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第11話 日々とこれから

 


二日に一度のペースで狼人族の集落を訪れていた。


彼等の生活を観察し、出来る事から改善していく。

 集落内、多くの若者が重藤弓を欲しタンが中心となり技術を伝えマレは自身の道具を貸し出し管理する。

 ハク達と過ごす日々、集落の者との交流を経てマレの異世界語も堪能になっていく。




「皆、手伝ってくれ、向こうの入江に水門を造る。木の板を組む簡単なやつだ。」

「水門?」

「現場で説明する付いて来てくれ。」

ういーす おう りょうかいと五人各々が返事を返す。

 




岩に囲まれた池の様な入り江。


「手頃な場所があってたすかるは。」

「海の水、貯め無くてもそこらじゅうにあるんだけど〜。」

「塩を作るのさ。」

「作ってるよ。」

「塩は十分に足りてるな。」


海沿い、漁業と採取、狩猟で生計をたてる狼人族、塩は自給できる故に今のままで良いと意識した事すらも無い。

ハク達の言葉に同意しつつもマレは。


「塩は腐らない。海水から製塩すれば何時迄も保存しておける。集落でも塩漬けは作ってたろ、この前燻製教えたろ。」

「いいよね~燻製、すもーきってやつだっけ?」


ホウが憶えたての言葉で美食を語るを皆で笑い合う。


()()()塩無くして生きられない。」

「ん、まあ、そうだわな。」

「作れば貯めておける塩。これは黒曜石の道具を持つ家を持つ服を靴を持つ同様。何かしらの有用な物を保有する事を “資産” “財産” を持つと言うんだ。」


男の言葉は彼等には難し過ぎた。未知なる概念。

ハクもセンも両腕を組みうなり思考纏める。

マク、タン、ホウに至っては考えるのを止めた。

彼等の、そんな様に苦笑し一つ一つ語って聞かせる。


「大量の塩を持っている。ある時塩が無くて困ってる奴がいる。ホウならどうする?」

「あげるよ。持ってけぇーぃ。」


ホウの言葉にマレは笑ってしまう。

お前いい奴過ぎと告げて。

ホウだけでは無い。

彼等全員が同意見。

何故なら他者とは狼人、一族は運命共同体、

故に資産財産の概念が希薄なのだ。


「じゃあ、仮定の話しをしよう。俺と皆が初めて出会った、あの日の気持ちを想いだしてくれ。」


初対面、仮に、もし、マレが塩をくれと言ったらお前達はどうしたと質問する。

質問をした途端に五人の表情が曇るのをマレはニコニコと眺める。

 そう、義兄弟となった今、言うに憚られるとばかりに。

しかし、敢えてサブリーダー的立ち位置のセンは答える。


「やらんな。」

「じゃあ兎、一兎と同じ重さの塩と交換してくれないか?」

「するする!」

「あー」

「こちらからお願いしたいくらい?」


交換条件に即答したホウ、マクとタンが同意する。しかしハクは白い顎毛を撫でさすり。


「ん〜ブラザー? 近隣の部族に塩を欲しがる奴は居ないぞ?」


ハクの言葉に、ほーそうなのかと応え、又一つ情報を得たマレ。


「じゃあ、遠くの海が無い場所に住む奴の持ち物と交換してもらえばいいさ。」


この言葉に五人は首を傾げる。

海が無い?海があり塩が採れる。

これが彼等の常識。

此処でもさらなる説明に時間を割いた。


「で、まあ、初めて出会ったあの日。俺は持ってる“知識”と、お前達の魚を交換したんだ。」


マレは自身のこめかみをトントンと指先で叩く。

 この日、資産、財産とは有形無形問わずである事を狼人の若者達は学んだ。



「皆、大量の塩を造るのに時間かからないか?時間がかかれば大量の薪が必要だろ?」       問われハクは腕組みし、まあそうだと同意する。

故に水門を造り海水の流入出を止める。

太陽の熱にて塩分濃度上げる。

海水を足し又濃度を上げるを繰り返す。


「結果、海の水よりも濃い塩水ができる。使う薪の量も減らせるだろ?」


 長い説明、授業の時間。彼等に語り聴かせる。

薪に使用する為に木を一本切る。

その木は切った者と同じ時間を経て育ち大きくなった木。

 集落周囲、息吹山の麓、生い茂る木々の一本、一本が数十年、数百年の時を経て来た。

巨木から見れば、俺もお前も、鼻垂れの若僧。


「今、俺達は無数の木々に囲まれ生きている。でもさ、先々は分らない。ハク、セン、マク、タン、ホウの子供、孫、さらに先の子供達は木が無くて困るかもしれないだろ?」

「そんな事もあるかも、、、しれないな。」


族長の息子ゆえか、自分の死後、狼人族の未来に想い馳せ神妙な顔で頷くハク。

他の四人もまた共感し。




 何でしょ?もまえらマジに考えすぎ(*´ω`*)

 ええ事やねんけどな〜( ° д ゜)


 男は詐欺師である。(自称)

 男は似非神である。(自称)


 男は天を青空を仰いだ。

 男は両腕を拡げる。まるで広大な空を抱くかの 

 様に。


 “ 狼の子よ 木々無くして栄える事無し 

  木々無くして 神 天降ること 無しを

  識れ ”    


