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君の為なら神さえも。  作者: 塩砂糖
第1章『異世界転移編』
30/53

第30話『いつの日か、さよならの時まで』

「……ん」


 消灯からどれぐらいの時間が経過しただろうか。

 一筋の月明かりが窓から差し込む中、リウスは目を覚ました。


「い……つぅ」


 立ち上がり、体を伸ばす。

 流石に疲れていたので眠ることはできたが、もちろん寝心地は良くない。

 同じ体勢で居続けたために腰や首が凝り固まっており、反らすとポキポキと音がなる。


 一方ユキは、ベッドの上で静かに寝息を立てていた。

 日本の家具屋などで売られている物より悪い品質ではあるが、椅子で寝るよりはかなりマシだろう。


「……やっぱり椅子で寝かす訳にはいかないよな」


 無防備に眠るユキを見て、リウスは呟く。


 それにしても、もし俺が寝込みを襲うような奴だったらユキはどうしたのだろう。

 リウスがベッドの脇に立っても、手を伸ばさずとも届くほどの距離にまで近づいても、ユキは起きる素振りすら見せない。


 しかし、たとえ触れられるとしても、リウスは手を伸ばさない。


 もちろんリウスにだって性欲はある。

 ただ今は、欲望を掻き立てるほど、他者に興味を持てない。

 先ほど抱擁した時に感じた温もりさえ、もう、覚えていない。


「…………寝るか」


 ともあれ、何をするにしても朝にならなければ始まらない。


 起きるのは6時ぐらいかな。


 体内時計にタイマーをかけると、リウスは椅子に腰掛け目を閉じた。



 ◇◇◇◇◇



 朝。窓から差し込む日の光に照らされて、ユキは目を覚ました。


「……うー、ぁ……どこ……?」


 絶妙に硬いベッドの上で体を起こすと、ユキは周囲を見回す。


 そうだ。私、宿に泊まったんだ。それで――


 そこまで考えて、ユキは何かが可笑しいことに気づく。


 違う。足りない。少しも足りてない。だって、この部屋は私の部屋じゃなくて――


「リウス……?」


 ユキが目を覚ましたその部屋に、リウスの姿はなかった。


 まるで、最初から誰も居なかったかのように。

 着替えの一つも残さずに、リウスは忽然と姿を消していた。


 徐々に心拍が早くなっていくのを感じる。

 視界が狭まり、息をするのが苦しい。


 駄目だ、落ち着かなきゃ。

 きっと、きっと、少し外出しているだけだ。


 ――置いていかれたんじゃない?


 そんなことない。私の知ってるリウスは、そんなことしない。


 ――でも、あの時は、何も言わずにいなくなったよね。


 あの時。まだ、リウスと一緒にアポカリプスをプレイしていた頃。


『暫くログイン出来なくなると思う。戻ってきたらまた相手してくれ』


 そんなチャットを最後に、リウスが再びログインしてくることはなかった。


 ……じゃあ、やっぱり、これは。


「違う……っ、そんなこと――」


 微かに震えた声は誰にも伝わらずに消えていく。


「……探しに行こう」


 呟いて、ユキがベッドを降りた時だった。


「ん、おはよう、ユキ。よく寝られたか?」


 外に出かけていたリウスが、部屋に戻ってきたのは。


「リウ、ス」


「あぁ、どうした?」


 やっぱり、いなくなった訳じゃなかった。

 置いていかれた訳じゃ、なかった。


 そんな当たり前のことを確認できたユキは、力が抜けて思わずその場に座り込む。


「お、おい、大丈夫か?」


「もう……勝手にいなくならないで」


 いつまでも一緒にいられないのは分かってる。

 それでも、別れる時は、きちんとさよならを言いたい。

 いつのまにか会えなくなるのは、もう嫌だった。


「あー……ごめん」


 リウスは苦笑いをしながら、そう答えた。

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