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第89話 Beginner's luck good luck! (4)

 

 王女が事業を始めて一ヶ月


 その日、アルウルはカーベルと直下に置いた兵士五人を伴ない自身に割り当てられた貧民窟の一画へと向かう。

 ロッサーニ・ママレルに馬を曳かせ馬上の人となる王女殿下。

横を歩く側近筆頭カーベルはアルウルに声を掛ける。


「殿下ぁ〜 貧民区の住民には適度に慈悲の言葉でも掛けてあげてください。王族たるもの人気獲りは大事ですよぉ〜」


王族に対し分をわきまえないカーベル(下級官吏)の口調にもすっかり馴れてしまったアルウル(王女殿下)

今では肩肘張らず自然体にて言葉を交わせる様にすらなっていた。


「そういうものか。カーベル、補佐は任せたぞ」


人員も増やし現在王女殿下直下の者は二十名に至る。

皆、役職は低いが良く働いてくれる為満足もしていた。

 部下に使われ部下を使う、成る程なと納得する自分に苦笑漏れる。

カーベルの此方になりますの言葉に視線を向ければ木造の長大な建物が左右に並ぶ。

貧民区。流民貧民向け長屋に挟まれた街路を馬に乗り視察していく。


「ふむ、思っていたより建物ができるのが早かったな。」


「いえいえ、まだ全然数が足りませんよ〜。日に日に貧者流民がこの区画に集まって来て居ますからね。数ヶ月もしたら陛下に殿下の管轄区を増やして貰わなければなりませんね。将来、此処は貧民窟では無くレキ女王都下町と呼ばれる様になるんですッ!」


馬上から見下ろす興奮気味に未来を語るカーベルの姿に、そうかと相槌の言葉を贈りながらも自分の中に幾ばくかの達成感を感じ自然と笑みがこぼれた。


「報告しときますね。職人組合経由で仕事を発注したので仕事の無かった職人達も喜んでました。このまま仕事の発注を続ければ職人達も確実に殿下支持に回りますし、お金が徐々にですが市井に回り始めています。此れを回収しまた仕事を回さなければなりません。」


―――結果 金が巡り 物が残り 

レキ・アルウル王女殿下の支持者が増えていく

ロレ・ミスキスキ著 富国論の一節





 長屋街を抜けた先に其れは在った。

仕事を斡旋され日銭稼ぐ者と食べる物無き貧者達、老若女が長蛇の列をなす。

レキ・アルウル王女殿下による貧民窟貧民区での朝の炊き出し。

 兵士に守られ上等な服を着た貴人に目を留め炊き出しに並ぶ者達にざわめきが拡がっていく。

 馬を曳くロッサーニが大声で、

「皆の者ッ 此度、レキ・アルウル王女殿下が視察に参られた。殿下に失礼なきようッ!」



炊き出しに並ぶ者達のざわめきがより一層大きくなった。

 馬上から見れば自分に向かって手を合わせる多くの者達、なかには涙する者まで居る様に困惑と僅かな恥ずかしさ、しかし不快では無い。

 不快では無いのだが、そう、目の前の者達の感謝の念の原点は自己の不純な想いから始まった事に後ろめたさを感じていた。



 私は この者達に 感謝される価値ある

 王女、王族で在るのだろうか


 少女にまた一つの変化がもたらされた

 王族とは下々の者に敬われて当然である

 過去の自分の思い違いを恥じる



カーベルが大声にて、

「皆の者 レキ・アルウル王女殿下の御言葉である。皆が採掘場で働いてくれる事、畑にて麻を栽培してくれる事で此度、此の地区での事業の成功に目処が立った! 皆!良くやってくれたッ! 大義であったッ!!」


カーベルの言葉に群衆から歓声が挙がりいつしか“王女様 万歳”の大合唱へと変わっていく。

 殿下、皆に手を振ってくださいとカーベルに小声で促され手を振れば歓声と万歳の声は大きくなるばかり。

暫し時待ち頃合いを見計らいカーベルが、


「今より王女殿下が此の場の視察にはいられる。皆の者、王女殿下の視察の邪魔にならぬよう心がけよッ!」


本日朝の炊き出しと新規者への労働斡旋を仕切るララメイン・アイスが駆け寄る。


「殿下おはようございます。アリス、流入者が増え過ぎた、井戸を追加で掘りたいのだけど予算まわせる?」

挨拶もそこそこに仕事の話しに入る次席官吏にカーベルは即断即決で許可を下す。

アルウル麾下、細かな礼儀作法は無駄、礼儀作法は必要最低限は不文律、何よりも結果を重視した実力主義が求められた。






「ふ〜む、なんというか、寝るだけか?これで良いのか?」

炊き出しの視察を終え出来立ての長屋内部を視察しアルウルは六畳程の板間一部屋を見て思ったままを口にした。


「問題ありませんね、食料を煮炊きする竈とトイレは共用。トイレの糞尿は肥料にします。雨風しのげて寝れれば良いのです。当面は無料で貸し出し日雇いの給金が入ったら格安にて正式契約します。」


糞尿が肥料になるのか?と考え、尋ねようものなら 殿下、あほですか と言われるのが目に見えた為、独りそういうものかと納得するのだった。

その後も長屋街の幾つかの施設を見て回る。


「此処は殿下麾下の兵士が交代で常時二人待機する屯所です。まだまだ此の地区の治安は良くありません、ましてや仕事を与え日銭を得ればそれを狙う者もでてきます。此処で待機し夜廻りをさせますし昼間の住民同士のいざこざの仲裁にも入って貰います。」


カーベルの説明に両腕を組み成る程と数度頷くアルウル。そして、

「貴君等の忠勤により一層感謝する。」

付き添う兵士に労いの言葉をかけた。

直下におかれる迄、全ての者が王女を遠くから見た程度の面識しかなかった。

今、眼前にて王女からの言葉を受け、敬礼と共に瞳を潤ませた。

 長屋街の一画に大きなテントが幾つも並んでいた。


「此方が託児所、食堂、夜は(エール)と蒸し風呂も提供しています。託児所は無料、他は格安提供ですね。夕方から夜蒸し風呂で一汗流して食事と酒、そして会話、細やかな娯楽ですね。此処で資金を幾らか回収すると共に此処でも雇用が生まれます。」


「それなりに回収できるものなのか?」


「仕事で疲れてますし十分な量の飯に一杯のエール、皆が利用してくれてますよ。後は帰って寝るだけです。翌日休みの者は遅く迄エールを飲み明かしますし。」


「ふ〜ん、ならばエール造りもやらせてみたらどうだ?」


言った側で眉根を寄せるカーベルをみて、またあほ呼ばわりされるかと、、、


「そうですね自家製エール程度から徐々に始めていきましょう。ゆくゆくは貧民区外に販売できるまでに育てたいものです。殿下、お見事です。」


 ( ° д ゜) え?

 ( °ω° ;) カーベルが褒めてる、、、のか?


腰袋から木簡を取り出しメモ書きを取り真剣に今後の予定を検討する側近筆頭官吏であった。

 その後、採石採掘場、麻畑を周り宮殿内行政区画に在る一室へと戻った。

 部屋の扉には一枚の札が掛かる。


    “女王都外周開発室”



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