 文明の発生発展に広大な森林は必須であった。

日本の森林保有率は高い事を男は識っている。

八百万の神々住まうは2700年の国から来た男。

五人の若者は男を眼前、彼方に見る。





 朝、昔、神社にていただいた天照大皇大神の御札を前に柏手を打つ。

 この男、意外にも信心深い。

よくある信仰はあるが宗教嫌いと言うやつであった。

 ニケも此の生活に馴れたもので御札の前に水と塩を毎朝供えるを欠かさない。

 アイ、ミミ、ミウの三人もマレに習い毎朝、天照大皇大神に手を合わせ拝む。

 日々変わらぬ朝の習慣。


「今日も浜の村へ行ってくる。」


娘達に見送られ家を出る。

此の後、ニケ達は竹籠を作る、麻布を編むなどして一日過ごす。

 不自由の中にも、確かな幸福があった。






 その日、ハク達と共に狼人族の寄り合いに参加した。

知識、技術を広める必要があり幾度目かの参加となる。

マレとしても集落の事、彼等の事、世界の事を識るには有益な時間。


「集落には何人住んでいる?」

「沢山ですな。」


族長ハマに確認するも答えは曖昧で、そもそも彼等は数と言えば壱から十程度。

狼人族の総人数は500人よりずっと多く、1000人には届かないと竪穴住居の数からマレは試算していた。


「畑は耕さないのか?」

「あれはー無駄ですな。」

「鬼人がやっておるますが。」


農耕、概念としては有る。

しかし無駄だと狼人の年配者は口々に言う。

マレは彼等の意見に反論する事無く、うんうんと頷き話を聴いた。

 判っている、農耕に発展していかない理由の予想は付いていた為。


「狼人族、鬼人族以外の一族は?または別の集落はあるのか?」

「周辺、猫人族、狸人族、犬人族、虎人族の集落はあるわな。」

「まあ、交流は細々としたもんよ。」


会話し時折、スパイス、ハーブ、シロップで味付けた熱い野草茶を啜る老人達との茶飲み話。

 茶請けに干し柿を渡せば老爺、老婆は喜ぶものである。


「んー人族、俺とよく似た身形みなりものは居るか?見た事は、あるか?」


この質問は年配者皆の表情を渋くさせた。


「どれくらい、何人位いる?」

「沢山」

「とても、とても沢山。」

「大地を埋め尽くすくらいかの。」

「何処に居る?」


一人、狼人の老人が指差す。それは太陽の昇る方角を加味すれば南方。


「遠いか?」

「ん〜わっしが若い頃なら〜歩きで三日、四日かの。」


顎に手をあて、暫し無精髭を撫でながら男は考え込んだ。


 「そこへ行ってみようと思う。」


男の言葉に寄り合いの皆がざわめく。


「ハク、すまんが留守の間、ニケ達の事を気に掛けてくれんか。家にある道具は持ち出さなければ自由に使ってくれていいぞ。」

「ブラザー、それは構わん。魚介も届けてやる。」

快諾する義兄弟、しかしセンが同意しなかった。「ブラザーマレ、俺は反対する。奴等は危険だ。」

「ほう、人族がか?」


遂に来たか。今迄曖昧にして来た核心。

彼等《狼人族》の敵意、鬼人族の窮状。


「奴等は奪う、殺す、家に火を放つを平気でやってのける。止めたほうがいい。」

センなりの忠言に沈黙し一度頷き返し。

「ならば尚の事、己が眼で確かめねばなるまい。」






 熊の毛皮で作った出来の悪いフード付き外套。

麻を藍染めした麻ズボン。

皮と木片、麻紐を組み合わせた自作のサンダルに皮手袋。

 出発の朝、自身の身形が不自然では無いか鏡の前で確認する。

現地に溶け込めるよう自分なりに考えての事。

玄関前、娘達が見送る。

