離島奪還作戦
02
サン・オリヴィエ島。
アキツィア共和国の南部はキーホ県の西20キロに位置する島。
北西80キロに、デウス公国領のグロッサー島がある。
日本で言えば、壱岐か対馬のような立地条件か。
海上交通の要衝であり、海産物も豊富。
なにより、軍事的にも重要な場所である。
ゆえに、デウス軍の侵攻の際に真っ先に上陸作戦が行われ、占領された。
だが、アキツィア南部からデウス軍が撤退した今となっては、孤立した状態にある。
デウス軍将兵たちは、いつアキツィア軍の逆上陸作戦が開始されるか、不安に包まれていた。
そして、その不安は現実のものとなる。
2018年8月1日。
「レーダーに感!ミサイル6…いや8!」
「くそ!潜水艦が発射したのか?」
サン・オリヴィエ島のデウス軍防空司令部は騒然となる。
なにもない海から、突然ミサイルが飛んできたのだから。
「迎撃!」
「間に合いません!」
「いかん!目標はレーダーだ!」
対レーダー仕様に改造されているらしいミサイルは、デウス軍の対空レーダーに向けて突進し、炸裂した。
防空司令部のスクリーンが全てブラックアウトする。
「くそ!予備レーダー展開急げ!
やつらが来る…」
防空幕僚は、その言葉を最後まで言うことができなかった。
防空司令部を一発のJDAM(衛星誘導方爆弾)が直撃したからだ。
『こちらブリュンヒルデ隊。敵防空司令部破壊を確認』
「フレイヤ隊了解。
空と海からの揚陸は予定通りだ。敵機を排除するぞ!」
フレイヤ隊1番機であるエスメロード・“ニアラス”・ライトナーは無線に応じる。
彼女は、F-5Eの性能に限界を感じて、Mig-29に乗り換えていた。
傭兵パイロットの機体は、PMCからリースという形で引き渡される。
報酬が多く入れば、リース料の高い機体にも乗れるわけだ。
3機のF-2支援戦闘機で構成されるブリュンヒルデ隊が、敵の防空施設や対空ミサイル、対空自走砲を正確に破壊していく。
これで地上から撃たれる心配はなくなった。
『こちらAWACS。フレイヤ隊、ヘリポートから敵機が飛び立っている。
排除せよ!』
E-767から送られてくるデータで、島のヘリポートから敵が飛び立っていくのがわかる。
「ラジャー。
アールヴ、行くよ!」
『こちらアールヴ。コピー。
いっちょやったろうじゃないの』
エスメロードのMig-29に続いて、ジョージのF-15Jがアフターバーナーを焚いて島の西側に向かう。
「なかなかいい機体じゃないの」
エスメロードはMig-29を気に入っていた。
コックピットはアナログな計器だが、信頼性は高い。
機体の基本性能に関しても、軍の訓練実習で乗ったことのあるF-2やF-16Cよりぶん回しやすい気がする。
問題があるとすれば航続距離が短いことか。
だが、空中給油機は待機しているし、アキツィアは国内各所に民間の飛行場を持つ。
最悪緊急着陸してもいい。
「レーダーに感。
Yak-38、フォージャーの模様。さっさと片付けるぞ!」
『了解。FOX2』
フレイヤ隊の二機が同時にAIM-9を放つ。
鈍重なYak-38はろくに回避行動を取ることもできずに、ミサイルの餌食になる。
VTOL(垂直離着陸)が可能な機体は、他の性能を妥協していることが多い。
(それを割り引いても、まるで射的だ)
エスメロードは次々とYak-38をHUDに捉え、撃墜していく。
戦闘機ではなく攻撃機であるとしても、あまりに鈍くさく脆い。
実もふたもなく言えば、滑走路を必要とせずヘリポートから飛び立てる以外のメリットがない機体だった。
『怯むな!地上部隊を守れ!』
『無茶だ!こんな機体でどうしろって言うんだ!』
オープン回線で怒鳴り声と悲鳴を響かせながら、Yak-38の部隊は一方的に壊滅していく。
