表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/23

14.字面と現実

 



 火曜日の帰り道。

 やっぱり一緒になった滝川さんと話をしていると、コラボの話題になった。

 「うちも、みんな悩んでるところ」と教えてくれた彼に、「こっちは同期組で作戦会議しましたよ」と話す。メンバーも伝えれば、ああなるほどという顔になった。


「仲いいなとは思ってたけど、やっぱ同期組か」

「滝川さんとこはどうですか?」

「うち? そうだなあ……俺が一番新人で、次は山下さんだから……五年? ちょっと同期組にはならないかな」

「そうなんですね。うちは丁度寿退社で複数人立て続けに空きが出来て、って聞いてます」

「こっちは割合、男の方が多いから空きが出ないらしい。俺が入社したのも、すぐ上の先輩が恋人の転勤について行くからって話で、急に空きができたそうだから」


 「確か海外って言ってたなぁ」と、滝川さん。


 へぇー……海外に転勤!

 なんかちょっと、別世界な感じだと言えば、「そおか? まあ、人によりけりだが、苦労はするみたいだぞ」と、渋い顔。


「でしょうね。字面では憧れますけど、実際はいいです」


 やっぱり、住むのと旅行とではわけが違う。

 自分の性格上、よほど勇気がでなければ、行く事はないだろう。

 ……まあその前に、恋人もいないけれど。


 それからしばらく取り留めのない話が続く。

 旅行ならどこへ行きたいとか、話題の食べ物を食べてみたいとか。景色のいい所を見てみたいと言えば、それなら秘境が間違いないとか。「いやいや、秘境は無理です」「何で?」と聞かれれば、佐奈は苦笑いを浮かべて「最近体力不足で」と、情けない話をする羽目になる。


 出勤する時の階段すら恨めしいのに、秘境へ続く道のりを超えられるとは考えにくい。

 むしろ、そんな状態で超えられるならそこは秘境ではなくただの観光地だ。


「じゃあ、今週末サイクリングでもする?」

「たしかに自転車はいいですね」


 体力作りの提案だろう。

 そう思って返すと、「時期としてはちょっと暑いかな。もう一ヵ月半ぐらい前の方が気分よく走れただろうに」と滝川さん。

 そうですねと頷けば「……となると、次は秋か。湖の周りを走るのも、結構良いと思うんだけど」と続く。


 たしかに。

 ジムでひたすらペダルを漕ぐより、景色が変わる方がモチベーションも上がりそう。

 佐奈は「いいですね」と笑う。ただの世間話だと思っていたのだ。――だけど。


「じゃ、秋の日も予約って事で」


 そこで、目が点になった。


 あれ?

 これって、現実の話??


 困惑する佐奈を他所に、滝川さんは「それじゃあ、秋に向けて体力作り。今週末は山にでも登ろう」と言い出した。山!!


「あ、あの!」

「ん? 週末、先約ある?」

「いや、ないですけど!」

「じゃあ、行かない? 山?」

「えーと、山は体力的に無理というか……」

「大丈夫。低い山にするし、ハイキングだと思えば」

「でも、山、ですよ?」

「小学生が登るコースもあるし、ロープウェーもある。頂上には団子屋もあって、これが隠れた名店なんだよ。茶もうまいし」


 景色も良いと思うんだけどなあ……と、滝川さん。


 楽しそう。

 思い出す様に語る彼を見ていると、そう思ってしまって。佐奈は二人で山を登る姿を想像する。


 広く作られた山の階段。ウッドチップが敷かれていて、足元はフカフカで。生い茂る木の下は涼しく、澄んだ空気と、心地よい風。そして、頂上に着いた時の達成感とご褒美――。


「……どう? 行く気になった?」

 思いふける佐奈を覗き込むようにして、滝川さんが言う。


「なりました」

「よし。決まり!」


 指をパチンと鳴らした彼はご機嫌で、佐奈も心がほんわか温かくなる。


「週末、楽しみにしてる。ちなみに明日明後日は出張だから、詳しくは金曜に――」


 続く言葉に頷いて。出張という言葉に対して、「いってらっしゃい、です」とニッコリ笑って見送った。


 すると滝川さんは何故かぼんやりして。それが不思議で首を傾げれば、彼はハッとしたように口元を手で隠して視線を泳がせる。


「?? どうしましたか?」

「いや……なんでもない」


 何でもないという感じがしないのだけれど。

 頭に疑問符を浮かべつつも、そう滝川さんが言う以上、追及できなくて。


 「やっぱり素なんだな」なんてつぶやく彼の言葉に、ますます謎は深まるばかり。

 そうこうしているうちに駅に着いて、時間切れ。あっという間の雑談時間。なんだか最近、駅までの道のりが短くなったような気がする。……本当は、もう少しお話していたいのに。


