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君との明日  作者: 直木
2/8

仲良し3人組<食堂>

〈食堂〉

「あ……おはよう!」

「ん……おはよ……うっ!」

 食堂に入った途端、琴梨ことりが僕のお腹に頭突きをしてきた。

「琴梨! 抱きつくなんて、羨まし……じゃなくて、痛がってるからやめなさい!」

 夏美が怒りながら琴梨を僕から引き離す。

 お腹をさすりながら、琴梨を見る。

 小柄な体型で、髪は短く切っている。無邪気な笑顔と行動から、まだ幼さを感じる。

 首にしているのは、緑色の首輪。

 首輪の色でその人がどういう【力】を持っているのかが分かる。

 緑は、常人より何倍ものスピードで動ける【力】だ。

「えー」

 琴梨は全然反省してないようだ。

「いてて……抱きつくのはいいけど、助走付けて頭から来るのはやめて欲しいな」

 苦笑しつつ、琴梨に言うと、夏美がぐいっと顔を近づけてきた。 

「抱きつくのはいいのか!?」

「夏美? ……目が怖いよ」

「はいはーい。二人とも、見つめ合ってないで、ご飯食べよ?」

 琴梨が僕達の間に入り、僕の手を引っ張ってテーブルに連れていく。

「うん……今日は何?」

「ご飯とー、お魚とー、味噌汁とー……私が作った玉子焼き!」

 嬉しそうに琴梨が献立を発表する。

「おぉ、今日も作ってくれたんだね」

「美味しいって、にーくんが言ってくれたから」

 頬を赤くさせながら、琴梨が上目遣いでこちらを見てくる。

「ありがとう」

 頭を撫でながらお礼を言うと、えへへぇ、と幸せそうな声を出した。

「わ、私だって、今日はデザートを作ったんだぞ」

 自信満々に夏美が胸を張る。

 この施設では、自分で食事を用意しなければならない。

 常備されている材料を使って自分で作るようになっている……でも、夏美は料理経験0のはず。

「そ、それは楽しみだ」

 口ではそう言いつつ、不安の方が大きかった。


「ごちそうさま」

 琴梨が作る玉子焼きは少し甘めで、僕は好きだ。

 形が崩れているのは、愛嬌と言っていいだろう。

 きちんと完食して、手を合わせる。

「じゃー、次はデザートだな……はい、食べてみてくれ」

 夏美が白いお皿を3つ持ってきて、一つを僕の前に置く。

「これは……何?」

 赤くて丸い大きなものが、透明な膜に覆われている。

「にーはトマトが好きだろう? だから、トマトのシャーベットを作ってみた」

 自信満々に夏美が言った。

 カチン。カチン。

「かっちんかっちんだよ?」

 琴梨がスプーンを氷にぶつける音が響く。

「うっ」

 困ったように夏美はそっぽを向くが、琴梨は更に言う。

「シャーベットって、こんな氷の塊の事を言うんだっけ?」

「うるさいうるさいうるさい! ちょっと固くし過ぎただけだ……あ、味は完璧なんだからな!」

 顔を赤くして、夏美がキッとこちらを睨んで来る。

 早く食べろ、ということだろう。

 ペロペロ。

「表面は……何の味もしないね……」

「トマトを水につけてそのまま凍らせた、みたいな感じ?」

 二人で感想を言うと、夏美の表情が真剣になる。

「シャーベットって、そういうものじゃないのか?」

「違うと思う……」

 呆れつつ僕が答える。

 どうやら勘違いをしていたようだ。

 シャーベットなんて誰も作らないもんね。

 ガリガリガリ。

 とりあえずかじっていると、ふと、夏美の指に絆創膏が貼ってあるのが見えた。

「ん? その指、どうしたの?」

「あぁ、これ? な、なんでもない」

 夏美が慌てるのを見て、琴梨が何かをひらめいた。

「あー……まさか、トマトのヘタを取るのに包丁使って、その時指を切ったとか?」

 キッと琴梨を睨んだかと思うと、慌てて肯定しだす。

「そ、そう! 実はそうなんだ」

 目を合わそうとしない。

「全く、気を付けないとだめじゃないか……ほら、見せて」

 夏美の手を取ると、ボッと、夏美の顔が赤くなった。

「あ……だ、大丈夫……だ、このくらい」

「ダーメ。僕達の為にデザート作ってて怪我したんだから、治させて」

 手を振りほどこうとするのを、押さえて、じっと夏美の目を見る。

 視線をキョロキョロさせていたが、ついに根負けして、コクリと首を縦に振った。

 僕は目を閉じて意識を集中させる。

 白い光が手に集まり出す。

「んっ」

 夏美のもどかしそうな声が聞こえる。

 ふっと、脳裏に映像が浮かんできた。


「よし、にーの為に、何か作ろう。何が良いだろう?」

 キッチンの前で腕を組んで夏美が考えている。

「やっぱり、私らしいのがいいよね……じゃー冷たいもの?」

 一人でぶつぶつ呟きながら冷蔵庫の中を探る。

「お、にーの好きなトマトがある。おっきい……よし、これにしよう」

 冷蔵庫から大きなトマトを3つ取り出す。

「初心者は下手に工夫しようとするから失敗するんだよな……私は料理なんてした事ないし、何もせずに、このまま凍らせちゃおう」

 夏美はそう言うと、包丁を持って、何のためらいも無く自分の指を浅く切る。

 流れ出る血をぐっと握り込むと、目を閉じて意識を集中させた。

「は!」

 声と共に、青い光と周りの水蒸気がトマトの周りに集まり、一瞬のうちに氷漬けにしてしまった。

 手を開くとそこには赤い液体は無く、夏美はゆっくりとした動作で絆創膏を指に貼った。


「あ、ありが……とう」

 夏美の声が聞こえる。

 目を開けると、僕は夏美の手を握っていた。

 あれ? 何で僕、手を握ってるの?

「にーぃ?」

 夏美が心配そうにこちらを見ている。

 あぁ、夏美が【力】を使うために自分で切った指を治したのか。

「……いくら僕達の為とはいえ、【力】は無暗に使ったら駄目だ、っていつも言ってるだろ?」

 僕が少し怒った顔で注意すると、夏美も怒ってきた。

「な! お前また記憶を見たな!」

 見られたくないものを見られた、そんな顔をしている。

「いや、だから、僕の意思に関係なく、頭に流れて来ちゃうんだって」

 夏美の迫力に押されて目をそらす。

「どういうことー?」

 琴梨が頭に大量の疑問符を浮かべながら聞いてくる。

「えっとね、夏美はこれを作る為に、自分の指を包丁で切ったんだよ」

 テーブルの上のトマトを指さしながら答える。

「? 何でデザートを作る為に指を切る必要があるの?」

 冷凍庫に入れればそれでおしまいじゃない? と。

まぁ、その通りだけど。

「う、うるさい! そろそろ検診の時間だ。面倒な事になる前に行って来る」

 夏美は恥ずかしさでその場に居づらくなり、研究棟に走って行った。


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