追撃の行方
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2018年8月31日。
デウス軍絶対防衛圏D9T。通称“龍巣”。
1週間の激戦を経て、デウス国防軍は“龍巣”を維持できず、撤退を決定していた。
だが、戦闘は鎮静化するどころかむしろ激化していた。
撤退する友軍のエアカバーのために、デウス空軍の精鋭たちが集中投入されていたのだ。
“仲間の命を守る”。
その一念をモチベーションとしたデウス空軍航空隊が、連合軍の前に立ちはだかる。
厚く強固な壁となって。
連合軍も、“龍巣”の実行制圧を完璧なものとすべく、全力を持って対峙する。
古来多くの兵士の墓標となってきた“龍巣”において、さらなる流血が不可避なものとなっていた。
「フレイヤ1より連合軍全部隊へ。
弾薬と燃料が3割を切った者は補給に戻れ。それ以外は続行せよ」
『こちらユニティア空軍第レイヴン隊だ。
援護する。そのまま進め』
エスメロードの通信に、ユニティア空軍の飛行隊が応じる。
ユニティア空軍第10航空師団第3航空隊。8機のF-35Aで構成される部隊だった。
(たしかヘンリー・ニコルソンとか言ったか?TACネームは…“アイアンクロー”)
エスメロードは、出撃前のブリーフィングで顔を合わせた男の顔と名前がどうにも一致しなかった。
“龍巣”の南まで突出してきたデウス軍航空隊を殲滅した連合軍は、作戦を次の段階に進めようとしていた。
国境線のデウスがわで強固な防空網を形成する敵航空隊。
これを殲滅せずして、“龍巣”の実効支配はならなかったのだ。
『こちらAWACS。
レーダーに感。敵の防空戦力、数28。
各隊、交戦せよ』
E-767からの通信とともにデータが転送されてくる。
相変わらず旧式のMig-21の部隊だが、練度は高いらしい。
現に、先行した味方の航空隊はあっさり撃退された。
「私たちがやるしかないか。
フレイヤ隊が先行する。ブリュンヒルデ隊、レイヴン隊、続け!」
『ブリュンヒルデ1コピー』
『レイヴン1コピー。“雷神”のお手並み拝見と行こう』
フレイヤ隊、ブリュンヒルデ隊、レイヴン隊の計16機は、アフターバーナーを吹かして敵航空隊に急速接近していく。
『FOX-2!』
「FOX-2」
先行するフレイヤ隊が放った99式空対空誘導弾が、2機のMig-21を火の玉に変える。
だが、敵も馬鹿ではない。
こちらが長射程のミサイルを装備していることを早々に悟り、乱戦に持ち込んでくる。
『レイヴン1、FOX-2!』
『ブリュンヒルデ3、FOX-2!』
ニコルソンとリチャードが対空ミサイルを発射する。
だが、2機のMig-21はアフターバーナーを焚きながらひねり込みをかけるという荒業でミサイルを回避。
逆にレイヴン隊とブリュンヒルデ隊の後ろを取る。
『ちっ!大した腕だ!』
「旧式と甘く見るな。充分引きつけてから撃て!」
一方のフレイヤ隊は、クロスレンジ戦闘に持ち込むことはお手のものだ。
苦労はしたが、みごとMig-21を至近距離に捉え、04式空対空誘導弾で撃墜する。
『さすが“龍巣の雷神”見事だ。
レイヴン隊、近接戦闘に持ち込め。無駄弾を撃つな』
機体の性能差で圧倒することは不可能と読んだニコルソンが、戦術を昔ながらのドッグファイトに切り替える。
F-35は最新鋭のテクノロジーの結晶だが、残念ながら接近戦ではMig-21に対して決定的な戦力差にはならない。
Mig-21は優秀な設計で、とくに機動性が素晴らしい。
第4世代ジェット戦闘機であらゆる面でMig-21を凌駕する機体は、F-16の登場を待たねばならなかったほどだ。
「くっ…!簡単にはいかんか…!」
後ろを取られながらも高速で回避行動を取るMig-21は、フレイヤ隊のF-15Jをして容易にはロックオンできない存在だった。
「FOX-3」
エスメロードは攻撃を機銃に切り替える。
『被弾した!バランスが取れない!』
主翼に被弾したMig-21は錐もみ状態になって墜落していく。
(欠点は改善されていないか)
エスメロードは敵の弱点に救われたことを噛みしめる。
Mig-21の欠点のひとつに、飛行時の安定の悪さがある。
特に低速域や急旋回時の姿勢維持に技術を要し、事故も多く起きている。
主翼に被弾して揚力が失われると、あのように姿勢を崩す危険をはらんでいるのだ。
『ニアラスが敵機を撃墜!』
リチャードが戦果確認の通信を送る。
『敵機、残り2機』
ジョージからの通信に、エスメロードはレーダーとIFFを確認する。
28機いた敵は、こちらの奮戦もあって2機まで減っていた。
「全機油断するな」
エスメロードはそう言いながら、残ったMig-21を猛追する。
これだけの激戦を生き残ったのだ。相当の練度とみなければならない。
『くそ!被弾した!』
『無理をするな、帰投せよ!』
レイヴン隊の1機が主翼に被弾し、黒煙を上げて戦線離脱する。
墜落せずにすんだのはもっけの幸いだった。
「ありがたい!FOX-2!」
だが、その被害はフレイヤ隊にとっては幸運だった。
レイヴン隊に気を取られた2機のMig-21は、フレイヤ隊の2機の接近に気づくのが遅れた。脇腹を見せてしまったのだ。
『FOX-2!』
「FOX-2」
2機のF-15Jが同時に04式を発射する。
反応の遅れたMig-21は、回避行動が間に合わず爆発四散する。
『こちらAWACS。
“龍巣”上空に敵影なし。作戦終了だ。ご苦労だった』
エスメロードは念のためレーダーを確認し、安全と判断するとエアマスクを外した。
『フレイヤ隊、いいものを見せてもらった。
噂通りの活躍、戻ったら仲間に自慢できるぜ』
「レイヴン隊、そちらも見事だったよ」
興奮した様子のニコルソンに、エスメロードは社交辞令を返す。
まあ、褒められるのは悪い気分ではなかったが。
『アールヴ聞こえるか?俺たちの悲願もこれならいずれかなうな』
「ああ…そうだな」
(悲願…?)
エスメロードはニコルソンとジョージが交わした言葉に違和感を覚えた。
以前のジョージのおかしな様子と併せて、なにやらきな臭いものを感じたのだ。
(だが、今は作戦中だ)
空では雑念は死を招く。
航空機というのは着陸するまで死と隣り合わせなのだ。
エスメロードは違和感を振り払い、基地への帰還に意識を戻した。




