森林脱出13
強化を優先するあまり食事はおろか睡眠すら摂っていない。
つまり、この世界では何もしなくても生命維持が保証されている。
来たばかりの頃、生命維持や身の安全に躍起になっていた自分が恥ずかしい。
あの果実の木は、偶然設置されたものだろう。内部の生命体に配慮しているわけではないのだ。
ただ、偶然とはいえ、まともに食べられるものを用意してくれたことには感謝したい。
お陰で偏食による検証の第一歩を踏み出しやすくなった。いきなり葉っぱや木の皮に齧り付くには抵抗がある。
久しぶりに果実の木に向かう。当然、未強化地帯なので、適当にユズカブレスで吹き飛ばすことを忘れない。
果実の木は相変わらず赤い実を実らせている。身体全体が強化されているので、果実を破壊しないように実と枝を繋いでいる部分をチョキで切断し、空いた手で受け止めることで収穫する。
果実の重さを全く感じないことに、今の肉体の異常性を感じる。
手のひらにある果実を齧ってみる。シャボン玉でも口に入れたかのように抵抗がない。
私の咬合力は生物が到達してはいけない域のようだ。口腔が空間を削り取っているのかと錯覚するほど、サクサク果実が無くなる。
まあ、今回の検証には丁度良い。柔らかければ幾らでも食べられる。偏食の基本は同じものを大量摂取なので、とにかく果実を食べまくる。
10個も食べれば身体の見た目に影響が出て来る。胃は膨らみ、腸もパンパンになっている。どんな衝撃を受けても傷一つ付かない体だが、食事という行為では簡単に形状を変化させる。
体に備わったありきたりな機能を通常使用する分には、馬鹿げた強化の力も発揮されない。
慎重に食べる量をセーブする。過剰に食べた場合、強化が発動して、食べたものを消化し尽くすかもしれない。
出すものも出しておく、あくまで通常のバイオリズムに従う。
果実の継続摂取は、糖分の蓄積を目的としている。
体に良い行いではない。しかし、通常の生活の中で起こり得る肉体の変化だ。
ようは慢性的な健康被害を発現させようとしているのだ。生活習慣病というやつだ。
世界は生活習慣の強制をすることはできないはずだ。今まで大分無茶をして来たが、行動を規制されたのはテスト飛行のみだ。
今回の偏食は幾らでも継続することができるだろう。
1日5食とし、一回の食事で果実10個を食べれば、いずれ糖尿病になる。
病気は世界の望まぬ変質であろうから、なんらかの外的介入か、良くすれば価値なしと判断され脱出が叶うかもしれない。
とにかく食べて寝る生活を開始した。体内の糖が消費される恐れのある運動もしないことにした。
完全にだらけきった生活を継続する。
あまりにも暇な生活なので、夜空の観測を行うことにした。
この世界は恐らく公転している。一度記憶すれば忘れないので、夜空を定点観測すると、星の位置が少しずつ変化していることが分かる。
勝手にいやらしい名前の星座を作るのが、私の密かな楽しみとなった。
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偏食の効果は一向にでない。少しくらい太ってもいい頃合いなのに、全く体型に変化がない。
体重は測定不能なほどなのに、この貧相なボディは全く変化しない。
「そうか!体重か!」
体重のことを思案して、ひとつ気がついた。
私は私の体のままだと思っていたが、質量は増えているのだ。
そうなると健康被害が出る糖の摂取量も大幅に多くなるはずだ。
これは長い闘いになる。
ならば、別案の偏食プランも並行で進めておくことにした。
糖より少量で済む体に悪い食べ物の探索を開始することにした。
食事の合間は、食材の探索を行う。
派手な運動はできないので、移動は歩きになる。
果実の木との往復を減らさないと効率が悪ので、服を作っている巨大な葉を袋状にして果実入れにした。
1日分の果実50個を入れて運べば、探索と食事を効率よくこなすことができる。
遂に私のアイテムストレージが二桁に到達した。来たばかりの頃から考えると目覚ましい進化だ。
果実を背負い、食材探しを開始した。
食材と言っても私の咬合力で食べられない物体は存在しない。見つけた物を手当たり次第口に入れるだけの簡単なお仕事だ。
食べた物の情報は私が理解できるので、嗅覚にフィードバックして、同じ物を食べないようにすることが出来る。
木、草、花、石、土、砂など何でも食べた。探しているものは、主に毒となるものだ。
毒の発見は最初難しいかと思われた。
毒だった場合、私の体が自動レジストして無害なものに変換してまうかもしれないからだ。
しかし、味覚に集中したせいか、食べたもののより正確な情報を理解することが出来るようになった。
例えば、南にある黄色い花には甘みがあり、これは果実と同じ糖だ。しかし、北の巨木の樹皮にも甘みがあるが、これは別ものの糖だ。
私の中に世界の構成物に関するデータベースが着実に揃っていった。
毒物に関しても多種発見できた。南にある黄色い茎の草の根に含まれる成分が一番強い毒だ。
ただ毒の効果は不明だ。体に何の影響もない。
大樹と奇岩も当然食べた。大樹は果実の木がある辺りに植えられている檜みたいな木と同じものと分かった。ただし、内部に異常に硬度の高い金属の繊維が広がっていた。あそこまで、大きく生育できたのは、金属繊維のお陰でだろう。
奇岩自体は、未知の金属で出来ていた。硬さもあるが、衝撃が加わると柔軟さを発揮する。
奇岩内部の気味の悪い物体は、動物の化石だと分かった。今は綿のようになっている部分も含めて、一つの生命体だったようだ。
ようやく出会った動物はただの化石だった。
化石があるということは、時間による変化はあるということだ。
この世界が、寄せ集めのパーツで後発に作られた場所だとしても、それ以前に時間が流れていたことの証明になる。
やはり、ここだけが世界の全てではないのだ。
外の世界はある。脱出する先はあるのだ。
他にも時間の流れの残滓を感じられる場所が残っている。
時間経過によって過去を閉じ込める場所。即ち地面の下だ。
外の世界を感じさせた僅かな熱が、私を地下探索に駆り立てる。
まだ食材を探していない場所でもある。
私は腕を地面にめり込ませていた。




