専属の依頼
少年貴族の熱が下がった翌日。
医療院の空気は明らかに違っていた。
廊下ですれ違う医師たちが、
彼女を見る。
昨日までの
「ただの村娘」じゃない。
「あの方法の子」
として見られている。
落ち着かない。
すると、
医療院長に呼ばれる。
重厚な扉の部屋。
机も椅子も立派。
村の診療所とは別世界。
院長は穏やかな顔で言う。
「君に指名が入った」
嫌な予感しかしない。
「昨日の少年の家だ」
やっぱり。
「専属で診てほしいそうだ」
専属。
つまり囲い込み。
貴族医療では普通の話。
でも彼女はすぐに答えない。
「断れますか」
院長が少し驚く。
「理由は?」
彼女は正直に言う。
「専属になると、
他の患者を診られない」
それが嫌だった。
看護は一人のためだけじゃない。
それが信念。
院長はしばらく考える。
そして言う。
「では条件付きはどうだ」
・基本は医療院勤務
・必要時のみ貴族対応
・知識共有を優先
かなり譲歩している。
それだけ
彼女の価値が上がっていた。
「……それなら」
頷く。
決まった瞬間、
ノックもなく扉が開く。
入ってきたのは
若い医師。
昨日、反論してきた人だ。
真剣な顔。
「頼みがある」
珍しく低姿勢。
「手洗いと消毒、
体系的に教えてほしい」
プライドより命を選んだ。
その選択に、
彼女は好感を持つ。
「いいですよ」
即答だった。
知識は独占するものじゃない。
広めてこそ意味がある。
医療院は少しずつ変わる。
手洗い桶が増え、
布が分けられ、
患者動線が整理される。
派手な魔法じゃない。
でも死亡率が下がる。
それが何よりの証明。
気づけば彼女は、
医療院の中心に立っていた。
偉くなったわけじゃない。
ただ、
やるべきことをやっているだけ。
それでも立場は変わる。
王都での看護が、
本格的に始まった。




