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13.解決されない疑問ひとつ

  



 週明け月曜日。

 鼻歌を歌いながら階段出勤すると、社内は書店との文具コラボの話題で持ちきりだった。


「ねえ、佐奈。なんかいいアイデア浮かんだ?」


 開口一番尋ねてきた理衣沙に「まだ考え中」と首を振る。


 先日、高山田書店さんとの文具コラボ企画が決まった。

 兼ねてより付き合いのあった高山田さんから、集客につながるようなオリジナル文具を作りたいと相談があったのは三カ月ほど前。コンセプトの方向性と予算と、その他様々な事柄を詰めて、ようやく商品開発の段階になった。


 コンセプトは「これがあればもっと本が楽しめる!」

 単純にイメージできるものなら、可愛い(しおり)や、ブックカバーなどだろうけど、範囲はそれに限定されず、幅広くアイデアを募集するとのことだった。これぞと思うものなら、予算を無視しても構わないというぐらい、高山田さんはやる気で、高峰文具も、もちろん高山文具も全力で取りかかる、初夏の重要案件だった。


 案の締め切りまであと三週間と少し。

 すでにアイデアがある者はもっと詰めて考えねばならないし、まだの者はそれこそ自宅に帰ってもその事ばかり考えることになるだろう。佐奈にとっても久しぶりの企画物。何か光るアイデアをひねり出したいところだった。



「新商品を生み出そうとする時のドキドキ感と、迫る締め切りの焦燥感。くぅ、たまんないな!」

「若干自虐趣味みたいな気配がする物言いだね」

「俺を虐げていいのはリイサちゃんだけ!」

「はいはい。寝言は寝てから。ちゃんと考えるって言ったから、付き合ってあげてるんだよ?」

「その付き合っているが、交際を意味するならもう死んでも良いのに……」


 死んだら付き合えないじゃない。と、溜息をつく理衣沙。


 仕事が終わり、佐奈達は作戦会議も兼ねて居酒屋へ。発案は浩太で、メンバーは歩美、理衣沙、佐奈の四人。このメンバーは入社から三年以内の新人組という(くく)りで、社内でも特に仲が良い。ちなみに歩美と佐奈が三年目で、理衣沙と浩太が二年目だ。


「もっと本を楽しむためのアイテム……。定番の栞やブックカバーに何か……たとえば、機能だったりを加えてみるとか」

「機能で付加価値。デザインで付加価値は定番だから、別の角度からって事ね」

「プレゼントして喜ばれる物とかもいいね。普段、本を読まない人が読みたくなるような感じの」

「裾野を広げるという意味で、高山田さんの要望をクリア。通常文具を買わない人にも手に取ってもらえるようなのだと、さらに良いかも」

「まあ、定番であるデザイン性で攻めるのも一手だけどな」

「定番と勝負になるとかなりハードル高くない?」

「高い目標を超えるのが男ってもんだ。……ねえ、惚れ直した?」

「最初っから惚れてないから」


 ばっさりと浩太を切った理衣沙がウーロン茶を(あお)る。

 今日はまだ月曜なので、お酒は控えているのだ。


 その後もアイデア出しの隙間に雑談を交えつつ、四人は頭を捻る。

 この場では思いつきを深く考えず言葉にする事で、他の誰かが発展させるという狙いもあった。内容によっては連名で案を提出する事も許されているため出来る事である。


「高山さんとこも、こんな感じで考えてるのかなぁ」

「いっそ合同でやったらいいかも!」

「だめだめ。理衣沙が猫かぶって、話し合いにならない」

「猫はかぶってません。よそ行きになるだけです」

「つまり大人しくなるんじゃん」

「お、俺も他の男がいたら、心配で身が入らないかも」

「心配って、なんの?」

「俺のリイサちゃんが取られちゃうかもって心配」

「何度も言うけど、浩太のじゃないからね、私は!」


 プンと怒っている理衣沙も満更でもない感じ。

 これはもう少しで、浩太に落ちるかもしれない。

 佐奈は歩美と視線で意見をかわし微笑む。四人で集まる回数が減るのは寂しいけれど、その分二人の幸せを眺められるのだからいいよね、と。


 理衣沙と浩太が二人の世界に入っている間に、佐奈は食事を進めながら歩美と雑談する。

 どうやら歩美はバーゲンで良い戦績を収めたらしい。満足度に対して出費が少なかったのだと、ご機嫌だ。


「佐奈は週末どうしてたの?」

「バーゲンを横目に、ピヨ太のアニバーサリーかな」

「ピヨ太か~私は眉毛が太くなってる時の絵柄が好き」

「スナイパー顔だね」


 「多くの乙女を落とす、百戦錬磨の表情だね」と笑う歩美に「あれ、Tシャツもあるんだよ」と頷く佐奈。実は持っている。


「休日をピヨ太と共に……本望だねぇ」

「あ、ちゃんと映画も見たよ?」

「映画? 佐奈、一人で映画見れる人だっけ」


 言われて、しまったと思った時にはもう遅い。

 歩美は、じぃーとこちらの目を見て、佐奈の心を覗き込もうとする。


「佐奈。私には見える」

「み、見えないよ?」

「いいや、男の影が見える」

「ふぇ!? た、多分気のせい、かな?」


 ひっくり返った声に、理衣沙と浩太が同時にこちらを見た。


「歩美、なんか面白い話?」

「佐奈の純情の危機」

「え!? 騙されてんの!?」

「だ、騙されてなんかないよ!!」


 なんて失礼な!

 佐奈が反応すれば、それは三人の思うツボだった。


 にじにじと理衣沙が席を詰めてきて、こちらを覗き込む。


「さーな。誰と行ったのかな?」

「だ、誰って……」

「言えないような人? そうなると心配なんだけど」

「しつこくて困ってんなら、力になるし」

「いやいや……悪い人でもないし、困ってもないよ?」


 「じゃあ誰?」と三人の視線が集まり、佐奈はもう耐えきれなくなって彼の名前を口にする。三人が顔を見合わせた。


「滝川さんって、高山さんとこのだよね??」

「だとすると、仕事では好印象だな。プライベートはまだ読み切れないけど」

「顔良いのに、チャラチャラしてないとこも良いよね。真面目そう」


 口々に言い、同時に「でも、接点あった??」と首を傾げる。


「え、えっと、帰りに一緒になって」

「帰り?? 佐奈、顔見せ会行ってないのに?」

「ううんと、実はそれより前に会っていて……」

「そこんとこ詳しく」


 結局佐奈は、以前棚上のファイルを取ってあげた話をした。

 すると理衣沙が黄色い声を上げて「イケメンイベント!」と言い出し、「やっぱ素でイケメンだわ」と感心する歩美。浩太に至っては「どうやったら、リイサちゃんのそういう場面に出会えるのだろう」とわりと真剣に頭を悩ませていた。


「じゃあじゃあ、付き合ってるの!?」

「ええっと、そういう関係では……」

「でも何かは確実に始まってるよね」

「……友人関係?」

「今はそうでも発展する事もある!」

「そう思えば俺とリイサちゃんにも希望が溢れているね」

「そのまま友人って事もあるの!」


 「もちろん、佐奈の事じゃないからね?」と微笑む理衣沙に「ノー!!」と頭を抱える浩太。

 むしろ進展するならこの二人だと思う佐奈は、多くは語らず笑顔だけを浮かべた。

 そして、改めて今の状況を耳から聞いて、自分でも首を傾げる。

 佐奈にはどうして彼が声をかけてくれるのか、未だによくわからなかった。




いつもお読みいただきまして、ありがとうございます!!(*^_^*)

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