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第四話 ヨハンと奇妙な新入生(七)

「あれっ? あそこにいんの、マキムラカタナじゃん。……おーい!」


 キースは、カフェテリアのカウンター席に一人で腰かけていた薪村(まきむら)(かたな)の姿を見つけて、声をかけた。


「やあ、キース君。おや、みなさんもお揃いでお昼かい?」


 背後から名前を呼ばれた薪村刀は、かぶりつく寸前だったバーガーをトレーに置いて返事した。ポニーテールにして束ねていた彼女自慢の黒髪が、しなやかに空を舞う。


「ああ。よかったら、カタナも俺たちと一緒に食おうぜ?」


「それはうれしいが、いいのかな? 私とは初対面の人もいるようだけど」


 一行の姿を見回して遠慮の声を上げた薪村刀に対し、ニナが手を振って笑顔を見せた。


「あら、ぜんぜん気にすることないわよ、カタナさん! おなじ魔法学部の新入生なんですもん!」


「もちろんです! あ、私、パリから来た留学生のジャン=クリストフ・デュランといいます。先ほどのオリエンテーションでのラドゥー教授への質問、非常に感服しました。ぜひ、お話聞かせてください!」


「うむ。どうやら其方(そなた)、相当なる剣の達人とお見受けする。日々の修行のことなどお教え願えれば、今後双方にとっても大いに助けとなろう」


「ったく、またそんな(カッタ)いこと言ってー。あ、兄貴(コイツ)のことは、あんま気にしないでね!」


「あ、ああ……よろしく」


 デュランや御影丸(みかげまる)疾風(はやて)旋風(つむじ)兄妹らによる立て続けの挨拶に、さすがの薪村刀も少し気後れしたような言葉を返した。


「ほらほら、こっちの大きなテーブルが空いたよ! みんなおいで!」


「ヨハンはんが呼んではりますえ? みなさんも、どうぞお進みやす」


 テーブルの上に登ってパンパンと手を鳴らすヨハンと、色鮮やかな和装姿で悠然と歩みを進める宝天寺(ほうてんじ)耀子(あかるこ)。雑然としていたカフェテリア内の客も、いつしかこの奇妙でド派手な集団の入店を静かに見守りはじめたのだった。


「なんや、エライことになってきたで。なあ、タケル?」


 猫車(ねこぐるま)センパイが、いつの間にか大人数になったヨハン門下生(グループ)を指して、ため息交じりに両手を広げた。みんなの注文を取るためのランチメニューを手にしたタケルは、思わず苦笑いを浮かべずにはいられなかった。




「メンチ……カツ…………バーガー?」


「メンチカツ、知らないの? ヨハン。ようするに、ハンバーグにパン粉まぶして揚げたやつね。それをバンズにはさんだバーガーだよ」


 薪村刀が食べていたメニューの名を聞いて首をかしげたヨハンに、タケルは簡単にレシピを伝えた。


「そりゃハンバーグはドイツ発祥だもん、もちろん知ってるけどさ。それを揚げ物(フライ)に……? シュニッツェルとかフリカデッレとも違うよね。ニナ、知ってる?」


「うーん、聞いたことあるような気もするけど……。ママにも作ってもらったことないわ」


 ニナの母親である円和(エナ)は日本人だが、これまで日本式のメンチカツが彼らの食卓に上ったことはないようだ。


「だいたい『メンチ』って何さ?」


「そりゃ、挽き肉のことじゃね? ミンチっていうじゃん」


「じゃ、なんで『ミンチカツ』っていう名前じゃないの?」


「え? ……さあ……なんでかな…………」


 ヨハンの問いに適当に返事して、そのまま答えに困るキース。全員のオーダーを書き留めたメモを手に、タケルが()かした。


「ねえ、それで何にするの? ヨハン。もうみんな決めちゃったけど」


「よし! じゃあぼくもメンチカツバーガーにする。セットのドリンクはコーヒーね」


「コーヒーはホット? アイス?」


「………………アイスってなに?」


 どうやら、ドイツにはアイスコーヒーも存在しないらしい(かろうじて、アイスクリームを乗せたコーヒーフロートはあるようだが)。また(いち)から説明するタケルとそれを聞くヨハンを、新入生たちは辛抱強く見つめていた。



 数分後、ようやくテーブルに運ばれたランチを前に、彼らはしばし無言になって食事に没頭した。とくにヨハンは、はじめて体験(トライ)した日本式のメンチカツバーガーに大いに舌鼓を打ち、この味はドイツ国民にもきっと広く受け入れられるだろうと太鼓判を押したのだった。


(――――ちなみに関西(ウチとこ)やと、これホンマに『ミンチカツ』っていうんやけどな)

 猫車センパイがボソッとつぶやいた一言に、隣の耀子(ルコはん)は黙ったままうなずいた。




 すっかり腹も満たされて人心地(ひとごこち)ついた後も、ヨハンと新入生たちはみな席を立つことなく談笑していた。昼休みのピークを過ぎて、カフェテリアの店内は客の姿もまばらになっている。


「――――そう言えば、もうタケルやキースも持ってるよね、魔導杖(タクトシュトック)


 目下(もっか)の話題は一般的な魔導師の手にする重要なアイテム、魔導杖(タクトシュトック)についての談義となっていた。ヨハンは、カール・ローゼンクランツ博士から入学祝いと称して二人に贈られた指揮棒(タクト)のことを話した。


「うん、あるよ」

「ああ、これな」


 そう言ってタケルとキースは手荷物の中から小箱を取り出し、そこから魔導杖(タクトシュトック)を披露してみせた。


「これを、かの大魔導師・ローゼンクランツ博士から? すっげー(サ・ディシーア)!」


 デュランはカール博士の名を聞くと、眼鏡に手を当てながら身を乗り出して二人の魔導杖(タクトシュトック)を見た。敬愛するカール博士からの贈り物とあって、いつもは冷静沈着な彼も興奮を抑えられない様子である。


「私もおんなじの持ってるよ。おじいちゃんは私たちの師匠(マイスター)だもの。ね、タケル」

「うん。ほら、キースも」

「おう! ――せえの、イードゥ・アルヴァルシア!」


 ニナとタケル、キースはお揃いの魔導杖(タクトシュトック)を右手に構えると、頭上に掲げて掛け声を合わせた。魔法使いとしては、まだほんの見習い(ノービス)にすぎない彼らだが、その瞳には自信と希望と若さが満ちあふれていた。




続く



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