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720時間の弾丸  作者: 一条一
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グルカ兵

バクダット空港内のアメリカ空軍機駐場所に、日本製のSUVが二台止まっていた。その二台に合わせるかの様に空軍輸送機は停止した。輸送機の後部ゲートが開くと「池上」が運転するレンジローバーがゆっくりと降りてきた。「池上」が二台のSUVに目をやると、すでに車から降りたボディーガードが5人立っていた。「池上」はレンジローバーから降りると「チームリーダーは誰だい?」と気さくに話しかけた。並んでいたボディーガードの右端にいた男が「自分であります」と一歩前に出て敬礼をした。「池上」は軽く微笑みながら、「やあ、よろしく」と握手をすると、「今回は階級は関係ないから敬礼は要らないよ」と5人に言った。「池上」は(この5人か、民間軍事会社に登録して警護にあたっているグルカ兵ってのは…確かにイギリスなまりの英語だ)と空軍の格納庫に移動しながら思っていた。

当初ボディーガードをしていたシーア派の民兵は、50BMGで狙撃されパニックになった為、シーア派の代表とその側近にクビにされていた。

グルカ兵とは、ネパールの山岳民族が中心の傭兵で、当初はイギリス軍が育て上げて軍事につかせていた。勇猛果敢で名を馳せたこの兵士は、刀剣類での闘いなら右に出る者は無いとまで言われる剣術使いの傭兵である。

「さあ、早速だがブリーフィングだ。俺のことはJPと呼んでくれ、君たちはどう呼べば良いかな?」と「池上」はきりだした。するとグルカ兵のリーダーは、「私はシェルパです。彼等もシェルパで良いです。西洋人には我々の顔は区別が付きにくいですから、こうやってきました」と言ったが、「でも、あなたはアジア人の様だから分かりますかね?」と続けた。「池上」は「いや、良いよ。皆まとめてシェルパで行こう。ハハハ!」と笑ってみせると、シェルパも全員笑った。

こんな調子で打ち合わせを進め、こと細かく情報をシェルパ達から聞いていると、いつの間にか「池上」が持ってきたレンジローバーに空軍の兵士やスラックスにワイシャツの男(おそらくCIA)までが群がっていた。基地の中は軍用車ばかりだし、レンジローバーと言っても何やらゴチャゴチャと装備しているのが珍しいのだろう。ただ、決定的に普通のレンジローバーとは違う所があり、これは外観では分かり難かった。

書類や地図などの打ち合わせが終わり、レンジローバーに群がっていた人間が居なくなったころ、「池上」は「さて、今回持ってきた目玉だが…」と言いながら車に近寄った。グルカ兵達も気になって仕方なかった様で、「待ってました」と言わんばかりの表情で「池上」に続いた。

「池上」が持ってきたレンジローバーは、市販車であったが、ハイパワーモデルのV8コンプレッサー(俗に言うスーパーチャージャー)エンジンを積んだ車で、これにチタンの20mmの防弾パネルをこれ見よがしに、ドアとボンネット部分の何故か外側に貼ってあった。しかも、屋根には分厚いアクリルパネルが乗っていて、窓ガラスの上にも薄いが防弾ガラスがはめ殺しで付いていた。まるで出来損ないの装甲車にしか見えないが、「池上」は「実はこれはね…」と自慢げな顔でボソボソとシェルパ達にしか聞こえない声で説明した。

説明を聞き終わるとシェルパ達は口々に、「まるで007の世界だ!」「いや、これくらいの装置は日本人なら簡単に作るぜ」「発想はやっぱりアメリカ人だな」などとワイワイと楽しそうに話していた。

次の日、試走の為にバクダット市内を疾走するレンジローバーの姿があった。前後を日本製のSUVランドクルーザーで隊列を組み、時にはランドクルーザーがレンジローバーを中心に前後を入れ替わったり、隊列が急停車したかと思えばUターンして、さらにバックスピンターンしたりと、トリッキーな動きの運転をしていた。最初はシェルパ達もぎこち無かったが、さすがに訓練を受けた傭兵だけあって、次第に「池上」が「操る」レンジローバーにしっかりと付いていける様になっていった。

ほとんど休憩無しで3時間走り続けて空軍の基地に帰ってきた3台は、CIAから充てがわれた倉庫に車ごと戻ると、空っぽになったガソリンタンクをこの倉庫で満たした。車の整備が終わるとシェルパ達と「池上」は倉庫から出てきて「ちょっと疲れたな〜」と言いながらも、顔はニヤニヤさせながら「あそこはもっと早くしなくちゃな」とか、「以外と滑らないから大胆にハンドルを切らないと」などと楽しそうに話して、「さあ、明後日は初日だ、夜までに銃器の選別と整備をやっておこう。と、その前に昼飯を喰いに行こう!」とまるでランチを楽しむ学生の様にはしゃいで街に出て行った。

夕方までには銃の訓練と整備も終わり、日が傾く頃には6人はビールとワインで楽しんでいた。シェルパのリーダーは、「JPって日本人なんですよね?」と聞くと、「あぁ、そうさ」と「池上」も軽く答えた。傭兵や民間軍事業界では日本人は珍しいから、シェルパ達は「池上」に質問を浴びせ続けた。いつもの「池上」なら他人からそんな質問をされれば殆ど答えないが、なぜかシェルパ達には打ち解けていた。もしかしたら、シェルパ達の顔立ちのせいかもしれない。ネパールの山岳地帯にいるシェルパといえば、黒く日焼けした顔を思い浮かべるが、目の前にいる彼らは日焼けらしい日焼けはしておらず、まるで中国、いや、モンゴル人にも見え、そのまま南下して、朝鮮民族、そして大和民族にさえ見えた。「池上」はアルコールが入りモンゴロイド(モンゴル顔?)の親近感が手伝い口が滑らかになっていた。いくつもの質問に答えた後、「池上」が次はこっちの質問にも答えろよと「グルカ兵って今はククリナイフは持たないのか?」と聞くと、「もちろん持っているよ。ククリナイフは我々の魂であり、御守りでもあるから肌身離さず携行しているさ」と言うと、いつの間にかテーブルの上に置いていた腕にナイフが見え隠れしていた。「驚いたな、いつの間に出したんだ?大体、今日一日一緒に居てナイフはおろか、鞘の欠片も見れなかったぞ」と「池上」は少し大袈裟に驚いた様に言ってみた。事実、「池上」はシェルパの手がククリナイフを握った時が分からなかった。「池上」が知っているククリナイフは、一般的な資料では大型の鉈のようなナイフだったが、今シェルパ達の持っているククリナイフは、ペーパーナイフの様に隠し持つには最適なサイズだった。シェルパの説明では、ククリナイフには大きく分けて二種類のサイズがあり、大型のタイプは、鉈の様に使っていた物を戦闘用に携行することがあったらしい。小型のものは、やはりハンドナイフの大きさで、狭い場所や暗闇の中、後ろから首をかき切る「暗殺」的な方法で持つという。「池上」もグルカ兵に興味が溢れていて、夜がふけるまで酒談に花が咲いた。

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