褒められる
右足に力を入れて地面を蹴る。
それによって、僕の体は加速し、それまでにない速さで鉄の騎士へと肉薄した。
大型の盾を構えている鉄の騎士。
その盾の死角を利用して、自分の身を隠す。
しかし、その動きを察知していた鉄の騎士は、盾の死角になる場所へと攻撃を行ってきた。
盾をグッと押し出すようにして、僕の体を吹き飛ばそうとしたのだろう。
だけど、そのときには僕は移動を終えていた。
鬼鎧によってさらに向上した身体能力を用いて、右から左へと飛び跳ねるようにして移動していたのだ。
押し出された盾。
けれど、その盾は僕の体に命中することもなく、何もないところへ突き出された間抜けな姿勢となってしまった。
そんな鉄の騎士の右手側へと場所を変えていた僕は、攻撃に移る。
一瞬の加速で盾の防御をすり抜けた今が絶好の攻撃の機会だったからだ。
それにたいして、鉄の騎士は焦った様子もなかった。
盾による攻撃が空振りに終わったからといって、向こうに攻撃手段がなくなったわけではないからだ。
左手に持つ盾とは別に、右手には剣を持っている。
その剣を盾をかいくぐってきた僕にたいして突き出してきた。
盾で防ぎ、剣で突く。
おそらくは男爵級とよばれるこの魔装兵の本来の戦い方なのだろう。
鋭い突きが正確に僕の体を狙ってまっすぐ伸びてきた。
それを見ながら、こちらも剣を振る。
相手のほうが体が大きく、突きによる間合いも遠い。
なので、僕は硬牙剣をその突き出された剣そのものにたいして当てることにした。
鉄の剣の切っ先に硬牙剣の剣身がぶつかる。
そして、その剣同士の衝突に打ち勝ったのは僕のほうだった。
急加速してからの方向転換により、低い姿勢からの攻撃だったが、自分よりも上から突き刺すように出された剣を大きく弾き飛ばすことに成功する。
多分、鬼鎧によって肉体の強さが増しているからこそできる芸当だろう。
鉄の騎士の右手から剣が飛んでいく。
また、その勢いで相手の右腕も大きく反らされたことで、決定的な隙が生じた。
そのまたとない機会を逃さず、追撃をかける。
飛んだ剣を放置して、左手の盾を再び活用せんとして腕を引き戻す鉄の騎士。
が、その動きが終わる前にこちらの攻撃は終わっていた。
先ほどとは違い、今度はこちらが突きを繰り出す。
剣聖が使ったという【三段突き】を放つ。
超高速で突きを三回繰り出す技で、ほとんど同時に相手の体の三か所を攻撃するという攻撃だ。
今までは実戦で使える状態ではなかったその技を、鬼鎧による肉体強化の性能を引き出したことによってこの瞬間に使えるようになっていた。
瞬きする間に左肩と首、さらに股関節までもを狙った【三段突き】が放たれた。
それを鉄の騎士は防ぐことはできなかった。
突きが当たった関節部がガチャンと外れて、姿勢を保てなくなる。
大きな盾を持った左側に大きく傾いて倒れていく魔装兵。
が、まだここで終わりではない。
さらに勝利を確定するためにも追撃する。
そうして、各部を破壊し、鎧の胴体部から魔石を取り出したことによって、鉄の騎士はその動きを止めたのだった。
※ ※ ※
「お疲れ様です、アルフォンス様。お体は大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ、アイ。盾がぶつかったときは痛かったけどね」
「ですが、頭を打っている可能性もあります。念のためにも確認しておきましょう。こちらを見てください」
強敵だった盾持ちの鉄の騎士。
男爵級とも呼ばれて、青銅の騎士三体を同時に相手するよりも強いという情報に偽りはなかった。
だが、その相手に勝てた。
そのことに喜んでいると、アイが近づいてきて僕の心配をしてくれる。
頭を打ったかもしれないからと言って、傷がないかを確認したり、眼球をのぞき込むようにして体の調子を確認していく。
幸いなことに、アイの確認でも特に異常は見つからなかった。
とはいえ、毎回こんなことをされるのもあれだし、次からはあの盾の攻撃を食らわないように気を付けないと。
そんなふうに心の中で反省していたとき、アイが聞いてきた。
「質問してもよろしいでしょうか? 先ほどの戦いでは、途中から動きが格段に速くなりましたが何をされたのでしょう?」
「えっとね、鬼鎧の性能を強化したんだよ。もともと着ているだけで力が上がるって性能が鬼鎧にはあったでしょ? それを魔力を使って、もっと力が出るようにしたんだ」
「……そのようなことが可能なのですね」
「え、うん。やったらできたけど、普通はできないの?」
「現在、私の持つ情報にはありません。アルス・バルカ様に確認してみましょうか?」
「そうだね。お願いしようかな」
「かしこまりました。…………確認が取れました。アルス・バルカ様はできないようです」
「え、そうなんだ!」
「はい。あちらでも『え、そんなのできんの? あいつ、すげえな』と驚かれていましたよ」
「へー、アルス兄さんはできないんだ」
「そのようです。アルフォンス様のことを褒めていましたよ」
そうなんだ。
なんか、うれしいな。
アルス兄さんにできないことが僕にできた。
それだけで無性にうれしい。
そのことに気をよくした僕は、その後何度も鬼鎧に魔力を送り込んで、普段から当たり前にこの強化をできるように練習することにしたのだった。
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