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インタヴュー ミーナス

15


 2020年10月28日

 トリジア連邦紛争地帯、北端の街ミーナス


 「“深紅の飛龍”。

 本名、ジョージ・“アールヴ”・ケイン。

 元アキツィア自衛空軍第5航空師団第11飛行隊、通称“フレイヤ隊”2番機。

 そう、“雷神”の相棒であり、敵であった男」

 マット・オブライアンのジョージ・ケインに対する取材は、終わりに近づいていた。

 ジョージの知る歴史の真実はほぼ聞くことができた。

 あとは、彼がその時なにを思い、なにを望んでいたのか。

 それが重要だった。

 「あの時は、“レーヴァテイン”が世界を変える唯一の方法論と本気で考えていた。

 誤った秩序は破壊されなければ、世界は何度でも同じ過ちを繰り返すと。

 だからこそ、俺の後釜の若造相手にレーザーの引き金を引いた。

 相棒と俺、どちらが正しいのか、戦って決める。

 そんなことを思って」

 ジョージはそう言いながら哀しい顔になる。

 マットには彼の気持ちがわかる気がした。

 正しいことが最初から正しいと決まっているなら、どれだけ楽か。

 だが、正しいかどうかは往々にして結果論だ。

 それが結果として間違っていたと気づいた時には、全てが取り返しのつかないことになっている。

 そんなことを世界は今も繰り返しているのだ。

 「そして、あなたと“雷神”はついに一騎打ちになったんですか?」

 「そういうことだ。

 不謹慎だが、あいつと戦うのは楽しかったよ。

 俺も戦闘である以上は本気も本気。持てる技量の全てを発揮して挑んだ。

 機体の性能では、第5世代機の中でも最新であるこっちの方が圧倒していたはずだった。

 だが、勝負は拮抗していたな。

 そして…最後は相棒に凱歌が上がった」

 そう話すジョージは、自然と笑顔になっていた。

 本当に、彼女との戦いは楽しく充実していたのだろう。

 そして、その結果に満足しているのだ。

 「勝敗を決したものはなんだったと思いますか?」

 「いろいろあるんだろうが、やはり一番の原因は意志と心の差だったと思う。

 技量だけじゃない。

 あいつにはすさまじいまでの強靱な意志と、いかなる状況でも役目を全うする諦めの悪さがあった。

 悔しいが、国にとって、世界にとって裏切り者に過ぎない俺がかなう相手じゃなかった。

 そういうことだろう」

 この男は、自分を客観視できている。

 マットはそう思う。

 言うは易しの話だ。

 人間は、気がついたら独善に支配されている危険を抱えた生き物なのだから。

 「ジョージさん、これからする質問は無理にお答え頂かなくてもけっこうです。

 ハーケン半島が連合軍に制圧された時、あなたは他の飛行隊とともに脱出を試みたと聞いています。

 ひとつわからないことがあります。

 半島の陥落は避けられない一方で、“レーヴァテイン”を官制していたあなたは、連合軍から逃げ回っているだけでよかったはずです。

 4つの原子炉が落下すればあなた方の勝ちだったわけですから。

 “雷神”と一騎打ちを挑む必要などなかったのでは?」

 ジョージにとっては答えにくい質問であることを承知で、マットは問わずにはいられなかった。

 ゲオルグ・フラーやフェリクス・ベルクマン、そしてニック・ハートモアらから得られた情報を彼なりに整理してみたのだ。

 ジョージが作戦失敗の危険を冒してあえて“雷神”と戦った理由が、どうしても知りたかった。

 「正直に言って、俺にもわからないんだ。

 理由はいくらでも思いつくが、それは後付けの理屈だな。

 俺は相棒に止めて欲しかったのかも知れない。

 今の世界が正しいとは思わない。

 だがだからといって、原爆と化した原子炉を落下させるようなことが許されるのか。

 迷いはあったんだと思う。

 あそこで相棒に敗れるなら、やつが正しかったことになる。

 やつが守ろうとしているこの世界も、まだ捨てたもんじゃない。

 情けないが、そんなことを思っていたような気がするよ」

 マットには、ジョージの苦悩は理解できなかった。

 だが、彼が迷った理由は少しだがわかる気がした。

 ジョージはいくつもの国家に、世界にずいぶんとひどい目に遭わされてきた。

 復讐を考えるのも無理はないと思う。

 だが、自分が見た地獄を他人にも見せれば救われるのか?

 それで望んでいたものが手に入るのか?

 優しさとプライドを持った人間なら、そんな風に迷って当然に思えた。

 決して彼が優柔不断だとか、ぶれているとかいうことではないのだ。

 「俺は死ぬはずだった。

 出も死ねなかった。

 コックピットまで炎が廻ってきた瞬間、反射的に射出座席のコードを引いていた。

 風に流されて降りた先は、あの核ミサイルの爆心地だった。

 なにもない光景が、なんだかすごく哀しかった。

 俺はこんなものを求めて、原子炉を落とそうとしていたのか。

 こんなやり方で世界を変えようとしていたのか、てな。

 でも、そんな俺に声をかけてくれた人たちがいた。

 “ここにいちゃいけない。マスクをつけろ。怪我をしてるなら医者に連れて行ってやる”

 まだ放射能粉じんの除去がすんでいない汚染地帯だが、たくましく生きる人々だった。

 俺は彼らの優しさに助けられたんだ」

 ジョージは真剣な表情になる。

 自分たちの組織の差し金で核攻撃を受けた人々に助けられたのだ。

 やましいところがないはずがない。

 「世界を変えるといいながら、俺は結局ただ暴走していただけだった。

 でもあいつは違う。

 うんざりせず、自分を見失わず、最後まで心に従って戦い続けた。

 世界を変えるのは、あいつのように人を信じる力なんだろうな。

 信じ合うことができれば、憎しみや怒りは生まれない。

 でも、それができないのも人だ。

 俺はまだ戦場にいる。

 罪滅ぼしのために。

 そして、人の心、人を信じる強さを確かめるために。

 ここに答えなどないかも知れない。

 でも、探そうと思う。

 そう、今はそれでいいと思う。答えを急がなくても」

 それは、一生外すことのできない十字架を背負った人間の言葉だった。

 いや、人間であれば、誰しも消すことのできない過去がある。

 大事なのはその過去を否定することではなく、過去と向き合い、それをどう未来に活かすか。

 彼はそう心得て今も生きているのだ。

 一度言葉を切ったジョージは、柔らかい笑顔になる。

 「なあ、このインタヴューはあいつも見るのか?

 もしあったら伝えてくれ。

 ニアラス、まだ飛んでいるか?

 ありがとう、そしてすまなかった。

 相棒、また会おう」

 少し照れくさそうに笑うジョージ。

 その表情が、彼と“雷神”の絆を物語っていた。

 一度は敵と味方に分かれても、ジョージは彼女を信頼しているのだ。

 そして恐らく彼女も同じなのだろう。

 それを知ることができたのはジャーナリスト冥利に尽きる。

 今日の取材は、本当に意義のあるものだった。

 マットはそう思えるのだった。


 ジョージ・ケイン。

 過去と向き合い折り合いをつけ、未来に向けて生きる孤高の男。

 彼は二度と空に上がらないと誓い、今も地に足をつけて戦い続けている。

 一度は否定してしまった、人を信じる力を心に持ち続けながら。



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