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Black Bird  作者: 瑞白青維
落札-Help you.-
5/11





「ダリ」

 科戸(しなと)がダリを呼ぶ。

 ソロの意識が舞台に引き戻される。

 見れば、科戸(しなと)がダリのそばで何かを呼び掛けていた。

 はっとして目を見開く。

 ダリの額から流血の痕が消えていた。

「今の一発で少し目が醒めただろう? いつも通りやってくれ。残り十二人。標的は後方に集まっている。標的付近の座席を伝える。君は記憶している顔を探して」

 「いいかい?」と念を押す様に問われると、生気のないダリの瞳がゆっくりと一つ瞬いた。

 ダリが生きている。

 科戸(しなと)とのやり取りを見て、ソロの胸に希望が灯された。

 声をかけなければ。

 何でもいいから何か。

 思って口を開いた、

 その時。

「Z-三」

 科戸(しなと)の声に銃声が続いた。

 銃声と同時、ダリが大きく震える。

 火薬の臭いが鼻を掠める。

 ダリの前髪の隙間から赤い筋が垂れていく。

「は」

 目の前で撃たれた。

「……ダリ?」

 ダリは遠いどこか、一点をじっと見つめている。

 見つめていたのだと思う。

 ソロは叫んでいた。

 腹の底から湧き上がるわけの分からない激情に身を委ねる。

 越えられない仕切りに拳をめちゃくちゃに打ち込む。

 ぐにゃり。

 視界が歪んだ。

 熱い涙が頬を濡らしていた。

「あちゃー、ごっめん。タイミング早過ぎた」

 千々になった思考を結びつけたのは(まだら)の声。

 荒い呼吸に肩を上下させながら、彼女を睨み付ける。

 (まだら)は手の中で銃を転がし笑っていた。

 それを受けた科戸(しなと)も涼しい顔で応対している。

 なに笑ってるんだよ。

 ぎりっと奥歯を噛み締める。

 どうしてダリを。

 そう声を上げようとして――できなかった。

「せめて一拍待ってあげて。ダリが困るだろう。ね?」

 科戸(しなと)のその言葉を耳にして、ソロは一時固まった。

 恐る恐るダリを見る。

 白い顔から血筋が消えていた。

 赤い瞳がぱちりと瞬く。

 生きている。

 理解して、心臓がバクバクと走り出した。

 毛穴から冷や汗がどっと噴き出す。

 死んだと思った人間が生きている。

 恐らく無傷でそこにいる。

 弾丸は確実に彼の脳を抉ったはずなのに。

「次、Z-十二」

 ソロが放心している間にも、科戸(しなと)はダリに告げる。

 一拍の間。

 (まだら)が拳銃でダリを撃つ。

 ダリは目を細めて絶命する。

「やめろ」

 ダリが瞬きをする。

 科戸(しなと)が指示を出す。

 (まだら)がダリを撃つ。

「やめろっ!」

 異常な状況を前に、ソロは声を嗄らす。

 仕切りに手を着き項垂れる。

 膝が折れ、その場にへたり込み、涙で床を濡らした。

 その間何度銃声を聞いたか分からない。

 何度友人が殺されたか分からない。

 殺されて、

 生き返って、

 殺されて、

 生き返って……。

 その繰り返しの果てに、科戸(しなと)に「ソロ」と声をかけられた。

「後ろをご覧よ」

「……」

 動けなかった。体が重い。目頭が熱い。なのに頬はひやりと冷たい。全身が寒さで震えを帯びている。ぐわんぐわんと脳内で痛みが脈打っている。

「てんめ、科戸(しなと)が見ろって言ってんじゃん」

 (まだら)の声がしたと思ったら、胸ぐらを掴まれ無理矢理立たされた。「顔きったな!」と笑われたかと思えば、体ごと客席の方に向けられる。

 ソロの全身を音の波が包み込む。

 目の前は地獄と化していた。

 怯えて泣きじゃくる人々。

 逃げ惑う人々。

 大きな体を小さくして椅子の影に隠れる人々。

 相変わらず出口を叩き喚き散らす人々。

 そして、会場内を点々と汚す血痕。

 血に塗れ倒れ伏す人々。

 それを嗤う人々。

 恍惚として舞台を見つめる人々。

 会場内はめちゃくちゃだった。

 言葉を失った。

 凄惨な光景に心を潰されたからではない。

 目視した限り、転がる死体は皆頭部に穴を開けていたからだ。

「皆様、大変失礼いたしました」

 マイクを通した科戸(しなと)の声。

 客席の視線が科戸(しなと)に吸い寄せられていく。

 ソロのそれもまた同様だった。

「オークションの途中ではありましたが、会場内に消去対象を複数確認いたしましたので、実演がてら急遽対象の消去を実行いたしました。事前にご連絡することができず、不快な思いをされた方もいらしたことと存じます。誠に申し訳ございません。しかしながら、オークション開始時に注意喚起をしておりましたので、どうかご了承いただけましたら幸いです。

 さて、六人目の狗はいかがでしたか。彼の呪いは傷や痛みの”転移”。自らが受けた傷や痛みを他者に移すことができます。その能力に制限はなく、彼は今やったように何度でも死に、何度でも生き返ることができるのです。……今のところは、ですが。

 殺傷能力に長けた大変魅力的な呪いを宿すこの狗を、お手元に置きたいと願われる方はいらっしゃいますでしょうか」

 科戸(しなと)が言い終えると、沈黙が場を支配した。

 刹那。

 人々が一斉に、各々が出せる最高金額を叫び始める。

 一人が突出した額を言えば、別の者がそれを必死の形相で越えていく。さらに別の者がより高額を言い渡せば、また別の者が僅かにそれを上回る。その過程を幾度も繰り返す。

「あんた買わないの?」

 客席を見て未だぼんやりとしているソロに(まだら)が言う。

 ソロがのろのろと視線をやると、彼女は眉間に深いしわを刻み睨みつけてきた。

「僕は……」

「別に買わないならそれでいいけど。あんたみたいななよーっとした奴にどうこうできるほどダリの呪いは甘くないし?」

「ダリを撃った君を許さない」

「……はあ?」

 嘲る様だった彼女の瞳に剣呑な光が灯る。

 ソロは正面から視線をぶつけ、先より強く言い切った。

「ダリを撃った君を許さないって言った」

「てめえ、何様のつもり? 許すとか許さないとか言われる筋合いないですけど?」

「あるよ」

「は? おい」

 (まだら)との会話を切り上げ、ソロはダリを注視する。

 赤い瞳は頑なに閉ざされていたが、僅かに上下する胸部の動きから生きていることを再度確認した。

 次に科戸(しなと)を見上げる。

 それに気付いた彼からも視線が返される。

「三億だ!」

「三億五千万! 素晴らしいショーだった!」

「ぜひ私に! 上手く使いこなしてみせる!」

「四億! もっと出せるわ!」

「十億ならばどうだ!」

 飛び交う巨額は想像もつかないほどに膨れている。

 それを大きく上回らなければ、この応酬が止むことはないのだろう。

 ソロは挙手すると、周囲の騒音に掻き消されながらもしっかりと金額を告げた。

 科戸(しなと)がマイクを構える。

「……皆様、只今落札金額が決定いたしました。

 五十億です。おめでとうございます」





 諸々の説明は今後の話の中で出てきます。

 挿絵なども入る予定なので、ちまちま描き進めていきたいと思います。

 ここまで読んでくださりありがとうございます。

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