149話 ボスから聞き出す
道をまっすぐ行って、十字路を右に。
言われたとおりに行くと、たしかにいかにもボスがいるという大きな扉があった。そこだけ造作が凝っているので、大物がいるのはすぐにわかる。
「さて、とっととやっつけるわよ。ドライアドを人質にでもとられてもまずいしね。こういうのは先手必勝」
そこはミーシャの言うとおりだと思った。この森には非戦闘員が多すぎる。
パーティ内で最も打たれ強いミーシャが扉を開けようと前に立った。ボスの扉で罠を仕掛けることもないだろうから、レナのチェックも省く。
すると、ミーシャが扉を開ける前に、その扉が開いた。
出てきたのは、筋骨隆々の肉体をさらけ出した巨体のモンスターだった。
下半身は獣みたいな毛で覆われている。
「なっ、お前たち何者だ!? この騒動の首謀者か?」
大物の風格を漂わせたモンスターが、あっけにとられた顔をしている。といっても、人間ほど表情豊かじゃないというか、常にいかめしい顔つきだが。
「どうやら、異常に気付いて向こうから出てきたようですね」
淡々とヴェラドンナが解説をした。暗殺者はいつでも落ち着いている。
「ミーシャ、ここは頼む」
「はいはい、任せて」
顔をちょっと後ろに向けて、ミーシャが笑った。
こっちとしては向こうが困惑しているのを狙うのが正しい。そもそも奇襲しているのだから、今更正々堂々も何もない。
「すぐに終わらせるわ。ドライアドを解放してもらうわよ!」
まさに猫みたいに大きく、モンスターの顔に飛びかかると、ミーシャが猫ぱんちを一発加えた。
倒れるところまではいかなかったが、モンスターの体が大きく後ろによろめく。
その隙に、今度は利き腕?じゃないほうの左手で猫ぱんち。こっちは威力は小さめで、むしろリズムをつかうためといった趣が強い。
そして、再度、右からの猫ぱんち!
後ろにいた俺からでも大きな音が響いた気がした。
完全に決まったらしく、モンスターの意識が抜けたようになった。そのまま、後ろに、大きな地響きを立てて、倒れていく。
「さて、とどめを刺そうかしら」
ものすごく悪役な台詞をさらっとミーシャが言った。
でも、それは少々もったいないと思った。
「ミーシャ、待ってくれ。もう少し話を聞けるかもしれない」
俺の言葉にミーシャはぴたりと手を止める。見た感じはきゃしゃな手なのに、暴力的な力があるんだよな……。
「どういうこと? ボスの居場所を聞く必要ももうないし、頭目が消えれば残りの連中も霧散するでしょ」
「実際のところ、魔族の作戦や計画を魔族の口から聞いたことはないだろ? 幹部クラスからいろいろ聞いてもいいんじゃないか?」
それに敵はもう戦意喪失してるようだし。
戦闘中に敵を倒すのは当たり前なことだからどうでもいいけど、無抵抗な奴をフルボッコにするのは、あまり気持ちいいものでもないしな。
「そうですね。よいご提案ではないかと思います」
ヴェラドンナの援護射撃も得た。
「わかったわ。まあ、この森から退散してもらえれば、ひとまずのクエスト解決ではあるしね」
ミーシャも納得した。
そのまま、倒れているボスの腹に馬乗りになる。
余計なことをしたら、すぐにぶん殴るぞという意思表示だ。
「話は聞こえてたかしら? こちらの質問に全部答えたうえで、このドライアドの森から撤収しなさい。でないと、搾取されてたドライアドの分だけ、苦しみを味わわせて死んでもらうわ」
「わ、わかった……こちらの負けだ……」
かなりのダミ声でモンスターはしゃべりだした。こいつ個人の特質というよりは大きなモンスターの声はそうなるのか。
少なくとも、ぺらぺらしゃべれるわけだから、上級モンスター、つまり魔族と呼べる存在なんだろう。
その魔族の話だと、俺たちが倒したボスのほかにボスがいる拠点が八か所あるらしい。
「けっこうあるわね……」
「だが、お前たち王国の中にあるのは二つで、ほかは領土外ではないか……」
だとしたら、俺たちの頑張りでけっこう王国の治安は改善できていることになる。
その二箇所の場所自体はこちらでも把握していることだった。機密書類らしきものを見たからな。
どうやら、拠点が大幅に減って、魔族の大本営でもかなりあたふたしているらしい。当たり前と言えば当たり前か。
「あなたたちの根拠地の地理はあんまりわかってないの。全部教えなさい」
「そこまでは、ちょっと……」
「これだけ情報漏らして、どっちみち帰れないわよ。すべて吐いて、どっか違う森で細々と生きていきなさいよ。こっちだってすべての土地のモンスター掃討作戦なんてしないんだから。それで魔族の国家が滅んでほとぼり冷めた頃に帰りなさいよ」
「なっ……。お前たち、魔王様に勝つつもりなのか……? こんな小さな砦一つとはわけが違うぞ……」
ミーシャにボロ負けした後でも、まだこっちの言ってることが信じられないらしい。それもしょうがないよな。冒険者数人で国家を滅ぼすと言ってるわけだし。
だとすると、日本のRPGってけっこう無茶苦茶なことやってるんだよな。




