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詠唱がクソほど長いエルフの返り咲き  作者: 真月 一蓮
三章

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第31話 絆ボンバー

 アールが出て行ってから、もう一度実験をこなした。


「そこの箱を取ってくれる? 中にお菓子があるから、お茶を淹れるわ」


 グレナが指したのは棚にある小さな小箱だ。デスクからすぐ手が届く位置にある。興味は買ってくるまで、部屋についたらポンと置いて忘れられたような置き方だった。


 開けると、マフィンの良い匂いがした。甘いものってどうしてこうも心を安らかにしてくれるのだろう。

 椅子に座ると、疲れを感じた。あたしは言われた通りに動くだけだ。けど慣れない実験に付き合うのは肩が凝る。それに無属性魔法を使うのは、まだ抵抗がある。


「そう言えば、王宮では連続で【障壁】を使ったそうじゃない。とんでもないことよね。あのクソ野郎。無属性魔法を使う感覚ってどうなのか、メモしてくれた?」


 グレナさんはちゃんと怒る顔をしてくれた。


「忘れてた」


「じゃあ、どんなの。ってビレステは魔法が使えないのよね。比較ができないか。寿命を使う時ってどんな感覚? なんでもいいわ」


「どんなって言われても。むぐむぐ」マフィンを一口食べる。蜂蜜の味が濃くて、美味しい。「なんか、()()()です」


 こんなに美味しいお菓子を放置するなんて。グレナさん非道い。でも大丈夫よ。あたしは置いてけぼりになんてしない。箱の中のマフィンは全部まるっと責任をもちます。残すようなら頬に詰め込んででも食べて帰るっ。


「へぇ。倒れて寝込むくらい消耗するのに……。それとも命を吸っているのかしら」


「うぅん。なんか守られているようなって、実際守ってるからそう思っているのかもしれないけど」


「いいわ。有難う。貴重な意見よ」


 グレナはお茶を飲み、小さくマフィンを齧る。グレナさんて、仕草が大人よね。どうしたらあたしもそう成れるんだろう。

 視線に気付き、ビレステの顔を見る。目が合った勢いで聞いた。


「グレナさんて、アールのこと好きなんですか?」


「好きよ?」


 当然のように言った。


「え。なんで」


 結婚しているのに。ビレステはそう聞いたつもりだが、グレナはアールのどこが好きかという問いだと思った。


「だって顔いいじゃない。同じ職業だから仕事の理解もあるし。研究の邪魔されると凄くムカつくのよね」


「そっかあ」


「あと性格もね。あいつ結構面白いから」


 にひひ。と悪戯っぽく笑うグレナさん。

 その笑顔はビレステの知らない、研究所で働いていた時のアール、それとアイゼさんの面影を映していた。

 どこか懐かしくて、でも変わらない何か。三人の友情とか、離れていてもお互いの心が分かり合える絆とか。そんな感じのものが糸になっている。細くて見えないけれど、指で辿れば確かに結ばれていた。

