40話 レナの正体
ちょっと時間の関係でいつもより少し早くアップします!
レナが男の前に顔を出してしまった。
最悪だ! これで盗賊の首領だとばれたら、追及の手が伸びることになる。
ミーシャも男の動きを注視している。
これですぐにレナを攻撃するようなら対処するしかない。
しかし、男に殺気みたいなものは宿らなかった。
むしろ、レナの顔を見て感極まったといった様子で、目さえうるんでいる。
「お嬢様!」
男が叫んだ。
「ガイゼル!」
レナもその男の名(と思われるもの)を呼んだ。
えっ? どうなってるんだ?
「どうやら取り越し苦労だったみたいね」
ミーシャが猫のままため息をついた。
「やれやれだわ」
◇ ◇ ◇
俺たちはそのガイゼルという男をもてなすことにした。
少なくとも敵でないということがレナの話ですぐにわかったからだ。
「ミレーユお嬢様は昔からおてんばで礼儀作法などを無視して武術を身につけられ、ついには15歳の時に許婚との結婚が嫌だと言って、屋敷から出奔なされました」
ガイゼルが語った。
「つまり、レナの本名はミレーユで、ライカンスロープのいいところの出というわけね」
ミーシャがまとめたが、それで正解なのだろう。
「礼儀作法は習わなかったけど、料理とかは好きだからけっこうやってただろ」
「料理は使用人が作りますので別によいのです。たしかにお客様をもてなすお茶の淹れ方ぐらいは習うべきですが……」
なるほど。レナが料理が得意だったわけもわかった。
「私はもともと冒険者になりたかったんだ。それで街に出たんだけど、気づいたら盗賊になってたな。金持ちや貴族の家にばかり入ったのはあいつらが悪どいことをしてたのを知ってるからさ」
「お父様は誠実な方ですよ。もう、屋敷に帰ってきてくださいませ。お父様が心配なさっております」
ガイゼルのガタイがいいのは、悪漢などが当主や一族を狙ってきた時に戦うためらしい。
「嫌だね。私は旦那と姉御に命を助けられた恩義があるんだ」
あっさりとレナは突っぱねる。
「しかし! いくらAランクの冒険者の方といっても、その妾というのは家の名に傷がつきます!」
ガイゼルの言葉に俺はむせた。
あと、レナは顔を赤くした。
「おい! 俺は妾だなんて思ってないぞ!」
「…………では、本当に使用人としてだけ?」
「当たり前だ!」
「ねえ、ご主人様」
獣人になっているミーシャが怖い顔をしていた。
「まさか、レナと間違いがあったりしていないかしら? していないわよね?」
「ない! 神に誓って、ない! だから安心してくれ!」
「ふうん、じゃあ、レナにも聞いてみようかしら」
ミーシャ、ガイゼルを敵かもしれないと認識していた時より怖いな。
「本当に何もないですって! 姉御を裏切るようなことするわけないじゃないですか!」
「そう。つまり、使用人として堅実に生きていたということね。評価するわ」
今後とも、何があってもミーシャを裏切ることはするまい……。
「ということだ、ガイゼル。私は今の生活が気に入ってる。屋敷に戻る気持ちもないんだ。帰ってくれ」
「ああ……そんな汚い言葉づかいになられて……」
まあ、いいところの出だったら、そうだろうな。貴族が姉御とか絶対に呼ばないだろうし。
でも、家族が不和っていうのもあまりいいものじゃない。
ここは家長として提案ぐらいはしておこうか。
第三者の意見のほうがレナも聞きやすいだろうし。
「あのさ、横で聞いてたんだけど、とりあえず折衷案をとったらどうだろう?」
「と言いますと?」
さすがにこれだけじゃ何かわからないか。
「一時的にレナが実家に帰るんだ。それで家族と会う。それから、またここに戻ってきたらいい。一時的な里帰りだな。二度と顔を合わせたくないってほどじゃないんだろ?」
レナは困ったような顔をした。
「それはそうですけど……会ったら何を言われるか……」
「そこはちょっとは我慢しろ。勝手に家を出たこと自体はいいことじゃないんだから」
「そうですね。まずはご家族とお会いするのがいいかと」
ガイゼルも賛成してくれたようだ。
「私としても会ってもらいたいわ。でないと、あなたの親の悲しむ顔を思い出して、罪悪感を覚えちゃうもの。これは使用人に対する命令」
「姉御もそう言うんじゃ断れないな……」
レナも納得したようだ。
「わかった。一度、親に会ってきますぜ。ただし――」
なんだ、「ただし」っていうのは……。
「せっかくなんだし、旦那と姉御も来てくださいよ。一人で行くのは心細いですしさ」
なるほど、そう来たか。
「もちろん、こちらとしてはかまいませんよ。ミレーユお嬢様の命を救ってくださったお方を歓迎するのは当然のことですから」
じゃあ、お宅訪問といくか。
新展開、次回も続きます!




