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19話 新居決定

ミーシャとの新居決まりました!

 こうして、決闘に勝ったおかげで俺たちの貯金は合計600万ゲインを超えた。

 ミーシャがLv71であることを黙って決闘したのはおとなげない気もするが、決闘は死ぬことだってありうる命のやりとりだ。

 なので、生半可な覚悟で受けてしまったあいつらパーティー側にも問題はある。


 罰金300万ゲインも5人で割ればひとり60万ゲイン。日本円で600万円。

 再起を誓って耐えられる額ではあるだろうから、我慢してくれ。


 そして、俺たちは王都のあたりでいい家がないか探すことにした。

 ちなみにミーシャも獣人の姿で行動している。意見を言う時に猫のままだと不自然だからな。


 不動産を扱っている店の主人は、こちらがいかにも冒険者という格好で来たので、最初うさんくさそうな眼をしていたが――

「ちょっと前にゴールドスライムを倒して、数百万ゲインあるんだ」

 と言うと、急に態度がやさしくなった。

 実際、冒険者の中には犯罪者と大差ないようなのも交じっているから、これはしょうがない。


 まず、繁華街から近い、高い物件から不動産の店の主人は案内した。

 買い物に便利だし、広い家である必要もないので悪くもないかなと思っていたが――

「ちょっと、ごみごみしすぎているのは嫌だわ」

 とミーシャが言ったので、ちょっと郊外を見ることにした。 


 郊外の分、広い物件も多いし、これはこれでいいな。

 日本の家よりは相対的に広いところが多いので、ミーシャと俺だけなら、面積的には持て余すぐらいだ。


 そして、物件の中でもとくに豪華なところがあった。

 ちょっとした貴族が住んでもおかしくなさそうなほど、バルコニーの手すりとか細部の造作まで手が込んでいる。

「あの、これ、600万ゲインじゃ買えないんじゃないですかね……」

「いえ、400万ゲインですよ」

 不動産屋の主人の額は想像以上に安かった。


 とはいえ、安いということは何か事情があるということだ。

「ぶっちゃけ訳ありですよね?」

 どうせ聞かれると思っていたのか、主人もあっさり話しはじめた。


 なんでも、ここはもともと貴族が末っ子の娘に建ててやった屋敷らしい。

 末っ子となると、あまりいい貴族との婚姻も難しいから、娘に付加価値をつけてやるために、こぎれいな住宅を建ててやったのだという。

 だが、娘は同じような境遇の貴族の四男と恋愛をしたものの、その男に裏切られて、屋敷に引きこもるようになった。

 そのまま、健康を害して、十七歳で死んでしまったという。

 物件はそのまま、空き家になって不動産屋の管理するところとなった。


「それゆえ、誰かが住み着いても、幽霊が出てきて追い出してしまうんです」

「いわゆる除霊的なことはできないんですか?」

「高位の僧侶の方ならば可能かもしれませんが、王都の教会に打診したところ、人間を呪詛するほど悪質なものでもないし、霊が納得するのに任せましょうと言われまして……」

 つまり、恋やぶれた小娘の霊を排除するのは大人げないじゃないかということか。

 

 その話の間、ミーシャはほとんど話を聞かずに部屋のチェックをしていた。

 明らかにこれまでの物件より気合が入っているように思えた。

「うん、決めた。ご主人様、ここにしましょう!」

「一応確認しておくけど、幽霊が出るんだぞ」

「ここ、今までで一番部屋数が多いから、絶対に住んでて面白いわ」


 ああ、そこは猫目線なんだ。

 猫って、新居に移ったばかりの時は慣れてなくて落ち着かないという顔をしているが、一度慣れると、部屋の冒険をはじめたりするものだ。


 かつて実家で買っていた紅茶色の毛並みをした猫(丸助という名前だった)も、新居に移った直後、そういう行動をとっていた。

 いないなと思ったらタンスの上にいて、家族を見下ろしてたり。

 押し入れの中に潜んでたり。

 本棚の空きスペースにはまってたり。

 ベランダから屋根の上に出たり。

 基本的に行ける場所はすべて試してみる。


 猫というのは犬と比べると、野良猫でもテリトリーはけっこう狭いが、その分、自分のテリトリーは調べ尽くさないと気がすまないのだろう。

 なので、これは猫の気質なんだろう。


「それに、この屋敷、貴族が住んでただけあって、ちゃんとお風呂もあるわ」

 たしかに庶民の家だと、風呂はないのも当たり前の世界だからな。

 家の前で行水してる子供も見たりしたが、あれは暑い時期はよくても寒そうだ。


「過去に呪い殺されたりした人なんかはいませんか?」

 念のため、不動産屋の主人にも尋ねる。

「いません。物音や話し声が怖くなって、出ていった人が3組あっただけです」

「じゃあ、買います」

 こうして、俺とミーシャ、二人での新居での生活がはじまることになった。

 幽霊を入れると、もうひとり増えちゃうんだけどな。


 まず、宿のおかみさんとルナリアにあいさつに行った。

「これまで本当にありがとうございました」

「とてもあたたかないい宿だったわ」

 俺もミーシャも長らくお世話になった。

「なんだい、辛気臭いことはよしとくれよ。遠い町に移るんでもないじゃないか」

「また、ごはんでもご一緒しましょうね」

 おかみさんもルナリアも俺たちの門出を祝ってくれた。


「ルナリアもぜひ遊びに来てね。あなたはとてもいい子だもの」

 ミーシャもルナリアにはやさしい。

「でも、ご主人様はあげないわよ」

 そこはきっちり釘は刺すんだな……。

「私もミーシャさんから奪う勇気はありませんよ」

 ルナリアは冗談みたいに言っていたが、けっこう本心かもしれなかった。


 そして新居生活初日。

 日本での暮らしと比べると生活に必要なものは限られているので、たいして準備も必要なかった。


 問題は幽霊が出るということだが、害がないなら我慢す――

 引っ越しそうそうミーシャが見つからない。


 探すと、猫の姿でバルコニーの前をじっと凝視していた。

 あっ、ワンルームマンションでもよく見た光景だ。

 とくに景色を見ているわけでもないだろうに、ずっと窓の外を見ていたりした。

 何もないところをじっと見ているというやつ。

 猫がとる謎行動の一つだ。


 まあ、今のミーシャは言葉がしゃべれるし、何をしてるか聞いてみてもいいんだけどな。

 ――と、どうも何かしゃべっているようだ。

「へえ」「ふんふん」みたいなあいづちが聞こえてくる。


「あなたも大変だったのね」


 これ、もしかして。

 幽霊としゃべってるのか!?


 ていうか、窓の外を見てる猫って――

 霊的なものを見てたのか!?


 俺は何も言わずに一階の掃除に戻ることにした。

 それから一時間ほど立って、猫のミーシャが降りてきた。


「幽霊と仲良くなったわ」

「そうか、よかったな……」

「猫好きな子だったみたいよ。だから、追い出さないからずっとここにいてくれって」

「たしかに幽霊にだって猫好きの奴いるよな、そりゃ!」


 これから先もミーシャがバルコニーの外をじっと見ていることが時たまあるが、

 俺には何の問題もないので、とくに何も言わずにしている。

 個人的にはあまり幽霊と仲良くなりたくないんだ……。

次回は夜11時更新の予定です! 新居でいちゃいちゃします!

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