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詠唱がクソほど長いエルフの返り咲き  作者: 真月 一蓮
一章

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第0話 あの「日」

 ――物語より五年前。


 ビレステは夕方までに遊びをやめ、孤児院に帰らないといけない。ボラさんに怒られるからだ。


 花を結んだ草の冠はようやく半分を過ぎたところだ。ちょっと手首が疲れてきた。


 影が長くなると、地面が見辛い。


 手をぷらぷらと揺らして、それから目元を擦った。


 ビレステは空の色を確かめるので、首を上に向ける。夕焼けを見て、自然と唇がぶすっと尖った。



 あれ?



 何かを見つけたのか、目が丸くなる。



 いつもは一つの太陽が、二つあった。


 一つは見慣れた夕陽で、その横で妹みたいに一回り小さい大陽が並んでいる。土混じりの指でまた目をこする。余計見づらくなるけれど、ビレステは気にしない。

 まだ太陽は二つあった。



「あれなんだろ。……ボラさんに教えてあげよっ!」


 早く早く。


 走り出す。


 孤児院に着く頃には、花冠がどの段階で手を離れたのか、どうして作っていたのか思い出しすらしなかった。


「お帰り、ビレステ。地震かしらねぇ」


 地面が振動し、びりびりと空気が震えた気配がした。屋内にいるボラには、気のせいかもしれない。という程度だった。ビレステは夢中で走っていたので気付かない。


「ボラさん。太陽が二つあったよ」


「夕日?」


「そう。二つだったの」


「どんなのだった?」


「夕日みたいだった。でも色はもっと赤いの」


 想像力が豊かねぇ。ボラさんは抱いている子供を、よっこいしょと抱き直す。

 ビレステが触れようとして、手を洗ってからにしなさいと避けられる。


「凄い魔法使いがいるのかもね」


 内緒話をするようにボラさんが言うせいで、ビレステはどうしてかドキドキした。


「魔法つかってみたい!」


「教えてくれる人が居たらいいのだけど。あ、最近引っ越してきた人でね。凄い人が居るらしいのよ。お忙しいでしょうけど頼んでみようか」


 ビレステはボラの周りでトタトタ小躍りをする。

 夕飯が茄子の入ったシチューと聞いて、その動きはぴたりと止まった。

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