないのだ。
「それじゃシュミカはこのゲームから降りるってこと?私とコーマだけでトリルを発展させろって事なの?」
まるで下の兄妹の我儘だけを両親が叶えてしまったみたいな、悲しいような悔しいような
モヤモヤした感情がアイリーンの中を駆け巡り、言いようのない感情が行き場をなくして弾ける
「そう・・・なるよね、やっぱり」
ポロリ・・・ポロリと堪えきれなくなった涙を流すアイリーンにギルが申し訳なさそうな悲しそうな視線を向ける。
昔小さいころに見たことのある表情だ。
我儘を叶えてあげられずに困った様子で愛梨を見ていた両親の顔だ。
アイリーンのその様子をコーマは黙って見ていた。
気の利いたことは言えない自分を良く分かっているようで、言葉を発しようともしていない。
「騙すみたいになった事は申し訳ないと思ってるよ、ごめんね・・・」
普段の軽い様子とは裏腹に、悲しみに溢れた表情で謝罪しているギルを見ていると
少し頭も冷えてきた。
納得できない気持ちはまだ少しはあるが。
「でも、どうか・・・どうかトリルを捨てないで欲しい・・・」
絞り出すようにそう言ったギルは泣きそうな顔をしていた。




