第16話 スッテンコロリンドンドコドーン
翌朝。
今日も今日とてカベッサさんの部屋に向かう。目的は勿論、昨日話しそびれた事だ。
柵の中に何があるのか、そしてあの時のエミリーさんの様子について心当たりがないか。それを聞こうと思ったんだった。
「カベッサさーん、ちょっと良いですか」
ノックをすると、すぐにドアが開いた。
「なんだい、こんな時間に」
いつも通り死んだ表情をしているし元気そうだ。
「あーまあなんて言うか大したことではないんですけど。森の奥に立ち入り禁止になってる場所ってあるじゃないですか? あそこって一体何で禁止になってるんですか?」
僅かにカベッサさんは顔を曇らせた。
「どうして急にそんなことを?」
試すように聞いてくる。 やはり何か知っていると見て間違いないだろう。
「一昨日エミリーさんに村を案内したんですけど、その時にふと思い出して」
「……とりあえず中に入りな」
部屋に入れてくれる。
改めて見ても殺風景というかなんと言うか普通の部屋だ。ベッドと机、それに本棚。それ以外のものは一切部屋に見当たらない。当然だが、壁にお気に入りのアイドルだかアニメだかのポスターが汗臭いほどにびっしりと貼っていることもなければ、かと言って時計すらないわけだ。最低限という言葉しか出てこない。ま、僕の部屋も同じようなものだけど。
「それで? まさかとは思うけど入ってはいないだろうね」
カベッサさんは椅子にこしかけると、改めて確認するように言った。
「もちろんです」
「そうかい」
安心したように息を吐いた。
「ところであの場所には呪いや祟りなんかがあるんですか」
目つきが変わる。
「どういう意味だい?」
「いえ、実は──」
柵の中に入ったということだけを隠して、エミリーさんの様子がおかしかったことを伝えた。
カベッサさんは苦い顔をして呟いた。
「どうなるかわからない、か……」
「え?」
「とにかくこのことは忘れな。あんたは二度とあの場所に近づいちゃいけない」
顔を上げ、ピシャリと言い放った。
「そんな急に忘れろって言っても……それなら納得出来る理由を教えてくださいよ。そうでないと──」
「ダメだ教えられない。他の人に話すこともあの場所に近付くことも、この件に関わる一切を許さない」
取り合う気もないらしい。僕はなんだかその態度が気に食わなくて聞いてみた。
「もしそれを破ったら?」
すると、カベッサさんははっきりと言った。
「あんたは死ぬ」
「……死ぬ?」
僕は笑った。
「なぜそこまで隠すんですか? そんな嘘をつけば僕が信じるとでも?」
カベッサさんは何も言わない。
どうしてカベッサさんはここまで頑なに隠す? 何かとんでもない秘密があの場所にはあるのか?
疑問はドンドン膨らんでいく。
静寂が支配する空間に、誰かがノックする音がした。
「カベッサさん、ちょっといいですか?」
エミリーさんの声だ。
「はいはい、ちょっと待ちな」
カベッサさんは椅子から立ち上がった。
なるほど、応じるという事はつまり僕との会話はこれで終わりという事だ。だったらもうここにいる意味もないか。
僕は椅子から立ち上がり、そのままドアノブに手をかけ──
「ひとつだけ」
僕の背中にカベッサさんが話しかける。
「ひとつだけ信じてほしい。あたしゃあんたの為に言ってる。そしてそれはあたしの為でもあるんだ。だからあそこには間違っても近寄っちゃいけない」
残念ながらその言葉を信じる気には到底なれなかった。
ドアノブを回して引く。
「え!? うわっ! とっとっと!」
スッテンコロリンドンドコドーン
ドアに体重を預けていたのか。おにぎりではなく銀髪の少女が滑るように転がり込んできた。
「あ」
そういえばいたの忘れてた……。




