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011 ティムの提案

 魔塔から帰って、エドワードはびっくりする程元気になった。夜泣きの体力を見ていたので特に体が弱いという印象はなかった。だが、どこかいつも居心地悪そうにぐずっていたのが、すっかり収まったのだ。ウィリアムも私も、ほっと一安心していた。これから時々直診を受ければ、問題はないと思っていた。


 そんな時、父のフォースリア公爵から面会の依頼があった。


「お父様、どうなさったのですか?」

「エドワード王子のご体調の事は聞いた。大変だったな。実は、ティモシーから連絡があってな……」

「え、ティムですか?申し訳ございません。お知らせしておりませんで」

「いや、構わん。王子様のご体調の事だ。対外的に秘匿すべき事項だからな」


「はい。現在は小康状態ですが、解決した訳ではありませんので……」

「ティモシーからの提案なのだが、王室の専属魔導士になりたいそうだ」

(まさか、ティムが?)


「ああ。エドワード王子の専属として、ご体調の管理を主とした仕事を出来るように助力の依頼があったのだ。魔塔とも話はついているそうだ」

「なぜ、そのような……。まさか、実はエドワードの体に危険が?」

「ああ、私もその点が気になったのだが。お前も知っている通り、あまり余計な事を話す男ではないからな……。だが、是非フォースリア公爵家の口添えが欲しいと言うのだ。何も聞かずにな」

 父は困惑したように言った。


 ティムは子供の頃から優秀で魔力の扱いに長けていた。生家の伯爵位は長男が継ぐため、彼は魔導士としての進路を選んだ。遠縁にあたるフォースリア公爵家でも、彼の後見をしている事情がある。


「お父様は、どう思われますか?」

「ああ、ティムがついてくれれば安心ではあるな。ただ、あの男が碌に事情を話さんので、王子のお体が心配なのだ……」

「そうですわね……。でもティムが側で見てくれれば、心強いのは確かですわ」

「そうか。では、陛下には私からお伝えしよう」

 父の様子を見ていると、臣下ではあるが祖父としての心配の方が勝っているように思える。


(あの、ティムが、なぜこんな提案をしたのかが本当に気になるわね)


 父の公爵はそれからすぐにウィリアムに進言したようだ。ウィリアムも一度の直診でエドワードの体調を整えたティモシーに信頼感を持っていたようた。エドワードの体調が回復するまでという条件付で、専属魔導士になる事を許可した。


 魔塔と王室の関係が悪いわけではないが、王国に大聖堂があり聖職者と魔導士は立場が相克する。そのため王室は中立を心掛けている。大聖堂からもらった聖水が効かなかったと言えばいいのだが、表向きは大聖堂の立場も尊重しておきたい。


(王子の体調管理……なら、大丈夫ね)


 エドワードの体調について一定の判断と対策が取られたため、ウィリアムは安心したのかまたオートナムに気持ちが向いているようだ。再び、側近たちと新しい側室の受け入れに奔走しだした。私はといえば、不快ではあったがそれより、息子の体調とティムの申し入れの真意の方が気にかかっていた。


 ウィリアムの許可が下りてすぐに、ティモシーは入城した。そしてその日のうちに、私の元に挨拶に訪れた。


「王妃様、この度は王子様のご体調管理をお申しつけ下さり、感謝の念に堪えません」

「……ふう。ティム。人払いしていますので、正直に話してちょうだい」

 同じ家門のローレンだけを残して、他の侍女は下がらせた。


 ティムは肩をすくめて言った。

「ソフィア、何を心配しているんだ?王子のお体は安心して貰って構わない。もう命の危険はないと約束するよ」

「やっぱり、かなり危険だったの……?」

「そうだな。思ったよりマナの量が多かったからね……」

「成長すれば、魔力としてコントロールできるのかしら?」

「そうなるはずだ。そう出来るように専属の申し出をしたのだからね」


(でも、ひとつ心配があるわ……)


「魔塔は大丈夫なの?あなたは出世コースだったはずよ」

「ふふ。全く問題ない。むしろ王室に恩を売ってこいと言われたよ」

「エドワードが完治したら、大変な恩になるわね」

「だろう?だから、俺にとってもいい話なんだよ。だから申し出た。そう思ってくれ」

 ティムは普段きれいな顔を眼鏡で隠しているが、こんな風に笑うと隠しきれない。


(子供の頃から変わらないわね)


「では、王妃様。これで失礼いたします。宮廷医の王子のご診察に立ち会う予定ですので」

 いつものように、おどけた風情で騎士のように挨拶をしてティムが立ち去った。


「王妃様、ティモシー様は相変わらずですわね」

 ほうっと、ため息をついてローレンが言った。


 家門の集まりなどで顔を合わせるティムは、貴族の貴公子然とした姿でもどこか自由な空気を纏っていた。それが彼の魅力でもあり、それに憧れる女性も少なくなかった。ローレンも、ティモシー様は素敵と以前から言っていた。

「そうね、変わらない。彼は昔からね」


 幼い頃から同い年の彼とは気があった。魔力のコントロールを学ぶのに、彼の生家のロッドランド伯爵家に通っていたのだ。私の魔力はティムとは比べ物にならなかったが、彼と学ぶのは本当に楽しかった。


 それからは、ティムはエドワードの体調管理のために、毎日王妃宮の子供部屋に訪れた。必然的に、私とも顔を合わせる機会が増える。王子の体調の報告として、宮廷医のルイスと一緒にティムが同席しているからだ。これは想定外だったが、私の心にもいい影響を与えているようだ。


(何だか、彼が来てから心が軽くなったみたい。新しい側室の事が少し気にならなくなったからかしら?)


 もちろん余計な会話をするわけではないが、自分の味方である人が側にいるとこんなにも心が落ち着くのかと、不思議な気分になった。


「王妃様、エドワード王子のご体調は安定しております。マナは日毎に量を増やしておりますが、ティモシー殿が毎日ご調整下さっていますのでご安心下さい」

 ルイスはエドワードの夜泣きの原因が掴めない間、非常に心労があったようだが、今はすっかり安心しきっている。


「王妃様、王子のマナは少しだけ特殊な部類となりますので、出来れば魔力が発現するまでは毎日マナをご調整させて頂きたいと思います。また……王妃様ご自身も、マナのご調整が必要かと存じます」

 ティムの言葉に、ルイスも驚いたようだ。

「ティモシー殿、それは……?」

「王妃様は魔力をお持ちですし、訓練もされて来られた方です。ですが、ここ最近王妃様にお目にかかって、マナが不安定であらせられるとお見受けしました」


(ウィリアムと揉めていたせいかしら……)


「よろしければ、王子とご一緒にご体調の管理をさせていただけないでしょうか?」


(ティム、あなた、何を言い出すの?)



















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