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君の為なら神さえも。  作者: 塩砂糖
第1章『異世界転移編』
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第48話『特等級冒険者』

「君たちは、異世界人ではないか?」


 唐突で、あまりにも予想外のその質問に、リウスはただアレインの目を見つめることで答えた。

 否定するか、肯定するか。この場にいるのがリウスだけだったのなら、どちらも選択できただろう。

 しかし、現実はそうではない訳で。

 不安げな顔でリウスを見上げるユキがいる時点で、リウスの些細な抵抗は完全に意味をなくした。


「別に、君たちを糾弾しようとか、差別しようとか、そういう意図で聞いたわけではない。ただの事実確認だ。

 そもそも、この世界において異世界人は年に数人見つかる程度の珍しさだ」


 ミュエが淹れた紅茶を一口飲んでから、アレインは話を続ける。


「この世界の生活水準も、政治も、この冒険者ギルドでさえ、異世界人の力があってこそ、ここまで成長できたのだ。君たち異世界人に感謝こそすれ、憎むことなどあるはずもない」


 もう既にアレインの中では、リウスとユキは異世界人でほぼ確定しているようだ。まあ、ユキの様子を見れば聞くまでもないだろう。リウスでもそう判断する。


「…………」


 この状況で異世界人であることを否定したところで、アレインを説得できる気はしない。

 かと言って、簡単に異世界人であると認めてもいいものか、リウスには判断できるだけの情報がなかった。

 判断できないのなら、あれこれ考えたところで意味はない。


「……どうして、俺たちが異世界人だと分かったんですか?」


 ただ、何故異世界人だと判断するに至ったのか、その理由は聞いておきたかった。


「理由はいくつかある。

 まずは、君たちの身なりが立派であったことだ。

 召喚者不明の異世界人は、どういう訳か誰もが一級品以上の装備を身に着けている。君が着ていた鎧のようにな」


 鎧というと、異世界転移した直後に来ていたあの鎧だろう。

 誰かから金銭を強奪しようとしていたところをユキに怒られ――というより、正気を疑われた――、何か取ってつけたような理由で鎧を着たまま町に来た覚えがある。

 その時点から疑われていたとは。


「それ以外にも、高い実力があるのに冒険者ギルドへ登録していなかったり、大精霊の件を知らなかったり、色々と理由はあるが、決定的だったのは出身地だ」


「出身地? ……あぁ」


 そういえば、ミュエからそんな質問を受けたことを思い出す。

 思えばあれは最終確認だったのだろう。

 アレインの話を聞くに、この世界において異世界人――その全てがプレイヤーなのかは分からないが――は特徴が判明している程度には珍しくないものだ。

 当然異世界人に関する情報には、彼らが元々どんな世界で暮らしていたのか、というものも含まれるだろう。

 であれば、日本という地名を出したのは、自ら異世界人ですと名乗っているのに等しい。


「申し訳ありません。お二人を騙すような真似をしてしまいました」


「いえ、気にしてませんから」


 ミュエはただ、自分の仕事を全うしただけで、謝る必要などない。

 ただ隠し事をするには、リウスの隠し方が杜撰だっただけだ。

 ユキと一緒に異世界に来た以上、他にも同じ境遇の誰かがいると考えるのが自然だ。そしてその場合、異世界の知識をこの世界の人間が知らない保証がどこにある。


 それからリウスとユキは、いつ転移してきたのか、どこに転移してきたのか、転移の理由に心当たりがないかなど、様々な質問を受けた。

 転移の理由に関しては、アポカリプスというゲームが関係しているだろうことは分かっていたが、上手く説明できる自信が無かったため、分からないということにしておいた。


「転移場所はあの森か……。確認なんだが、その森で何かと戦わなかったか?」


「大きな人影のようなものとは戦いましたが……」


「なるほど。大精霊を討伐したのはやはり君たちか」


 昨日行われた、冒険者による大精霊討伐作戦。

 結果としてそれは、討伐目標が存在しなかったことにより中止となった。

 森で戦ったあの人影が大精霊なのかどうかリウスには判断がつかないが、経験値を得てレベルが上がっているところを見るに、倒せたのは間違いないだろう。

 だとしても、たった一人、それも数回の攻防で討伐できたのは何故だったのか。

 運が良かったのか、大精霊が何らかの理由で弱っていたのか。

 答えは出そうになかった。


「となると、昨日の乱闘の原因は、俺たちが大精霊を勝手に倒してしまったからですね。すみません」


「謝らないでくれ。君たちが大精霊を討伐していなければ、彼らは誰一人として戻ってはこなかっただろう。

 ――そうだ。依頼を受けてのことではなかったとはいえ、討伐の報酬は支払うべきだろうな」


