森林脱出14
地下の探索には、帰路を確保しなければならない。
私は重い。強化が完了していない地面では、私の体を、支えることはできないのだ。
地下探索となると地面を掘り進むわけだが、未強化の部分にいずれ到達する。
未強化部分を掘り進めば、周囲は私を支えることが出来ない地盤のみとなるので、這い上がることが困難になる。
ユズカブレスの垂直噴射でも、私の体を浮かせることは出来ない。
周囲の地盤を強化しようにも、異物が混入した場所は再生が開始しない。
以前、大樹から落下した際に経験済みだ。
帰路形成には、強化済みの地盤を縦に長く連ねる必要がある。
つまり、穴を掘って低部をブレスで破壊し、穴から出るを繰り返すことで、地下に降りるための梯子を伸ばすというわけだ。
面倒な作業だが、一度やっておけば地下との行き来は自由になる。
物事の効率化のために、事前準備をするのは、むしろ好きなので、嬉々として作業を進められた。
強化地盤の作成場所は、セーブポイントの真下にした。果実の木からも近く、何より分かりやすい。
強化の範囲は、ブレス発射位置から地下5mまで及ぶようなので、きっちり計測しながら強化地盤の深度を深くしていった。
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地下3000mに差し掛かった辺りで、予想していた終端に到達した。
空と同じく、破壊不能の見えない壁にぶつかったのだ。見た目はただの岩盤だが、破壊することが出来ない。
力が吸収され、そこから先に何者も到達することはできない。
やはりあると思っていた地の底だ。
私の自由になる範囲が判明した。
上空6000m、地下3000m、一周36kmが私を取り巻く全てだ。
この範囲で私の出来ることをやるしかない。ただ残された手段は残り少ない。
今進めている偏食法が失敗すれば、最終手段に出るしか無いのだ。
地下探索で何か脱出の糸口を得ておきたい。
最終手段は出来る限り避けたいのだ。
偏食は継続しつつ、地下の探索を開始する。
地下への梯子を作成する際に、5mを1層として計測していたので、探索も1層ずつ行う。
全行程で600階層の探索だ。
地下の探索は、視覚情報を得難いので、以前夜間に地表で動物探しをしたように、嗅覚を主な情報源とする。
一度情報を得れば、共感覚によって地下の形状や生物の有無が把握出来る。未知の物質は一回食べておけば、凡その系統が分かる。
まるで、地下を蠢くミミズのようだ。
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浅い層は、地表と同じような構成要素だ。20階層を超えると地層が変化する。生物の痕跡が全く無くなってくるのだ。
この世界には細菌の類もいない。私以外は植物しかいないようなので、地下は無生物地帯と言ってよかった。
東西南北で地層はバラバラだった。4種のカットケーキを無理矢理くっつけてホールにしたように、層の質も厚さも別ものだった。
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100層を超えると、どの地盤も岩石の塊になる。
脱出の材料になるものは見つからない。
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200層を超えると、真っ白な鉱物の層が時折混じるようになった。今迄出会ったことの無い物質だ。私の咬合力でも、せんべい位の歯応えを感じる。相当硬い鉱物だ。
進むたびに白い鉱物の層は増えていった。
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400層を超えると、白い層は無くなった。代わりに巨大な生物の化石が見られるようになった。恐竜や古代生物の化石ではない。多くが人型だ。言ってしまえば巨人の化石だ。
ただ、文明の痕跡を感じられない。多くの巨人が傷つき倒れている。なんらかの武力衝突の末路がそこにあった。
武器を持っているものはいない。拠点のような構造物の痕跡もない。全ての巨人が内在する暴力だけで殺しあったようだ。
これがこの世界の歴史の一端なのだろうか。
地表の有様とは真逆だ。
凄惨な過去を教訓に、この世界は理想郷として作られたのだろうか。
「私にとっては地獄だけどね」
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遂に600層まで到達してしまった。脱出のヒントはなにも無い。
ただ、500層を超えた辺りから、巨人の化石もなくなり、岩石に含まれる毒素が急激に高くなった。
私が掘って多少の空気が触れたせいか、毒ガスらしきものが発生している。明らかに生物の生存出来る環境ではない。
この世界はかなり過激な天変地異を繰り返しているのかもしれない。そこに知恵のある生物がいた場合、安定した環境に逃げ出したくなるだろう。
ここは、そういったシェルターの役割もあるのかもしれない。
毒に満ちた環境にいたせいか、毒を摂取し過ぎたせいかは不明だが、偏食の答えが出てしまった。
最近、果実を食べてもお通じがこない。胃は膨らむが、食べたものが腸に到達しないのだ。
私の消化吸収器官は、体に害を成すものを通常のルートに通さないようになっているようだ。
過剰に摂取したもの、毒物などは私の謎臓腑に吸収される。この臓腑が体のどこにあるのかは不明だが容量は果てしないようだ。異次元胃袋と呼ぶことにした。
たしかに私の形状を変えることなく、経口摂取のリスクを回避している。
この世界のお節介は神クラスだ。私如きただの人では抗うことは出来ないようだ。
全ての策が通用しなかったと言っていい。
私は最終手段に移行するしかない。
これは策ではない。一種の諦めだ。
最終手段は救援依頼だ。
私が独力で脱出することは、不可能だと判断し外に向けて救難信号を送り続ける。
この世界には外に通じていそうなものが3個ある。
空の壁、地の底、セーブポイントだ。
いずれもエネルギーの干渉を受けない存在だ。
では、向けられエネルギーはどこに向かうのか。その先は不明だが、この世界の中には戻らない。
エネルギーをこの世界以外に送り出すことで、私の存在を誰かに発見してもらい、救援を依頼するのだ。
エネルギー送信先は、セーブポイントが最適だろう。ここから私のSOSを送信し続ける。
送信するエネルギーは大きい方が良い。現在の最大エネルギーは最大加速状態からの突進だ。
しかし、エネルギーを得るまで時間がかかる上、断続的にしか送信できない。
もっとコンパクトな方法で短時間にエネルギーを得る必要がある。
私には極音速を耐える頑強さがある。
ならば、極音速のエネルギー状態を小さな範囲で実現すれば良い。
方法はある。振動エネルギーとして体に蓄え、継続的に放出すれば良い。
私は最後手段を開始するために、この世界で一番最初に居た場所に戻ってきた。




