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第四話 ヨハンと奇妙な新入生(六)

 学部長であるラドゥー教授に続いて、魔法学部の誇る妖魔人(フェアリアン)の講師たちが次々と登壇。当学部で実施される学科の講義内容や、単位取得に関する説明が行われた。


 ドワーフのグロマス教授は穏やかに。

「あー、ようするにじゃな。魔法の修得において、座学がいかに重要であるかということを改めて――――」


 ノームのミクリム教授は長閑(のど)やかに。

「はい、そうですね。まずはこの一年で、魔法に関する基礎的な知識を身につけていただくことになります」


 先ほどまで、ラドゥー教授の厳粛な雰囲気が漂っていた大教室内だったが、この二人の落ち着いたわかりやすい講義によって、緊張感がほどよくほぐれていった。



 だが、その後に姿を現したダークエルフのヴィエル教授は、気だるげな表情で学生たちを見回すと、

「えーっと…………私のとこは…………まあいいわ。みんな、いま配布した資料、よく読んどいて…………」


 そう言ったきり、なんとヴィエル教授は、教壇に突っ伏して大いびきをかきはじめたのだった。次の出番を待っていたヨハンは、にわかにざわつきはじめた教室の様子を見かねて、扉を開けて教壇に駆け寄った。


「ちょ、ちょっとヴィエル教授! ダメじゃない! こんなとこで寝ちゃったら」


「ああ、ヨハン…………。悪いけど、あとよろしく…………」


 二日酔いの眠気によりぐったりとしていたヴィエル教授を、数人の事務員たちに任せて退場させると、ヨハンはため息をついてから、学生たちに向かってマイクの音量を上げた。


「みんな、ゴメンねー。なんだか時間がずいぶん押しちゃってて。ねえ、もうお腹空いちゃったでしょ?」


 ヨハンの言葉に、どこからともなく笑いと安堵の声が漏れた。


「お昼までには終わると思ってたんだけど、もうちょっとがんばってくれるかな。ぼくからの説明は、あと十五分でサクッと終わらせるからさ」


 そう言ってヨハンが教壇の上に立つと、どこからともなく拍手が上がりはじめた。その音を聞いたヨハンは、前肢を小刻みに震わせて、煽るようなポーズを見せたのである。それに連れて、手拍子はどんどん大きくなっていく。


パチパチパチパチパチパチパチパチ…………


 そして、頃合いを見たヨハンはリズミカルに前肢を躍らせ、学生たちの手拍子をシンクロさせながら締めた。


パンッ パンパンパン!


 見事に決まった拍手の締めに、大教室の学生たちは大いに盛り上がった。キースとタケルは感心したように、隣のニナに話しかけた。


「あれ、タモリとかさんまがよくやってるヤツだよな!」

「ねえニナ、こういうのって、ドイツにもあるのかな?」

「知らなーい。たぶん、日本(ヤーパン)のテレビで覚えたんでしょ」


 日本大好きのヨハンのことである。人気のバラエティーやお笑い番組も、すでにしっかりチェック済みなのであろう。


「せやけど、さすがやなヨハン先生(センセ)。あない可愛(かい)らしいネコちゃんやのに、ちゃーんと新入生たちを掴んではるやん」


「ほんまやね。ヨハンはん、これからどないな授業してくれはるんか、うちもえらい楽しみやわ!」


 猫車センパイや耀子(ルコはん)の言葉に、タケルたちはうなずいた。オリエンテーションの時間はヨハンの言葉通り、それから十四分五十八秒後に終了した。




 休み時間となり、すこし遅い昼食を取ることになったタケルやニナたち。この前のように学生食堂も考えたが、キースが今日は趣向を変えてカフェテリアに行くことを提案してきた。


「カフェテリア? この大学内にあるの?」


「そ。ハンバーガーとかサンドウィッチなんかがあるらしいっすよニナさん」


「それもええな。なあ、みんなも行くやろ?」


「モチロン!」


「ねえ、ルコはんも行こうよ」


「うむ。それがよろしかろう」


「うちもご一緒してよろしいんでっしゃろか?」


 猫車センパイにデュラン、御影丸兄妹と耀子(ルコはん)までもが、カフェテリアでお昼を取ることに賛同した。すると、期せずして大所帯になったタケルたち一行に、新たに声をかける者がいた。


「タケル! ニナ!」


「ヨハン! 今日はもう終わりなの?」


 それは、新入生オリエンテーションを終えたばかりのヨハンだった。


「うん。いちおう、ぼくら教授たちの仕事はおしまいさ。あとは学生たちも自由行動だよ」


 ヨハンの言うとおり、午後からは新入生たちにとって、とくに決められた予定はない。学内を自由に見て回ったりできるほか、クラブやサークル活動の紹介や勧誘なども行われるようだ。


「そう。私たち、いまからカフェテリアに行くんだけど、ヨハンも行く?」


「行く行く! ぼく、もうお腹ペコペコだよ!」


 腹部をさする仕草と、「お腹ペコペコ」という言葉に心を奪われた宝天寺耀子は、ヨハンに駆け寄ってその体を抱きしめると、頬を擦りよせた。


「いやあ、ヨハンはんとお昼をご一緒できるなんてほんまうれしいわあ!」


「ちょ、る、ルコはん……」



 カフェテリアに到着した彼らを、エプロンをつけたウェイトレスが出迎えた。昼時ということもあり、店内は多くの客でにぎわっている。


「いらっしゃいませ。何名様ですか?」

「あ、えーっと、ぜんぶで九人っす!」


 キースは指を折りながら、猫一匹を含んだ来店人数を店員に伝えた。




続く



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