森林脱出8
結論から言うと着ている服の一部が破れた。
私は強化されているが、衣類や装備品の強度はそのままだ。
完全に失念していた。
携帯端末を失ったことが全く教訓になっていなかった。
このまま、加速検証を続けた場合、私の装備は完全に破壊されるかもしれない。
現在の装備に代わるものを用意するしかない。
幸いにして、植物は豊富なので材料には困らないが、問題は私に服を作るスキルがないことだ。
全裸でお外を歩くことなどできない。
人間として超えてはいけない領域に到達してしまうと、私の羞恥心が警鐘を鳴らしていた。
別に服でなくても良いのだ。最低限隠れていればよい。どうせ加速検証で破損してしまうから、簡単に調達できるものがベストだ。
ーーー
加速検証を中断して、ジャングルにやってきた。
素材は無数にあるが、ある程度目星は付けている。体を覆う面積を確保できる、大きな植物があったはずだ。
先程発見したバナナを5倍したような木までやってきた。
葉を一枚千切り、穴を開けて即席の貫頭衣を作った。服飾スキルの無い私としては会心の思い付きだ。大量消費に適したデザインと言えよう。
貫頭衣を羽織ってから、現代装備を脱いだ。
葉で作った衣を纏い、野生の植物を食べ、地面で寝起きするスタイルは、完全に原始人のソレであった。
初期装備は、木の根がドーム状になっている場所に置くことにした。特徴的な場所なので所在不明になることは無いだろう。
素足で外を歩くことなど何年ぶりだろうか。
実家に帰ったとき海に行って以来だ。
もう何年も実家に帰っていない。
葉の衣の裾を地面にズルズルと擦りながら、西へと移動した。
ーーー
太陽は最も高くなり、正午を迎えていた。
お昼の時間だが特に空腹感もない。
新装備になりアイテムストレージが0になってしまったので、果実はストックしないことにした。
車並の足があるので、お腹が減ったら果実の木まで食べに行けば良い。
加速検証を再開した。
午前と同じようにぐるぐる回って加速する。
体感したことの無いスピードに到達していたが、視界は安定していた。
動体視力が強化されたせいだろうか?針のように尖っていくはずの視界が広く開けている。
足が地に着いている時間が短くなり、地面と平行に飛んでいるような感覚になる。
走った跡は地面が抉り取られ、直ぐに再生するを繰り返している。
徐々に回る円を大きくして、曲がることによる減速を出来る限り減らす。
今後は滑走路を確保する必要があるが、幸いにしてこの世界は無限ループなので、永遠の直線が存在している。今度、走行ルートを探そう。
地面の抉れがヤバイことになってきた。足が触れた地面が爆発したように陥没し、深い雪を掻き分けて進むような状況になってきた。
一旦停止しようと思い、少し体を起こした瞬間に足を取られた。
前転するように体が回転し始め、水切りの石のように地面に何度も弾かれて吹っ飛んだ。
まさにエクストリームでんぐり返しだ。
北の針葉樹林帯まで吹き飛び大木にめり込んでようやく停止した。
先程新調した装備は、見るも無残に破れていた。着替えていて大正解だ。
体には何の異常もない。私の防御力は一体どうなっているのか。
半壊した大木から這い出す際に異変は起きた。
足の下にある木の根がメキメキと音を立てて圧壊し始めた。私が動く度に、大木はミシミシと軋む。
今にも割れそうな氷の上に居るような感覚だ。
大木を降りて地面に降り立つと、足首まで土にめり込んだ。
朝走ったときは、こんなに緩い地面ではなかった。
恐らく私が変化した。
私の体重が異常に重くなっている。
今まで体重が増えて欲しいと思ったことはない。むしろ減って欲しい。
思わず体を見たが、脂肪や筋肉が付いた様子はない。
これも強化の一種なのだろう。全く嬉しく無い。
体の各部位に重さを感じないということは、力もかなり強くなっている。大木に手を当てて軽く押すだけで、幹は大きく傾き、地面から根がブチブチと切れる音がした。
このまま強化を進めると、常に地面に埋まった状態になってしまう。何か対策を考えねば。
一旦西に戻ることにしたので、地面に足を沈み込ませながら歩いた。
ーーー
ぐるぐると回っていた、場所まで戻ってきた。あれほど地面を破壊し続けたのに、完全に元に戻っている。再生の規模や回数に限界はないのだろうか?
そんなことを考えて歩いていると、どういう訳か足の沈み込まない地面を発見した。
加速検証中にかなりスピードが出て、地面を何度も抉り取った場所だ。
試しに、まだ走ったことの無い場所でも加速を行ってみた。
地面が吹き飛ぶ程の速度を出して、土を空中に舞い上げると、即座に再生され元どおりになり、私の重さで沈み込むことは無くなっていた。
「ふふっ やった!」
思わず笑みがこぼれた。
再生した地面には、ある程度の強化が適応されるらしい。
破壊対象が丈夫になり続ける限り、掛けることの出来る力も無限に強化出来る。
異常な力がこの世界に発生することになれば、安全装置が働くと、私は考えている。
この世界はあまりにも平和的になるようにルールが敷かれいる。
生物は愚か、無機物でさえ元どおりに復元し、滅びや減少がなく、他者への危害は無効化される。
完全なる安定がある。
そんな世界のバランスを変え、ルールを乱す存在があれば、それを排除するはずだ。
排除こそが私の想定した脱出だ。
要は悪いことをして楽園を追放されたいのだ。
この世界を司る主催者か管理者かシステムか神かは知らないが、私の存在を無視出来ないようにする。