126話 ミエントの町到着
街道の途中にある小さな町に着いたので、そこのギルドに山賊を倒したことを報告しておいた。ずっと山賊にびくびくさせるのも悪いしな。
黄金に輝くSランク冒険者の腕章が目立って、すぐに身元はばれた。ミーシャとレナが町では人の姿に戻って、パーティーとして目立ったせいもあるかもしれない。獣人が二人もいるパーティーっていうのはけっこう貴重だろうし。
ずっと身分を隠しててもよかったんだけど、犯罪者でもないのにギルドでこそこそするのもおかしいし、冒険者登録を誰一人してないパーティーが旅をするというのも、それはそれで不自然だ。
「これが山賊の持ち物です。ご検分ください。なお、死体は街道脇の森にあった池に沈めています」
全部一人で片付けたヴェラドンナが説明をした。
受付の眼鏡の純朴そうなお姉さんは緊張しながら聞いていた。普段はそんな規模の大きな仕事について話をされることをもないんだろう。
「なるほど……。まさか、あの山賊団を一人で……。それでお名前は……?」
「ヴェラドンナです。あっ、そうか、冒険者登録はしたことがありませんね。必要でしたらしておきましょうか」
ヴぇラドンナは全然興味なさそうに言った。出世欲とか全然ないんだろう。
「わかりました……。では、Sランクパーティーの方に申し訳ないのですが……Dランクからということで……。それ以上の権限がこのギルドにはございませんので……」
「はい。それでけっこうです」
終始、淡々とヴェラドンナは応対した。
「どっちがギルドの職員かわからないわね」
一部始終を見ていたミーシャが言っていたが、たしかにそんな感じだった。
これでメンバー全員が冒険者になった。
夜はその町の宿に泊まった。俺とミーシャ、レナとヴェラドンナで、二部屋を取った。夜に近所の酒場で情報収集をしたが、年寄りの話だと昔と比べると森に出るモンスターの数なども増えてはいるということらしい。ただ、その変化は長く生きている者にしかわからない範囲だということだ。
「これって、けっこう悪質かもしれないわね。魔王は策士なのかも」
「ミーシャ、それはどういうことだ?」
酒をちびちびやりつつ、訪ねる。
「一気に王国を侵略するだなんて空気を見せれば、王国も全力で防ぎに行くわ。けど、少しずつ、少しずつ時間をかけてモンスターの影響力を強めていけば、人間は油断する。危機が国の次元で迫ってるわけじゃないから、足並みも揃いづらいだろうし」
「三百年先には魔王が一円を支配しているかもしれないってことか」
「そういうこと。もし、魔王が長命な奴ならそういう戦略をとる可能性はあるわね」
なんか、セコい気がするけど、確実に征服を狙うならそういうことはあるかもな……。
いちかばちかの侵略戦争をするよりは、王国が軍隊を出して排除したりしないような重要度の低い土地からモンスターをのさばらせていく手法のほうがいいかもしれない。実際、若い世代にとっては森にモンスターが潜んでいるのは一種の常識になっていて、そこに危機感はないようだ。
今のうちに魔王を倒すほうがやっぱりいいのかもしれない。
翌日は朝から街道を北に進んだ。ミーシャとレナはまた動物になって移動する。ミーシャは途中から横着して、俺の肩に乗ってきた。
「楽するなよ」
「お願い、ご主人様」
まあ、猫と触れ合うのは当然嫌いじゃないから、ミーシャも買っていたわけだから、しょうがない。
そのあとも小さな街道の町を抜けていって、平野部に出たところで、ミエントの町にたどりついた。
まだ昼頃に到着したので、モンスターについて情報を聞いてまわることにした。
これまでの小さな町と比べると、人口も多いのでにぎわっている。王国北部では中心的な都市らしい。商店は当然のこととして、王都に本部がある商会などの支部が置いてあったりする。
冬に雪が積もるからなのか、屋根はどこも急な角度で、日陰になってるところあたりに土で汚れた雪が残っていた。
モンスターについて、住民はこれまでの土地より危機感を持っているらしい。町の西側にあるミエント山というふもとにモンスターが集まっていて、ミエント山への道はほぼ閉ざされてしまっているという。
そこでの山野草などの採取などができなくなって、当時は経済的にも打撃になったようだ。
老人の話だと、それも昔のことで、今では町の付近で栽培できるものは栽培して、対応しているらしい。そういう山野草などが山でとってきていたものと知らない世代もいるという。やっぱり、ここでもモンスターと共存とまでは言わないが、モンスターの存在が自然の出来事みたいになっている。
ミエントのギルドに行くと、ミエント山の解放という常時出ていそうな依頼があったので、ギルドの人間にはそれを受けると言っておいた。腕章を見たら、やっぱり驚かれた。
その晩、宿でミーシャと抱き合いながら眠った。
「また、明日から本格的な戦いの日々になりそうね」
「とことん、モンスターをビビらせてやろうぜ」




