表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/50

010 魔塔での直診

 私はウィリアムに面会を申し入れ、すぐに執務室に向かった。


「王妃、どうした?」

侍女や宮廷医師にも口止めをしたし、取り次いでくれたマクレガー子爵や、報告に来ていた行政官たちも人払いした。外に広がっていい話ではない。


「エドワードの事です」

「何かあったのか?」

「夜泣きについては先日ご報告しましたが、原因が判明しそうです。マナが体内に溜まっているそうです」

「魔力はないのではなかったか……」


「はい。健康診断でも発現はなかったので……。宮廷医師が体内のマナが増えていると言い、魔塔に直診を依頼するかもしれません。今宮廷医師のルイスが、国家医師団と協議中です」

「それで、何が問題なのだ?」

「マナを対外に出す方法や鎮める方法がないので、体が耐えられない可能性があります」

命の危険について、言葉にするのが辛かった。


「……命の危険は?」

「このままでは、危険だそうです……」

自分一人で抱えるのが辛いせいか、私は早口で事情を伝えた。


「危険とはどういう事だ!宮廷医は何をしているんだ!」

ウィリアムが怒鳴った。

「陛下、外に聞こえます。お鎮まりください!」

私は小さな声で制した。

「これが落ち着いていられるか。王子の体に危険があると聞かされたんだぞ……!」

「ルイスが今調整しておりますので。魔塔に依頼する事になったらお許し頂けますでしょうか?」

王子の体を魔塔の魔導士が扱う事を、ウィリアムが許してくれるか心配だった。


「結果が出たら、ルイスと魔塔に直接話を聞く。いつわかる?」

「……急がせております」


「まだ、母上には言うな。どこに広がるかわからんからな……」


ウィリアムも衝撃を受けたようだった。


***


結局、魔塔で直診を受ける事になった。

国王夫妻が王子を連れて魔塔を訪れるなど、初めての事である。表向きは国王の視察として偽装した。


魔塔の中央棟に私たちは向かった。

「こちらでございます」

案内された場所には、白い石の寝台位の大きさの台がある。その隣に丸い台があり、光る石を埋め込んだ魔術具が設定されていた。


ティムの他にも高位と思われる魔導士が三人おり、私たちが入室すると跪いて礼を執った。

「王国の太陽、王国の月、王国の星、両陛下と王子様に魔導士、ヘルガ、デルタ、ダービル、ティモシーがご挨拶申し上げます」

代表と思われる女性魔導士ヘルガが、代表して挨拶をした。


「訪問に応じてくれて感謝する」

「本日の直診を行わせて頂くのは、S級魔導士、ティモシーでございます」


「王子様のお体に触れさせて頂く事をお許しください」

ティムがエドワードの前に進み出て、跪いた。

「許します」

予め教えたように、エドワードが拙いながらも、きちんと答えた。

ティムがエドワードを抱き上げて、白い寝台の様な石の上に座らせた。石の上には薄い寝具のような敷物が敷かれていた。ティムはエドワードと目線を合わせて、静かにこれから行う事を説明した。


「王子様、こちらの聖水をお飲みください。それから私がお手を取らせて頂き、お体のマナに触れさせて頂きます。何も痛い事や心配な事はありません。眠くなりましたら、そのままお眠り下さい」

エドワードがこくりと頷いた。


エドワードが聖水を飲み干したら、ティムがエドワードの左手を両手で包んだ。包んだ手が薄っすらと光るのが分かった。エドワードはその手をぼーっと見つめている。

「お苦しくはないですか?」

ティムが声をかける。

「うん、大丈夫……。眠い……」

エドワードが右手で目をこすり始めた。周りにいた他の魔導士がエドワードの体を横たわらせた。


ウィリアムと私は少し離れて見守っていたが、心配になってきた。

「大丈夫なのか……?」

ウィリアムがヘルガに声をかけた。

「はい、今ティモシーが薄く細く、王子様のお体に魔力を流しております。じんわりとお体が温かくなります。それで眠くなられたのでしょう」


「痛みはないのですか?」

私はエドワードが苦しい思いをしていないかが、心配なのだ。

「むしろ、気持ちがいいかもしれません。マナをティモシーの魔力が誘導して、全身に行き渡らせているところです。血液の速度と合わせて自然な速度で回しておりますので、目覚めましたら体が楽になられると思います」

「あなたには、それが見えているのですか?」

「……はい」


暫くの間ティモシーは横たわるエドワードの左手を、両手で握って魔力を流していた。そのうち、片手をエドワードの右手に伸ばした。

(何をしているのかしら……?)


「余分のマナをティモシーが右手から吸い上げております」

ヘルガが説明してくれた。

(心が読めるのかしら!)


私が驚いていると、にっこりと笑って言った。

「心を読めるわけではございません」

「やはり、出口がないのでしょうか?」


「魔力はマナが変化して外に出る時に魔力になります。王子様の場合は、大量のマナが体を常時流れており、エネルギーが過剰な状態になっておられます。それを外に出すには、エーテル体に外部へ開く場所が必要なのですが、王子様はそれが出来ておられません」


「エーテル体は、体を覆うエネルギー体ですよね」

「はい、マナの量は個人差があります。魔力に変換できる程マナ量がある人は、一定の量になるとエーテル体の一部が外部に開かれていきます。開かれる前に、急激にマナ量が増えたのかもしれません」


「いずれ、開くのだな?」

ウィリアムが聞いた。

「非常に珍しいケースなのですが、おそらくは……。ただ開かれるまで、慎重に見守って差し上げる必要がございますね」


「終わったのか?」

エドワードが、魔導士たちに助けられて体を起こしていた。ティムが魔道具にエドワードの指を当てて、魔力を測っていた。どうなったのだろうか……。


「魔力は発現してはいませんね」

ヘルガが言った。ティムがエドワードを抱いてこちらに歩いて来た。

「母様!」

エドワードが私に手を伸ばしてきたので、ティムからエドワードを受け取り抱き上げた。こんなに機嫌のいいエドワードは珍しい。


「どんな様子だった?」

ウィリアムがティムに状況を尋ねた。

「体内のマナ量が、この年齢のお子様とは思えない程増えておりました。また、マナが止まっている場所、動いている場所とまだらになっており、それが血流を邪魔していました」

「それが夜泣きの原因だったのか?」

「おそらくは。一旦全身にマナを回して、余分なものは私が吸い上げましたので、暫くは大丈夫でしょう」


「そうか。世話をかけたな。今後の事はまたいずれ改めて相談させてもらう。また、今回の謝礼も後ほど届けさせる」

「過分なご配慮感謝申し上げます」

魔導士たちが礼を言った。



帰りの馬車でエドワードはコロリと眠り込んだ。

エドワードは昼寝も苦手な子供なので、乳母も私も驚いた。夕食もしっかり食べてくれて、夜は泣く事もなく、今までの事は何だったのかと思う程楽に寝てくれた。そして朝までぐっすり眠った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