8機の部隊は、3分と持たずに全滅していた。
「こちらフレイヤ1。
敵VTOL部隊壊滅を確認」
『こちらブリュンヒルデ1。
デウス本土からの敵増援の撃破に成功。
信号は青だ。繰り返す。信号は青だ』
デウス本土から応援に来た航空隊も、アキツィア航空隊の前に壊滅したらしい。
『こちらグリフォンネスト。
予定通り奪還作戦を開始する。
護衛艦隊は水際への露払いを実行せよ』
奪還作戦司令部が、逆上陸作戦開始を命令する。
『トレアビーチへの艦砲射撃開始する!主砲攻撃始め!』
ミサイル護衛艦“タンホイザー”艦長、バーナード・カークランド二等海佐の号令で、6隻の護衛艦が一斉に敵水際である砂浜に向けて砲撃を開始する。
(それにしても、いつ見ても微妙な外見だわ)
低空でエアカバーについているエスメロードは、眼下に見えるDDG-171“パルジファル”型ミサイル護衛艦1番艦“タンホイザー”を見て思う。
“パルジファル”型護衛艦1番艦なのに“タンホイザー”?と思った方は鋭い。
それは、この“パルジファル”型護衛艦の経歴の迷走に起因している。
“パルジファル”型は、防空艦としては過渡期にあたる時期に計画された。
折悪しく、予算不足や天災人災などで、建造は遅延。
なんとか形になったころには、就役する時点ですでに陳腐化している有様だった。
当時はすでに、高性能のフェイズドアレイレーダーと、連射性と防御力に優れるVLSの組み合わせが防空艦の必要条件となりつつあったからだ。
三次元レーダーと単発のミサイルランチャーの組み合わせは、汎用護衛艦より防空能力が低いミサイル護衛艦という冗談のような状況を生み出した。
そこで、一大魔改造が決行される。
旧式のレーダー類は撤去され、イージスシステムの中核をなすSPY-1Dが装備される。
前部甲板の対潜ミサイルランチャーは撤去され、Mk41VLSが16セル装備される。
実用性が疑問視されていた後部甲板の二番主砲も撤去され、VLS32セルに置き換えられる。
対潜ミサイルは、Mk-13ミサイルランチャーから発射される形となる。
前部甲板の主砲はオットーメララ127ミリ砲に換装され、命中精度と速射性が大きく向上している。
大まかな艦影は、前世で見た“はたかぜ”型護衛艦そのものの姿をしている。
だが、イージスシステムを装備するために、シュッとした低いシルエットが台無しになっている。
ノルウェー海軍のフリチョフ・ナンセン級のものによく似た巨大なドームが、上部構造物の上に鎮座しているのだ。
艦船専門誌では「王冠のようだ」と証されるが、エスメロードにはタマネギにしか見えなかった。
これらの大改修のため、“パルジファル”は進水を前にしてドックに逆戻りすることになった。
一方の“タンホイザー”はまだそこまで工事が進んでいなかったため、発注するシステムと兵装を変更。そのまま組み上げるだけで良かった。
そんなわけで、進水、就役とも先になった“タンホイザー”がネームシップではないのに1番艦という奇妙な状況になってしまったのである。
『ニアラス。思ってることはわかるが、言わぬが花だ』
「わかっていますとも」
無線でジョージに応じる。
“かっこ悪い”と口には出さない。
だが、一緒に砲撃に参加している、“こんごう”型そのものの姿をしている“ラインゴルト”“ジークフリート”あたりと比べると、どうしても不細工に見えてしまうのである。
(機能美と造形美は両立しないとはよく言うけど、もう少しなんとかならなかったのか)
何かの冗談としか思えない“タンホイザー”のトップヘビーな艦影に、そんなことを思ってしまうのである。
その日、アキツィア自衛軍の逆上陸作戦は成功することになる。
ともあれ、デウス軍も全滅したわけではない。
生身の人間同士の地上戦が始まるのだった。