 名残惜しい気持ちを隠して、では、とペコリと頭を下げる。

 気持ち、会釈が長くなるのはやっぱりもう少しお話したいから。それでも、長く頭を下げているのはおかしいので、佐奈はもう一度ニコリと笑って彼に背を向ける。――すると。


 立ち去ろうとする自分を、彼は呼びとめた。


「……て……す」


 小さな声はアナウンスにかき消されてしまって。

 佐奈が聞きなおそうとする前に、意識がその内容に(さら)われる。どうやら来たのは滝川さん方面の電車らしい。これは引きとめてはいけない。


「あ、乗って下さいね! 次まで長いですし!」

「あ、ああ。でも」

「続きは金曜日に!」


 早く早くと急かせば、滝川さんが後ろ髪惹かれるようにして、ホームへと向かう。

 ……へんなの。もう少しお話したいと思っていたのはわたしのほうなのに。


 あ、でも、もしかして、滝川さんもそう思ってくれたのかな。

 そうだったら嬉しいな。


 佐奈はご機嫌で自身のホームへと向かう。



 ――会えなかった二日間は少し物足りなくて。

 早く週末になればいいのにと、思わずにはいられなかった。



◇◆◇



 そうしてやってきた週末――。


 結論から言うと山はやっぱり山だった。

 ハイキングコース? 小学生が登れる山? いやいや。すでに体力の落ち始めた(!!)二十三歳には(まご)うことなき、山。低かろうと、高かろうと、山は山。


 コースとしては五種類あって、それぞれ『景色を堪能、お散歩コース』とか名前がついているのだけど、簡単に分けると、『小学生』『一般』『少し腕に覚えあり』『登山(初心者お断り)』そして『ロープウェー』だ。


 一応体力作りが目的なので、『ロープウェー』は除外。

 手始めに『小学生』コースに行こうかと思ったら、ちょうど前を歩いていた家族連れがそちらへと向かった。人数は四人。大人二人と子供二人。ただし、子供はまだ小学生に見えないほど小柄な兄妹だった。……一気にそちらへ行きづらくなった。


 こちらは一応大人二人である。

 元気に歩いてゆく兄妹の軽い足取りを見て、佐奈は見栄を張った。


「『一般』コースにしましょう」

「OK」


 最初はよかった。

 ウッドチップを踏みしめる感覚を楽しみながら、自然を満喫。聞こえる鳥の声。辺りを見回してその姿を見つけられたら嬉しいし、たとえ見つけられなくてもどんな鳥なのだろうと思いを馳せれば、それも楽しかった。滝川さんは野鳥の本を持っているらしい。それも鳴き声CD付き。


 なるほど。ここで聞いた声を覚えて本を捲れば、帰ってからも楽しめる。

 そんな風に景色を見ながら進めば、幅の広い階段を登っている事すら忘れていた。


 だが十五分も歩けば、さすがに足も重くなってくる。

 重くなって気が付くのは、今までずっと登っているという事。しかも階段を。直面した事実に、佐奈の体力は一気に失われた。やっぱり平地が一番だ。


 頬を上気させ、軽く息の上がった状態で滝川さんの後を追う。

 彼はこちらの足取りを確認しながら立ち止まったり、歩調を緩めたりしてくれている。会話は必要最低限。しゃべると疲れるので、ありがたい。


 佐奈は額の汗を拭った。

 木々のおかげで直射日光は遮られているが、やはり暑い。


「水分補給しようか」

「そうですね」


 汗をだらだらかくのは嫌だが、熱中症の方が怖い。

 二人はお茶を飲んで、ホッと息をついた。滝川さんがすぐに飲み物をカバンに放り込む。


「――さあ、行こうか」

「え。もうですか?」

「あんまり休むと、動きたくなくなるよ?」

「たしかに」


 納得しつつも、現実を見てげっそりする佐奈を彼は笑う。


「もう半分は超えているから、あと少しだよ」

「は、半分!? あと半分もあるんですか!?」

「うんん。もう、半分しか(・・)ないよ?」

「言い回し変えても距離は同じ!」

「あはは。気の持ちようだって」


 あくまでも「すぐだよ、あっという間だよ」という滝川さん。ポジティブすぎる。


 佐奈は見習うべく頭を捻り、一拍の後、ポンと手を打つ。

 これは暑い時に「暑い暑い」というと、余計暑く感じるって話と同じ案件なのだろう。うん、きっとそう。

 自らを納得させ「そうですね、すぐです! す・ぐ!!」と言いながら佐奈も歩き始める。途中、声を出すと疲れる事を思い出し、心の中だけですぐすぐ言っていた。それはいつの間にか歌となり、既存のメロディーに即興で歌詞を乗せて、脳内で歌い出す。


 すぐ、すぐ、すぐ~ あっという間だよ♪


 タイトルは「すぐの歌」。捻りなし。





いつもお読みいただきまして、ありがとうございます!!


☆更新予定☆

9/14(土)~16(月)お休み

9/17(火)更新予定


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