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二日目-3-

 夕食を終え、個室に戻る。

 すぐに呼び出されたマリエルは、ルドウィクのいる執務机のある部屋へ入っていった。

「電信を作りたい」

 小声でルドウィクは言った。マリエルは黙ってうなずき、手帳のカバーを外した。そして手帳の裏表紙の小さな切れ込みから暗号表の書かれたメモを抜き出した。


 電信は、帝国へはカレドニア連合王国によってもたらされた。

 そのため、帝都まで電信を送るには、帝国がカレドニアに貸与しているダズン港で電信を受け取り、それを帝都に早馬で届ける形になっている。そのため、送ってすぐに届くわけではない。


「外交長官が強気でいられるのは、継戦派が半数を占めているからだ」

 ルドウィクは、ため息交じりにつぶやく。マリエルは昼間の外交長官とのやり取りを思い出した。

 あれが、議会の継戦派の主張なのだろう。

「議会宛に、交渉の現状を伝える必要がある。────頼めるか?」

「もちろんです」

 マリエルは即答する。そして、手帳とペンを用意する。

 ルドウィクは、ゆっくり、そして小さな声で、帝国議会宛に休戦を急ぐ旨の文章を口にした。マリエルはそれを暗号表で一文字ずつ変換してゆく。

 それが終わると、マリエルは書き記した手帳のページを一枚破いた。そして、ルドウィクは執務室の紐を引いてベルを鳴らした。

「これを電信文で送ってくれ」

 すぐに入ってきた外交官吏に、ルドウィクは指示を出した。

「私が届けましょうか」

 マリエルが言うと、ルドウィクは首を横に振った。

「もう夜だぞ」

「ですが……」

「危ないだろう」

 ルドウィクは困ったように、マリエルに言った。

 案じてもらっている、ということに、マリエルはようやく気づいた。

「君は、蒸気自動車で疲れているだろう。……もう、休みなさい」

 ルドウィクは優しくそう言い、官吏に暗号を記した手帳のページを渡す。官吏は一度敬礼して、すぐさま外へ向かって行った。


 それを見送りながら、マリエルの胸にふと不安がよぎった。

 ────案じられている。守られている。

 それは────閣下の足を、また引っ張ってしまっているのではないか。

(……言っては、いけない)

 そう思いつつも────口は、自然と動いてしまっていた。

「私は……閣下のお役に立てているでしょうか」

 つい、声に震えが混じる。弱さなど見せたくないのに。

「なにを言っている」

 ルドウィクは困惑したような表情で眉を寄せ、マリエルに一歩近づく。

「君は、いつも私のために働いてくれている」

「ですが……今日は……」

 ホテルへ戻ってきたときの光景を思い返して、うつむく。

「あまり……お力になれませんでした」

「そんなことはない」

 ルドウィクの低い、そして優しい声。

 そして、彼の影がマリエルの肩に落ちる。伸ばしかけた手が、マリエルの髪に触れそうになって────寸前で止まる。

「すまない……」

 自分の手に初めて気づいたように、ルドウィクははっとして手を引っ込めた。

「つい……君に触れたくなってしまう」

「いえ……」

 後悔を含んだルドウィクの横顔。

 ────触れて欲しい、などと。

(そんな、不敬なことを────!)

 自分のうかつな思いを、マリエルは慌てて否定する。

「君がいてくれるから……私は戦える」

 つぶやくようにそう言って、ルドウィクはそっと一歩離れた。

 視線を下にそらしながら、マリエルは言った。

「私には、もったいない……お言葉です」




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