「それは、俺たちとしては嬉しい限りですけど、そんなに簡単に俺たちの話を信用していいんですか?」


 大精霊討伐の報酬額がどれほどのものかは分からないが、辺境の町にあれだけの冒険者が集まっていたのだ。並みの額ではないだろう。


「支払われなかった分の金は消えた大精霊の捜索に使えと国からは言われているが、一度消えた大精霊が発見された例はない。

 それに、嘘を吐くにはタイミングが良すぎる。

 元々支払われるはずだった金だ。ここまで巧妙に嘘で固めきれたのなら、騙されても構わんさ」


 その理屈はどうなのかと思う。


「いいんですか……?」


 アレインの後ろで黙って立っているミュエに尋ねる。


「正直、本来支払われてなくなるはずのお金なので、それが丸々残ってしまうと管理が面倒なんです。このギルドで自由に使えるようなお金でもないですし、リウス様とユキ様に受け取って頂けるなら、仕事がいくつか減って楽になる。といったところですね」


「……いいんじゃない? お金なんてあってそこまで困るものでもないし……」


「…………分かりました」


 お金とともに借りまで押し付けられたような気がするが、リウスは大精霊討伐の報酬を受け取ることに決めたのだった。



 ◇◇◇◇◇



 大精霊討伐の報酬額を知り、やっぱり安易に受け取るべきじゃなかったなとリウスが後悔した後、アレインからこんな提案を受けていた。


「俺たちを特等級冒険者に?」


「ああ。冒険者ギルドに異世界人が関わっているという話はしただろう。実のところ、冒険者ギルドの前組織を設立したのは異世界人なのだよ」


 それはまた、中々なことを成し遂げた異世界人もいたものだ。今頃大富豪なんじゃないだろうか。


「冒険者ギルドという組織を作るにあたって、所属する冒険者を実力ごとに等級で分けたんだが、一つだけ、実力を考慮しない特別な等級を設けた」


「それが、特等級冒険者?」


「その通り。自分たちと同じように異世界へ転移してきた者を保護するために作られた等級だ。尤も今では、冒険者ギルドの切り札となる特に優秀な冒険者に与えられる等級、という意味合いが強いがな。

 君たちは異世界人である上に、実力も申し分ない。特等級冒険者にスカウトされるだけの理由があるということだ」


「具体的には、特等級冒険者になるとどうなるんです?」


「そうだな。ギルドから君たちに提供できるメリットは様々あるが、分かりやすく言うならば。

 世界中様々な国に支部を持つ冒険者ギルドという組織が、君たちの後ろ盾となり、あらゆる面でのサポートを約束する。といったところだな」


「……なるほど」


 確かに、それは破格のメリットだ。

 アレインとの会話で、この世界における異世界人の立ち位置はなんとなく分かってはきた。

 しかし、依然としてリウスたちが持つこの世界の知識は少なく、いざという時に頼れる相手もいない。

 今後、異世界人というだけで面倒ごとに巻き込まれることもあるかもしれない。そんな時、こちらの素性を知ったうえで協力してくれる存在は貴重だ。

 断る理由は無いように見える。


 メリットだけならば。


 ちらりとユキのほうへ目を向けると、ユキも今聞いた話について色々と思うところがあるようで、口に手を当てて何かを考えている。


 こんなうまい話、タダな訳がない。


 それがリウスとユキの意見だった。


「……それで、そのメリットに対して、俺たちは何を差し出せばいいんですか?」


「話が早くて助かる。特等級冒険者には、ギルドからのサポートの対価として、特殊な依頼を請け負ってもらうことになる。例えばそう、今回の大精霊討伐などだな」


「拒否権はあるんですか?」


「既に別の特殊依頼を請け負っている場合などを除き、拒否権はないものだと思ってほしい。そもそも、特等級冒険者に回ってくる依頼など、他の誰にもできないものだからな。ギルドとしても全力でサポートはするが、何が起きるか分からない死地に送り出すこともある。

 もちろん、そんな依頼などそうそうあるものではないがな」


 つまるところ、ギルドの後ろ盾を得る代わりに命を懸けろ、という意味だ。

 そしてリウスにとって、ギルドからのサポートは”自分の”命を懸けるだけの価値があるように思えた。


「我々から君たちに特等級冒険者になるよう強制はできない。特等級になるかどうかの選択権はある。拒否した場合は第三等級へ昇格になるが、君たちの実力なら第一等級までそうかからないだろう。

 第一等級でも、ギルドから十分なサポートは受けられる」


「少し、考えさせてください」


 リウスの中ではほとんど考えは決まっていたが、念のため冷静に考えようと、回答までは少し時間を空けることにした。

 隣に座るユキが人知れず覚悟を決めていたことに、リウスは気が付かなかった。

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