出立直前、間に合ったとばかりに顔を出すハク達、義兄弟。


「ま、、、マレ! そそそ」


それは五人の中でもタンを激しく動揺させた。

静かで規則正しいエンジン音を刻む原付バイク。

土間に鎮座する原付を度々眺め、うっとりしていたタン。

限られたガソリン燃料。

月に一度エンジンをかけるのみだった原付が屋外へと出された。

 

 「か、神の奇跡を今日は見れるのか!?」


鼻息荒いタンに笑顔で頷きかえす。

義兄弟とハイタッチを交わしミミとミウを抱きしめ、アイとニケに行ってくると告げた。


「無事のお帰りを待ちます。ブラザーマレ、貴方こそ我等が部族の神。」


真剣な表情で告げるセンに照れくさくなったのか片手を挙げ応える。

跨る原付、アクセルを開け、悪路を走り出す。


「信じられン速さだ。」


時速10kmを超えた程度。

しかしハクは感嘆の言葉が漏れた。

遠ざかる背中すぐに消え去る。

初めて走り出す原付は、やはり彼等には衝撃的だった。





森の木々が疎らになる。

鬼人族の集落が見えた。

偶然にも水汲み帰りなのであろう、あの斧鬼娘を発見する。

ヘルメットの下、悪い笑顔で年頃の娘に手を振り走り抜ける。

鬼娘はといえば、驚きの余りに、その場にへたり込んだ。





木々がポツリポツリと点在する草原地帯を南下していく。

枯れ始めた草。秋なのか初冬に入ったのだろうか風は冷たい。

 狼人の老爺から聞いた、前方、山脈と山脈の切れ目にある峡谷を目指す。

走り続ける事1時間程で草木生えぬ一本の道が顔をだす。


「此処まで24km、略地図描いておくか。」


原付を停めノートとペンを取り出し書き込む。

峡谷、大昔、この地が海底であった頃の河川の名残り。

 ヘルメットを脱ぎ背負い袋から双眼鏡を取り出し覗き込む。


「途中から曲がってて分からんな。走れなくは無い。まっさに天然の要害、戦国歴史マニア垂涎ですやん」ww


翼マーク、世界最多販売の原付二輪であれば走行可能と判断し、男は一人、天然の要害を見てはしゃぐ。

峡谷を暫し走り気付く、「酸化鉄か」とつぶやいた。赤味かかった岩肌に地層、現代日本であれば、ただの景色で済ませただろう。

 男にとって日本は遠き彼方の地になった。






進む程に峡谷の絶壁が低くなってきた。

出口近くは近いと確信する。

 暫く進めば、遠く視界の先には道の両脇に森。

道には人の手が加えられている。

センの言葉、不安と憂慮。

人が徒歩で通過できる峡谷底、眼前、森を切り拓き造られた街道。

人族が多数居るの言葉。

 この先、国または準ずる共同体がある。

そして、その共同体は時折、マレが住む、あの地へと来る。

少なくとも狼人族、鬼人族に友好的では無い事。

 双眼鏡にて道の先を見るが集落らしきものは見えない。


「此処まで18kmもう少し進んでみるか。」


其処からさらに一時間走らせた所で雰囲気の変化に気付く。

 疎らになる森の木々。

ビンゴと呟いていた、覗く双眼鏡の先には木の切り株、更にその先一面は切り株だらけであった。

 急ぎ原付を森の中へと入れ、木の枝、枯れ草で偽装を施す。さらに街道沿い、木の幹に切り傷を付け目印とした。




 此処まで28km 往復140km 3Lか?

 まさに血の一滴




 男の思考は苦渋に満ちる。

この旅で消費されるガソリンは約3L。

補給の目処は無い。


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