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破壊の光柱

05


 2018年10月2日


 ブラウアイゼン壊滅という連合軍の戦術目標は達成された。

 それをデウスの継戦能力喪失という戦略目標達成へとつなげるべく、地上部隊の北上が開始されたのである。

 

 だが、寄り合い所帯である連合軍は当然のように一枚岩とはいかなかった。

 拙速な進軍に懐疑的な声もあったのである。

 「ミサイル防衛体勢の許可を下さい。

 デウス軍の通信パターンが変化して、衛星を活発に稼働させている。

 やつら絶対なにかを企んでいます。

 できればこちらのミサイル防衛の準備が整うまで、進軍は延期すべきです!」

 アキツィア自衛海軍第2艦隊第6護衛隊所属、ミサイル護衛艦“タンホイザー”CIC。

 艦長であるバーナード・カークランド二等海佐は、マイクに向けて大声を出していた。

 戦闘がフランク大陸内陸部に遷移したため、海自の任務はもっぱら電波の傍受や敵衛星の監視だった。

 だが、後方にいるゆえに見えてくることもある。

 ここ三日ほど、デウス所属の衛星が軍民問わず活発に電波のやりとりを行い、軌道を変更しているのだ。

 何かあると見るのが自然だった。

 が、自衛軍上層部の反応は鈍かった。

 『しかしな。なにかあるという推測だけでは命令を出すわけにはいかんのだ。

 明確な証拠でもない限りはな』

 海自幕僚の1人であるアルノー海将は、官僚そのものの反応を返す。

 「明確な証拠が発見された時には全てが終わっているかも知れませんよ?

 今のままでは連合軍地上部隊は弾道ミサイルなどの攻撃に対して実質無防備です。

 あらゆる事態を想定すべきです」

 「落ち着きたまえ艦長。

 戦闘が内陸部に移って手持ちぶさたなのはわかる。

 だが、連合軍地上部隊の進撃は決定事項だ。延期はできない」

 アルノーの返答に、バーナードは「この阿呆」という言葉をすんでのところで呑み込む。

 「では、なにか危険な事態と判断したら我々独自の行動を取らせて頂きます」

 バーナードの最低限の妥協案にさえ、アルノーは難しい顔をする。

 (この程度のことも即決できんのか)

 バーナードは腹の中で罵詈雑言を吐いていた。

 即断即決ができなければ国を、仲間を守ることなど覚束ない。

 上にいちいちお伺いを立てている間に、弾道ミサイルは落下してくるのだ。

 だが、将来幕僚長、そして成果への進出をもくろむアルノーにはそんな当たり前のことさえ難事なのだろう。

 事なかれ主義がはびこる中央の政治家や官僚たちにとっては、“大山鳴動して鼠一匹”が一番困ることなのだ。

 後になって、“無駄な予算を使った”、“過剰反応で余計な騒ぎを起こした”、と非難されるのを何よりも怖れている。

 そうやって準備を怠った果てにもし世界が滅んだら、彼らはこう言い訳するのだろう。

 「あの時点では世界が滅ぶことは予想外だった」と。

 アルノーのためらいはそれを象徴するものだった。

 「わかった。

 現場で連合軍が危険と判断したらいつでも動け。

 ただし、報告は怠るな」

 「了解しました」

 バーナードは最低限の言質を取ったことに溜飲を下げて通信を切る。

 「船務長、隊司令につないでくれ。

 念のため第二警戒態勢を維持するように具申する」

 「は」

 現在護衛隊の旗艦は“ラインゴルト”級ミサイル護衛艦、“ゲッターデメルング”に置かれている。

 座乗する隊司令に連絡を取り、護衛隊全体でミサイル防衛を含めたあらゆる事態に対処すべき。

 それがバーナードの考えだった。


 デウス公国上空の静止軌道上。

 無骨でマッシブな姿をした大柄な衛星のひとつが、地上からの指令を受信してその正体を現そうとしていた。

 デウス国防宇宙軍所属。多目的衛星“レーヴァテイン”。

 外見的に一番目を引くのが、円筒状の本隊に外付けされた、二回りほど細い四つの円筒だった。

 実はそれらは原子炉であり、太陽電池パネルでは供給不可能なエネルギーを発生させることが可能になっている。

 48時間をかけて稼働状態に入った原子炉から、衛星本体のコンデンサーにエネルギーが送られ、蓄積されていく。

 衛星本体の中央部には特殊なガスが充てんされた円筒状のスペースがある。

 内部には磨き上げられた鏡が取り付けられている。

 原子炉から送り込まれた破壊的な規模のエネルギーはコンデンサーによって圧縮され、すさまじい力で内部のガスを振動させ始めた。

 そして振動が臨界になったところで、円筒の地上がわの一方が開放される。

 規格外のエネルギーは超強力なレーザーとなって解き放たれ、地上に降り注いだ。

 

 『こちらAWACS。

 静止軌道上より高エネルギー反応!各機、散開!』

 E-767からの警告に、連合軍地上部隊部隊のエアカバーを行っていたフレイヤ隊は反射的に回避行動を取る。

 だが、すぐにその必要はないことに気づく。

 なにが起きたのか、ほどなくわかったからだ。

 はるか上空から光の柱が地上にむかって伸びる。

 光の柱は地表をなぎ払い、断続的な爆破が起きるのが遠目にも確認できる。

 『くそ!レーザー兵器の類いか?』

 『うわさには聞いていたけど…。まさかこれほどの威力があるとは…』

 ジョージとリチャードがただ驚嘆した様子で言葉を交わす。

 単純な破壊力もそうだが、軌道上から光の柱が地上にむかって伸びたすさまじい光景に、恐怖と驚きを感じずにはいられないのだ。

 「フレイヤ1よりAWACS。

 地上部隊の被害はどうなっている?」

 『地上部隊は大混乱に陥っていて詳細不明。

 ただ、ざっと三割から四割の部隊の反応が消失した。

 弾薬や燃料を満載していた砲兵隊が狙われたらしい』

 エスメロードはE-767からの返答に、F-15Jのコンソールを拳で叩きたくなった。

 野砲や自走砲、そして弾薬補給車で構成される砲兵隊は、破壊的なエネルギーにさらされた瞬間それ自体が爆弾に変わる。

 恐らく、搭載していた燃料弾薬が爆発し、他の部隊を巻き込んで消し飛んだことだろう。

 「次弾が来ると思った方がいいぞ。

 衛星を撃ち落とせないのか?」

 『今司令部がその方法を考えているところだ。

 君たちはエアカバーに専念せよ。

 この機会を敵が逃すわけがない』

 呑気なことを、とエスメロードは思うが、実際自分たちにできることは限られている。

 今はエアカバーに専念するのが役目だった。


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