 寂しい時は糸を引っ張り、繋がっている感触を確認してみる。引っ張られたら、ビヨンビヨンと波打たせ、あるいは大縄跳びみたいに回して、応答する。


 羨ましいし、輪に入りたいけれど、そこにビレステの存在を長く留めるのは不可能だった。それは三人の世界だから。いつかあたしもそんな関係を作れるだろうか。


「つんけんして、如何にも論理的思考が大好きなクセに、子供が好きでしょ」


 少しの時間だけ考え事をしたビレステに、グレナさんは気付いていない。


「――、好きかなぁ。でもラザニ村で子供たちに魔法を教えてましたよ。なんか小難しい感じに」


「もともと難しいものだからしょうがないわよ。それにたぶん魔法の面白さを知って欲しかったのね。自分が魔法大好きだから」


「ふぅん」


「それと外から見たら呆けたような、――いや呆けたは違うか。いつも考え事して、落ち着いた雰囲気でしょ? でも導火線短いのよ」


「怒りっぽい? あたし怒られたことないです。でもイイ子だから、そりゃそうか」


「んー。ビレステがイイ子? まあっ、そうね……。怒りっぽいって些細なことで怒る感じではなくて、嫌なことをされた時に怒るまでが早い」


怒る範囲ではなくて、怒るまでの距離の話だった。


「あ。それは分かります。子供に教えてる時とか、失礼なこと言われてると、いま我慢してるなって分かるもん。あれ子供じゃなかったらキレてたんだろうな」


 詠唱が長いと、村の子供が文句を言った時があった。


「そう。王宮でもそうだったでしょ。普通は国王の前でキレるなんて、よっぽどの事があっても出来ないわよ。どんな事言われたって我慢するわ」


 あの時、アールの表情が変わった時を思い出した。効果音を付けるなら、ブチブチブチッ、だ。


「ギャップがね。いいの」


 グレナさんは目だけで笑う。それはやっぱり好きな人のことを話している人の顔だった。


「でもアールとは付き合わなかった?」


「性欲とか、恋愛欲がほとんどないのよ。年を取って枯れてるのか、それとも種族が原因かは分からないけど」


「ええ。嘘ですよ。アイゼさん、村を出る時すっごく心配してました」


 浮気しようものなら蹴り飛ばせ。アイゼさん、本気の顔だった。


「だって考えなよ。男だろうが女だろうが、あんな顔のいいエルフたちが性欲の限りに口説いてみなさい。そこら中にハーフエルフがぽんぽこ産まれているわよ。そうなってないのだから、そうなの」


 エルフは男性だけでなく女性もらしい。そんな人に迫られて、断れる人をうまく想像できない。


「うあ。そうかも。エルフってみんなアールみたいなんですか?」


「そうらしいわよ。自分は平均くらいじゃないかって言っていたし」


「あれで平均。凄いし、怖い。よくアイゼさんは結婚しましたよね」


「アイゼは虫も殺さないような顔して、あれで腹黒いのよ。知らないでしょ。策略で負けたわ。なにせアールの実家に突撃したんだから」


 腹黒いのは、ちょっと知ってるかも……。ビレステは無意識に自らの肩を抱く。


「まあ、突撃の話はアイゼに聞きなさい。そろそろ始めましょ」


「アール長いですね」


「約束もないなら、会えないのは不思議じゃないわ。仮にも魔法長官よ」


「それとも喧嘩してたりして」


「導火線が短いし? 勘弁してよ。せっかく魔王城の通行許可下りたのだから、大人しくして欲しいわ」


 アールの魔力の研究が進むと、グレナの古代魔法の研究も進む。そう続けようとした口は爆音に遮られた。

 キュッ。と空気が張り詰めるその刹那に、壊れないはずの硬いものが、内から破裂したような音がした。窓がガタガタと音を立てる。

 ビレステの肩が跳ね、目が真ん丸に驚いて固まった。グレナも組んでいた足を解く。

 研究室がほんの少し揺れ、すぐに収まった。少しして廊下からは困惑した声が聞こえてきた。


 なんだなんだ

 火元はどこだ?

 魔法具の暴発じゃないか

 いや、それなら第二棟の筈だ。煙が上がっているのは第一棟みたいだぞ


 第一棟には所長の執務室がある。所長とはもちろん、プリーニのことだ。


「大丈夫ですよね……?」


 グレナはなにも言えない。建物を揺らすほどの魔法を使える人物は限られているからだ。

 研究室のドアが勢いよく開く。


「ビレステ。逃げるぞ」


 それは例えば、そうね。――この()()()()()()のアールヴァクとか。

皆様のお陰で三十話を越えることができました!

気に入った回や、印象に残った回があれば、話の番号だけでもいいので感想に書いてみてください。とても元気付けられます。

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