仲良し3人組<食堂>
〈食堂〉
「あ……おはよう!」
「ん……おはよ……うっ!」
食堂に入った途端、琴梨が僕のお腹に頭突きをしてきた。
「琴梨! 抱きつくなんて、羨まし……じゃなくて、痛がってるからやめなさい!」
夏美が怒りながら琴梨を僕から引き離す。
お腹をさすりながら、琴梨を見る。
小柄な体型で、髪は短く切っている。無邪気な笑顔と行動から、まだ幼さを感じる。
首にしているのは、緑色の首輪。
首輪の色でその人がどういう【力】を持っているのかが分かる。
緑は、常人より何倍ものスピードで動ける【力】だ。
「えー」
琴梨は全然反省してないようだ。
「いてて……抱きつくのはいいけど、助走付けて頭から来るのはやめて欲しいな」
苦笑しつつ、琴梨に言うと、夏美がぐいっと顔を近づけてきた。
「抱きつくのはいいのか!?」
「夏美? ……目が怖いよ」
「はいはーい。二人とも、見つめ合ってないで、ご飯食べよ?」
琴梨が僕達の間に入り、僕の手を引っ張ってテーブルに連れていく。
「うん……今日は何?」
「ご飯とー、お魚とー、味噌汁とー……私が作った玉子焼き!」
嬉しそうに琴梨が献立を発表する。
「おぉ、今日も作ってくれたんだね」
「美味しいって、にーくんが言ってくれたから」
頬を赤くさせながら、琴梨が上目遣いでこちらを見てくる。
「ありがとう」
頭を撫でながらお礼を言うと、えへへぇ、と幸せそうな声を出した。
「わ、私だって、今日はデザートを作ったんだぞ」
自信満々に夏美が胸を張る。
この施設では、自分で食事を用意しなければならない。
常備されている材料を使って自分で作るようになっている……でも、夏美は料理経験0のはず。
「そ、それは楽しみだ」
口ではそう言いつつ、不安の方が大きかった。
「ごちそうさま」
琴梨が作る玉子焼きは少し甘めで、僕は好きだ。
形が崩れているのは、愛嬌と言っていいだろう。
きちんと完食して、手を合わせる。
「じゃー、次はデザートだな……はい、食べてみてくれ」
夏美が白いお皿を3つ持ってきて、一つを僕の前に置く。
「これは……何?」
赤くて丸い大きなものが、透明な膜に覆われている。
「にーはトマトが好きだろう? だから、トマトのシャーベットを作ってみた」
自信満々に夏美が言った。
カチン。カチン。
「かっちんかっちんだよ?」
琴梨がスプーンを氷にぶつける音が響く。
「うっ」
困ったように夏美はそっぽを向くが、琴梨は更に言う。
「シャーベットって、こんな氷の塊の事を言うんだっけ?」
「うるさいうるさいうるさい! ちょっと固くし過ぎただけだ……あ、味は完璧なんだからな!」
顔を赤くして、夏美がキッとこちらを睨んで来る。
早く食べろ、ということだろう。
ペロペロ。
「表面は……何の味もしないね……」
「トマトを水につけてそのまま凍らせた、みたいな感じ?」
二人で感想を言うと、夏美の表情が真剣になる。
「シャーベットって、そういうものじゃないのか?」
「違うと思う……」
呆れつつ僕が答える。
どうやら勘違いをしていたようだ。
シャーベットなんて誰も作らないもんね。
ガリガリガリ。
とりあえずかじっていると、ふと、夏美の指に絆創膏が貼ってあるのが見えた。
「ん? その指、どうしたの?」
「あぁ、これ? な、なんでもない」
夏美が慌てるのを見て、琴梨が何かをひらめいた。
「あー……まさか、トマトのヘタを取るのに包丁使って、その時指を切ったとか?」
キッと琴梨を睨んだかと思うと、慌てて肯定しだす。
「そ、そう! 実はそうなんだ」
目を合わそうとしない。
「全く、気を付けないとだめじゃないか……ほら、見せて」
夏美の手を取ると、ボッと、夏美の顔が赤くなった。
「あ……だ、大丈夫……だ、このくらい」
「ダーメ。僕達の為にデザート作ってて怪我したんだから、治させて」
手を振りほどこうとするのを、押さえて、じっと夏美の目を見る。
視線をキョロキョロさせていたが、ついに根負けして、コクリと首を縦に振った。
僕は目を閉じて意識を集中させる。
白い光が手に集まり出す。
「んっ」
夏美のもどかしそうな声が聞こえる。
ふっと、脳裏に映像が浮かんできた。
「よし、にーの為に、何か作ろう。何が良いだろう?」
キッチンの前で腕を組んで夏美が考えている。
「やっぱり、私らしいのがいいよね……じゃー冷たいもの?」
一人でぶつぶつ呟きながら冷蔵庫の中を探る。
「お、にーの好きなトマトがある。おっきい……よし、これにしよう」
冷蔵庫から大きなトマトを3つ取り出す。
「初心者は下手に工夫しようとするから失敗するんだよな……私は料理なんてした事ないし、何もせずに、このまま凍らせちゃおう」
夏美はそう言うと、包丁を持って、何のためらいも無く自分の指を浅く切る。
流れ出る血をぐっと握り込むと、目を閉じて意識を集中させた。
「は!」
声と共に、青い光と周りの水蒸気がトマトの周りに集まり、一瞬のうちに氷漬けにしてしまった。
手を開くとそこには赤い液体は無く、夏美はゆっくりとした動作で絆創膏を指に貼った。
「あ、ありが……とう」
夏美の声が聞こえる。
目を開けると、僕は夏美の手を握っていた。
あれ? 何で僕、手を握ってるの?
「にーぃ?」
夏美が心配そうにこちらを見ている。
あぁ、夏美が【力】を使うために自分で切った指を治したのか。
「……いくら僕達の為とはいえ、【力】は無暗に使ったら駄目だ、っていつも言ってるだろ?」
僕が少し怒った顔で注意すると、夏美も怒ってきた。
「な! お前また記憶を見たな!」
見られたくないものを見られた、そんな顔をしている。
「いや、だから、僕の意思に関係なく、頭に流れて来ちゃうんだって」
夏美の迫力に押されて目をそらす。
「どういうことー?」
琴梨が頭に大量の疑問符を浮かべながら聞いてくる。
「えっとね、夏美はこれを作る為に、自分の指を包丁で切ったんだよ」
テーブルの上のトマトを指さしながら答える。
「? 何でデザートを作る為に指を切る必要があるの?」
冷凍庫に入れればそれでおしまいじゃない? と。
まぁ、その通りだけど。
「う、うるさい! そろそろ検診の時間だ。面倒な事になる前に行って来る」
夏美は恥ずかしさでその場に居づらくなり、研究棟に走って行った。




