第7話『スキル』
歩き始めて数分後、ふと、ユキが口を開く。
「ところで、何処に向かってるの?」
「え? ……ああ」
言われて初めて、秋斗は自分が何の当てもなく歩いていたことに気が付く。
そうだった。ここは森の中だった。
山の中で偶々平坦な場所だったのか、それとも麓の樹海なのか、はたまた平地にある木の群生地なのかは分からないが、何にせよ、闇雲に歩いていれば確実に迷う。
かと言って手元にコンパスや地図があるわけでもなし。向かう場所の検討などつけようもない。
「――そういえば、マッピングのスキルとか持ってなかったっけ?」
「ええと……」
二年もゲームから離れていた所為か、秋斗は自分のキャラが覚えていたスキルすら忘れてしまっていた。
「……ああ、うん。あった、ような気がする」
良く使っていたスキルだからだろうか。時間は掛かったが、薄っすらと思い出すことが出来た。
アポカリプスに存在したスキルは大きく二種類に分けられる。
同時発動数に制限がなく、常時発動するパッシブスキル。
パッシブスキルに比べ強力だが、同時発動数に制限があり、スキルによってはクールタイムが設定されているアクティブスキル。
それぞれのスキルは唯一無二の効果を持つが、同時発動数に制限があるアクティブスキルよりも、無条件で発動するパッシブスキルの方が結果的に戦力増強になる為、大半のプレイヤーが保有するスキルの大部分はパッシブスキルである。
秋斗の使用していたゲームアバター『リウス』の保有スキルは四八種類。その内半数以上は例に漏れずパッシブスキルとなっている。
全四八種のスキルの中から、秋斗はマッピングに使っていたスキルを記憶から掘り起こす。
スキル名は【空間把握】。アクティブスキルに分類されるスキルである。
ゲーム内で複数用意されていたマッピングスキルの中で最高位に位置するこのスキルは、一つのエリアのマップ構造を把握出来るだけでなく、罠や隠し扉までも把握することの出来るスキルだった。
魔法の使用方法を理解した際にスキルの使用方法も熟知させられた秋斗は、スキルを発動させるため意識を集中させる。
発動自体は魔法よりも簡単だ。数あるスイッチの中から目的のスイッチを押すようなもの。難しい手順は何一つ必要ない。
【空間把握】
その瞬間、視界から色が消えた。
次いで体から平衡感覚が失われ、麻痺したように五感が機能を停止した。
それでいて痛覚はやけに鮮明で、脳そのものを締め付けるような鈍痛だけが秋斗の身体を支配する。
ゲームだった頃、【空間把握】によって判明した地形などは全てマップに表示されていた。
しかし現実――と断定は出来ないが――となった今は、メニュー画面はあってもマップは存在しなかった。
では、【空間把握】によって得た情報は何処へ行くのか。
無論、発動者の脳だ。
簡略化された平面の地図がイメージとして浮かぶだけならよかったのだろう。しかし、現実になったことにより、スキルで知覚出来る景色は色こそ付いていなかったが、肉眼で認識するものと変わらないまでになっていた。
人間が五感で得る情報の内、視覚の占める割合は八割を超えるとも言われている。
そんな視覚と同等の、いや、視覚よりも遥かに広範囲かつ鮮明な空間情報が秋斗の脳に流れ込んできたのだった。
視覚であれば視力にもよるが、距離が離れるほどに得られる情報が少なくなっていくだろう。しかし、スキルによって得た空間情報は、効果範囲内の全ての情報を、それこそ地面の砂粒一つに至るまで、あらゆる情報を秋斗の脳に叩きつけた。
そんな膨大な量の情報の波に、何の心構えもなしに晒されれば、『リウス』の身体はさておき、『秋斗』の精神が耐えられる筈もなく。
時間の感覚さえも曖昧なまま、秋斗の意識は闇に沈んでいった。




