”雷神”と“飛龍”
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『くそ!“レーヴァテインの逆噴射を確認!突入するぞ!』
E-767の警告に目線を上げると、雲の晴れ間にわずかにだが、流れ星となって落下しつつある衛星が見えた。
衛星とはついているが、原子炉までふくめると下手な宇宙ステーションよりも大きいため、目視できてしまうのだ。
(やられたか)
それがエスメロードの素直な感想だった。
“自由と正義の翼”の主義主張には共感も賛同もできないが、彼らの執念は賞賛に値した。
最後の一手を打ってくることは、悔しいが予測はできたのだ。
『残念だったなあ、相棒!
間違った秩序は一度破壊されるべきだ。
この“レーヴァテイン”で全てを滅ぼし、ゼロからやり直そう!』
ジョージの勝ち誇ったような狂気的な言葉に、エスメロードはむしろ冷静さを取り戻す。
無責任でまともなビジョンなど皆無な物言い。
それは間違いなく一人のただの人間のものだった。
彼が悪魔サタンの化身ではなく、ただの人間であるゆえの狂気と蛮行。
(ならば、同じ人間である私の手でそれを阻止する)
驚くほど簡単に、エスメロードは決意を新たにすることができた。
(ジョージ、私は本当は今でもお前を愛している。
そんな私だからこそ、お前を否定できる。阻止できる。撃墜できるのだ!)
そう心に刻んだ。
『こちらAWACS。
敵機隊の解析が終了した。
XF-3、コードネームは“マーリン”!
聞け、フレイヤ1!
この機体に通常のロックオンは不可能だ。
ステルス性能が高すぎる上に、放熱パターンのデータもない』
(そのようだな!)
E-767の言うことは、エスメロードにもわかっていた。
“マーリン”を照準に捉えようとするが、ステルス性能が高すぎてガンレティクルが反応しない。
『唯一の死角は、前方のエアインテークだ。
正面角度から攻撃を行い、敵機を撃墜せよ!
今そこで彼を止められるのは君だけだ!
“龍巣の雷神”武運を祈る!』
それに応じてエスメロードはF-15JSのエアブレーキを作動させて減速、旋回し、距離を取ろうとする“マーリン”を猛追する。
スクリーンに、E-767から送られて来たデータが表示される。
XF-3は、主にアキツィア自衛空軍の次期正式戦闘機として国際開発が進められていた機体だ。
ベース機であるYF-23は、ユニティア空軍のトライアルにおいて不採用になった過去がある。
ビーイング社のYF-22とノースロッド社のYF-23は一長一短だったが、最終的に前者に凱歌が上がったのだ。
だが、ノースロッド社に敗者復活の機会が訪れた。
アキツィアが次期正式戦闘機の単独開発を断念したことで、YF-23をベースとしたステルス戦闘機の開発が進められる運びとなったのだ。
『“レーヴァテイン”再突入まであと4分』
E-767からの警告を傾聴している余裕は、エスメロードにはなかった。
(ステルス性能だけじゃない、機動性も見事だな!)
“マーリン”はステルス性能を活かしてこちらのロックオンを許さず、高機動からAMRAAMを放ってくる。
データによると、YF-23ではなかった主翼先端のストレーキが増設されている。
そのストレーキに引き込み式のカナード翼を装備する、可変翼機であるようだった。
通常はカナード翼をたたんでステルス性能を優先。
機動性が必要な時に限ってカナード翼を展開して、揚力と旋回性能を向上させる。
ステルス性能を確保しつつ、YF-23の欠点を解決したうまい手と言えた。
『相棒、皮肉だな。
ピリオドを打つのが、生と死を司る女神、フレイヤ同士とは』
正面方向からの遠距離でのミサイルの撃ち合いは、いずれも外れに終わる。
互いにステルス性能が高すぎるのだ。
『あと3分。
フレイヤ1、やつの前方エアインテークを狙え!』
E-767からの通信にも焦りが混じり始める。
『俺とお前は影と実体のようなもんだ。
似てはいるが、決して相容れない!』
(なんの!)
こちらの後ろを取ろうとする“マーリン”を、アフターバーナーを吹かして振り切る。
(ミサイルも残り少ないな)
エスメロードは冷静に分析する。
残弾は99式が2発と04式が1発。焦って無駄撃ちをするわけにはいかない。
『撃て!相棒、撃ってみろ!』
ドッグファイトでは勝負がつかないと判断した“マーリン”が、わざわざ弱点であるエアインテークをさらして正面突撃をかけてくる。
「その度胸、気に入った!」
エスメロードも敵にロックされる危険を冒して正面から肉薄する。
どちらも、この危険なチキンレースから降りようとしない。
『FOX-2』
「FOX-2!」
ジョージが先に放ったAMRAAMをバレルロールで紙一重で回避し、99式を発射する。
F-15JSの正面方向のステルス性能の高さが功を奏した。
AMRAAMは追従できず迷走する一方、99式は近接爆発によって“マーリン“のエアインテークに致命傷となる爆風を送り込んでいた。
“マーリン”の右エンジンが火を噴き、操縦不能に陥る。
接近しすぎていたF-15JSと“マーリン”は衝突コースに入っていた。
だが、エスメロードもジョージも、どうすべきかを本能でわかっていた。
「くっ!」
互いに機体を右に90度傾け、辛うじて衝突を回避する。
すれ違う彼我の距離は5メートルと離れていない。
「ジョージ!」
エスメロードは、炎上しながら後方に流れ去る“マーリン”を見やる。
だが、振り向き叫んでみても、応答する者はいない。
“マーリン”はそのまま豆粒のように小さくなり、やがて爆発四散した。
(ジョージ…)
エスメロードは今になって目頭が熱くなるのを感じた。
再会したら、足腰立たなくなるまで殴ってやると決めていたのに、それもかなわなくなったのか。
『こちらAWACS。
敵のコントロールが途絶。
“レーヴァテイン”がこちらの自爆コマンドを受け入れた。
フレイヤ1、電磁波に備えよ』
「フレイヤ1コピー」
エスメロードはHMDのバイザーを上げて涙を拭うと、システムを対電磁波モードにする。
F-15JSはEMP対策はされているが、限界はある。
電子機器をオフにして、マニュアルで操縦するのが一番安全なのだ。
『自爆まで5秒、4、3、2、1。今!』
上空でまばゆい光が閃き、レーダーに砂嵐が走る。
無線もひどいノイズだが、なんとか使えそうだ。
「こちらフレイヤ1、フレイヤ2の捜索を要請する。
まだ生きているはずだ」
『こちらAWACS。心配ない、救難信号を受信した。
すでに救難ヘリが向かっている』
エスメロードは取りあえずほっとする。
リチャードが簡単にくたばるとは思えないが、心配であることに変わりはない。
『ニアラス、作戦成功だ。
さあ帰ろう、俺たちの家へ。
お前の帰りを待ちわびているやつらがいる』
「コピー。
ミッションコンプリート。RTB!」
エスメロードは、そう応じて、基地への進路を取る。
にわかに晴れ上がり明るくなった空に、ソトアオのペイントが美しい、F-15JSのマッシブな機影が疾駆するのだった。




