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森林脱出9

 無限に強化出来る可能性を発見して、私の心は昂ぶっていた。


 自分の考え通りに事が運ぶという満足感は、何物にも変えられない。苦痛だらけだったこの世界にも、ようやく良いことが出来た。


 想定より早く脱出が叶うかもしれないのだ。

 他にも考えていた悪さがあるが、加速による過剰強化の一手が予想以上に仕事をしそうだ。


 より効率の良い加速を求めて、走行ルートの選定と地面強度アップに着手した。


 ルートは障害物の少ない場所を走って探す。

 西は走り易いので始点とするとして、その後突入する地区の選定と、直線コースで再度西に戻ってこられるかが重要になってくる。


 とにかく足で稼ぐしかないので、色々なルートを走り続けた。


 ーーー


 調査の結果、方角ごとに植生が変化している継ぎ目が走り易いことがわかった。北と西の継ぎ目を北西に進み、南東から戻って来る直線が最も安定している。


 途中、この世界の一周がどれくらいの距離なのか調べた。まだ、社会人に成り立ての頃、機材設置の仕事で会得した、割と正確な50㎝の一歩が役に立った。


 この世界の一周は、およそ36㎞強と言ったところだ。中央に奇岩があるので、やや曖昧になった。


 現在一周に掛かる時間は5分程度なので、新幹線並みの速さは獲得出来ている。時計がないので正確では無いが、速度を数値化すると張り合いが出てくる。


 ステータス表示が欲しいところだ。この世界の不親切設計は神懸かっている。


 地面強度アップは、加速によって破壊の限りを尽くせばよいので、北西→東南ルートを走り続けた。破壊と再生を繰り返すことで地面は強度が上がり、より加速し易い環境になる。更なる加速が破壊を生み、相乗効果となっていた。


 ーーー


 夜になるころには、一周2分を切るようになってきたので、音速の壁が見えてきた。


 強度アップしていない地面には、膝まで埋まるようになっていた。もはや生物の域を超えた重量に到達しているのかもしれない。

 私を計量できる装置は無いだろうから、体重は当然ひ・み・つということになる。


 いつもであれば就寝している時間だが、今日は気分が良いので、夜の探索に出ることにした。


 よく考えれば、夜に歩き廻ったことはなかった。今まで未知の領域ばかりだったので、夜の行動は避けていた。


 昼間走り回ったせいで地形は頭に入っている。探索は十分に可能だ。

 昼間には出てこない動物がいるかもしれないので、未知との遭遇を期待していた。


 夜目が利くようになっているので、探索に支障は無い。ローラー作戦で余す所無く調べるつもりなので、奇岩を中心にリンゴの皮を剥くように、螺旋状の走査を開始した。


 探索をしていると、自然と星空が目に入る。心から美しいと感じる。人間には自然に対する潜在的な回帰願望があるらしいが、どうやら私にもあったようだ。


 暗い森の形は手に取るようにわかる。昼間は視覚情報が強くて気がつかなかったが、存在を認識する要素に臭いが大きく関わっているようだ。


 この世界には恐らく微生物や菌はいない。有機物の宝庫である森で、腐敗臭や埃くささを感じないことがそれを物語っている。分解はデフォルト機能で世界に付いているので、菌の力を借りる必要もない。


 強い臭いは無いが、植物や土独自の臭いを感じる。

 目で見えていない、木の裏や根の影などの形が臭いで把握できるようになっていた。


 夜に動物を探す行為は、最適かもしれない。

 今であれば、隠れていても臭いで発見することが出来る。


 私以外に空気を動かす存在がいないので、もし他に動く存在があれば、直ぐに察知することが出来る。嗅覚が鋭くなったというよりは、何の臭いであるか把握出来るようになったという方が正しい。昼間の加速中も無意識に臭い情報を蓄積して、頭の中でマッピングが完了しているようだ。昼間と差異があれば、そこに何かが居るということだ。


 駆け足気味で走りながら走査を進めたが、結局奇岩の対極まで何にも遭遇しなかった。


 最後に奇岩の上にある大樹を調べて寝ることにした。


 体重増加が顕著になって以来、高所に登ることは避けてきた。地面にあれほどめり込む重量なのだ。余程の質量と剛性がなければ、私の重みに耐えることは出来ないだろう。


 大樹と奇岩からは、他のものとは異なる臭いを感じる。私の経験で一度も遭遇していない物質で構成されているようだ。私の重みに耐えることを祈る。


 奇岩の麓まで来ると、軽く奇岩を押してみた。

 ビクともしないことに若干安堵したのだ。私の腕力はまだそこまでではなかった。


 以前登頂に使用したスロープ状の根に足をかけて見た。ギシギシ音がするが、なんとか耐えられそうだ。


 奇岩の上に到着し、臭いを調べたが何もなかったので、後は一度も行ったことのない大樹の頂上を調べるのみとなった。


 木登りなど一度もしたことがない。昔からインドア派で、子供の頃から遊びの幅は、室内で完結していた。


 大樹の幹は垂直に伸びており、頂上付近まで枝一つない。プロのクライマーでも道具がなければ登りきることは出来ないだろう。


 私には道具はおろか、クライミングの知識や技術すらない。だが圧倒的な腕力は備わっている。ここはひとつ力技で解決するとしよう。


 指を揃えて大樹に垂直に当て、左右に手首を捻りながらゆっくりと押し込む。予想通り大樹から木屑が溢れて丸穴が空き、手の太さに合わせ穴の経が大きくなる。錐の原理で穴を開けることが出来た。


 私の力は人類を超越して、怪物レベルに突入しているだろう。しかし、いきなり音速のパンチを打つことも、100メートル垂直飛びすることも出来ない。全ては私の重さが邪魔をするのだ。

 今備わっている力は、怪物級の体重で支障無く生活するためのものだ。

 加速によって音速に到達するにも、長い助走と時間を要する。力を発揮するには条件が揃わないと駄目なのだ。


 今の穴空けは、正しく条件が揃ったと言える。物体に摩擦を与えるためには重量が最大限に仕事をする。おまけに、私の体は今のところ不滅だ。破壊不能の超重量物質と摩擦を起こして、形状を維持出来る物は少ないだろう。


 摩擦によって穴を開けて手足を差し込む。私の手足が杭になることで体を支えながら大樹を登ることが出来た。

 手足を差し込んでいない穴は再生してしまうので、帰りはフリーフォールすることにした。


 大樹の頂上付近まで登った。幹に対して垂直に生えた枝が密集して放射状に広がり、テーブルのような平な場所を形成していた。


 頂上に行くために、天井のようになっている枝の塊をぶち抜いた。ユズカドリルを阻むことは出来ない。


 頂上は小さな森のようになっていたが、相変わらず何もない。この世界は全く作りこまれていない。いい加減うんざりしてきた。


 これで地上にあるオブジェクトは制覇した。マップコンプボーナスでも欲しいので、世界最高峰を制覇した記念にご来光を拝むことにした。


 今日はここで寝よう。世界の最も高い場所に寝転んで静かに目を閉じた。








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