貴族院にて
「お久しぶりね、アルフォンス君」
「久しぶりだね、エリザベス」
「学校に来ないから心配してたわ。クレマンたちが変なことを言ったって聞いてる。もう大丈夫なの?」
「うん。心配かけてごめんね。僕は気にしていないから大丈夫だよ」
シャルル様と話した後、僕は久しぶりに貴族院に行ってみることにした。
貴族院はブリリア魔導国の貴族や騎士といった階級の子どもたちが通う学校だ。
王都の貴族街にあり、広い敷地と歴史ある校舎で学ぶことができる。
一応年齢ごとに初等部・中等部・高等部みたいに分かれているけど、基本的には自分が受けたい授業があれば好きに選んで受講できる仕組みになっている。
だから、同じような年齢の子でも財力のある貴族であれば、自分の家でいろいろ教えたりしているので貴族院で学ぶことは少なく、ここでは上の年齢向けの難しい授業を受けている人もいたりする。
そのためか、会わない人には顔を合わせることが少なかったりも珍しくないみたいだ。
僕があんまり貴族院に行かなかったといっても、それを気にする人は少ないと思っていた。
だけど、さっそく心配の声をかけられた。
エリザベスという女性からだった。
伯爵家の令嬢で、きれいな金髪の長い髪を片側でくくってさらりと肩にかけている。
多分年齢は僕より上の10歳くらいだと思う。
貴族院で顔を合わせるといつも挨拶をしてくれている。
「うん、あんなの気にしなくていいわよ。それより、これから暇かな、アルフォンス君。一緒にお茶でもしないかな。おいしいお菓子があるのだけど」
「えっと、これから授業を受けに行く予定で……」
「授業より私とお茶するほうが楽しいと思うの。さ、どうぞ」
校舎に入る前にエリザベス様につかまった僕はそんな風に強引に誘われた。
この人、意外と押しが強いな。
もともとお茶をする気だったのか、校舎の一室に机と椅子を用意していたようだ。
そこに急遽、僕の分の椅子も用意してくれて、そこでお茶をすることになった。
まあ、いいか。
シャルル様も言っていたもんね。
学校に行くのは勉強も大事だけど、知り合いを作ることも大切だって。
こういうお茶会みたいなのも多分大事なんだろう。
「何を飲む、アルフォンス君?」
「えっと、それじゃあ紅茶はあるかな?」
「わかったわ。最近新しいものが手に入ったからそれを一緒に飲みましょう。今年の茶葉はいい出来だったからおいしいのよ」
「へー、楽しみだね。僕の地元ではあんまりお茶って飲まないから」
「お茶がないの? なら、何を飲むのかしら?」
「普段は生活魔法の【飲水】で出した水が多いかな。大人はたいていお酒を飲んでたかも」
「魔法で水を出すのってすごい。ねえ、アルフォンス君。もっと、あなたのことを聞かせて。どんな国なの?」
お茶のことをきっかけにエリザベスといろいろと話す。
フォンターナ連合王国ではあんまり茶葉を使ってお茶を飲むという習慣がなかった。
大人が集まればたいていはお酒を飲んでいる感じだ。
けど、それも最近は少し変わってきているらしい。
アルス兄さんが東方ではお茶を飲むというのを知って、茶葉を手に入れたからだ。
その茶葉をバルカに持ち帰って栽培した。
そして、それを使ってお茶を飲むようになったらしい。
フォンターナの街でもそれが最近は流行りだして、少しずつお茶を飲む人が増えてきていると聞いている。
バルカラインのそばにあるガラス温室で育てた茶葉を、ここよりも寒いフォンターナ用に少し改良してほかの地域でも育てるようにしている。
お茶は意外とお金を稼げるとか言ってたので、多分これからももっと飲む人が増えていくんじゃないかと思う。
「あー、エリザベス様とアルフォンス君がお茶している。ごきげんよう、エリザベス様。ご一緒してもよろしいですか?」
「ごきげんよう、セシリー。今、私はアルフォンス君とお話ししているの。またにしてくれないかしら?」
「そんなこと言わないでください、エリザベス様。アルフォンス君、久しぶりだねー。最近ここに来てた? 全然顔見かけなかったから、どうしてるのかなって気になってたんだよ」
「久しぶり、セシリー。最近は来てなかったけど、今日は久しぶりに授業を受けに来たんだ」
「やっぱり。だめですよ、エリザベス様。アルフォンス君を独占しちゃ。ご一緒してもいいかな、アルフォンス君?」
「えっと、エリザベスがいいならかまわないけど」
「駄目。二人でお話ししているの」
「まあまあ、そう言わずに。今日は私もおいしいお菓子を持ってきているんですよ。一緒に食べましょうよ」
エリザベスとお茶をしていると、近くを通りかかったセシリーが話しかけてきた。
セシリーも伯爵家の令嬢で、歳はエリザベスの一つ下らしい。
けれど、昔から付き合いがあり、仲がいいみたいだ。
セシリーは強引にこのお茶会に参加することにした。
側仕えに椅子を用意させて、僕の横に座ってくる。
それを見て、エリザベスが少し機嫌を損ねたのかプクッとほほを膨らませていた。
けど、それだけで無理やり追い出すようなことはせず、その後は三人でお茶会を続けることになった。
よかった。
実は久しぶりに貴族院に行くと決めた時、やっぱりちょっと不安もあったんだと思う。
けど、こんな風に一緒に話そうと声をかけてくれる人がいてよかった。
その後は、二人からおいしいお菓子を食べさせてもらって、しばらく楽しいひと時を過ごしたのだった。
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