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55話 種明かし

 俺はできうる限り、ヴェラドンナから距離を空ける。


 さっき、俺の剣を手で止められた時、あいつとかなり接近していた。


 おそらく、あの距離ってものが、極めて重要な意味を持つ。


 そして、これでもかというぐらいに離れたら――

 ヴェラドンナに向けて、疾走する!


 どんどん加速させて、あいつの手前で最高速度になるように走る。


 いっそ、ぶつかるぐらいでもいい。


 あとは剣を振りかぶって――

 横薙ぎに一気に払う。


 ブウウウゥゥゥンッッッ!


 俺の一撃はヴェラドンナのメイド服にちょうど触れたところで止まった。


 あいつに防がれたからじゃない。


 俺が止めたんだ、自主的に。


「実戦ならお前が死んでたな」


「そうですね、私の負けです」


 最後までポーカーフェイスでヴェラドンナは負けを認めた。


「ご主人様、すごいわっ!」


 ミーシャが駆け寄ってきて、俺に抱きついてくる。

 それで、俺の頭をいい子いい子するように撫でる。


「ありがとな。でも、審判のこと、完璧に忘れてただろ……」


「あ、そういえば、そういうこともあったわね」


 本当に忘れてるのかよ……。


「いや、旦那、本当にすごいぜ。ちょっと、惚れ直しちまいましたぜ」


「惚れ直すってどういう意味?」


 ジト目をレナに向けるミーシャ。


「あ、い、今のは言葉の綾ですぜ……。深い意味何もないです……」


 慌ててレナも弁明する。ミーシャの強さと怖さはレナもよく知ってるだろうからな……。


「私が言うのもおこがましいですが、私の戦術をすぐに読み取るとは思いませんでした。感服いたします」


「うん、こっちも元暗殺者に褒められるのはうれしいよ」


「旦那、あの剣を手で止める技がわかったってことですかい?」


「まさしくそういうことだ」


 俺はうなずく。


「せっかくだし、種明かしをしておこうか。ヴェラドンナ、答え合わせをしてもらってもいいか?」


「かまいません。秘密に徹するなら、あのような技を行いはしませんし」


 許しが出たので話すとしよう。


「ヴェラドンナが俺の剣を止めたのは、ものすごい怪力があったからでも何でもないんだ。いや、もちろん握力は無茶苦茶あると思うんだけど」


 きょとんとしてるレナ。


「あの時、ヴェラドンナは俺が剣を振るう瞬間、すぐそばに来て、剣が動き出す瞬間にもう剣をつかんでたんだ」


 普通の冒険者なら近づく時点で無理かもしれないが、暗殺者の動きならできなくもない。というか、できるから一流の暗殺者なのだろう。


「すごい勢いで向かってくる剣を止めるのは、おそらくヴェラドンナでも不可能だ。だけど、動き出す前ならやりようはある」


 ゆっくりとヴェラドンナも首を縦に振った。


「ケイジ様のおっしゃるとおりです。あれは実質的には武器無効化の技なんです」


「おそらく実戦だと剣を手で止められたと思った瞬間、敵に隙ができる」


 事実、俺だって混乱したからな。


「ならば、すでに接近してる暗殺者は相手を殺して依頼終了って流れになる――そんなところだろ?」


「そういうことですね」


 答え合わせはマルだったらしい。


「なお、ほかにもいくつかの手段は使っていました。序盤に戦闘に集中してないことをほのめかしたのは、ケイジ様を苛立たせて、正常な判断力を奪うためです。夕飯の献立は考えていませんでした」


「すべては意味のあることだったんだな」


 やはりヴェラドンナは恐ろしい相手だ。


 ――と、ヴェラドンナのおなかから、


 ぐぅぅぅぅぅ~~~~


 と間の抜けた音が響いた。


 わずかにヴェラドンナが頬を赤くした。


 いつもと違って、恥ずかしがっているようにも見える。


「模擬戦といえども、真剣にやるとおなかがすきますね……」


「そうみたいだな。もしかして、今のも隙を作る技か?」


「せ、生理現象です……。おなかが鳴ることまでコントロールはできませんので……」


 おいおい、クールキャラが照れてるのって、なかなかかわいいじゃないか……。


 けど、すぐにミーシャがまたジト目を作って、俺の顔をのぞきこんでくる。


「ご主人様、ヴェラドンナもかわいいところがあるなとか、そういうこと考えてなかった?」


「かわいいって思うぐらいはいいだろ……。そんなの浮気じゃないし……」


「うん、そこまではいいわ」


 さすがに許された。


「ヴェラドンナ、あなたもご主人様の熱い視線を感じたら、すぐに私に報告しなさい」


「はい、ミーシャ様、かしこまりました」


 なんか、俺の包囲網が形成されようとしてるな……。


「俺が愛してるのはミーシャだけだって」


 こういう時はちゃんとミーシャの頭を撫でてやる。


「そ、それぐらい、わ、わかってるわ……。はぅ、もっと撫でて……」


 ミーシャの表情がとろけた。


 ミーシャを心配させないようにこれからもちゃんといちゃいちゃしよう。それがご主人様の義務だ。



 その日の夕飯はカロリーたっぷりのグラタンになった。お皿のサイズもなかなか大きい。


 おそらくだけど、ヴェラドンナもおなかがすいてたんだろう。

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