集合
「三番空域の模擬戦は終了、指示を待つ」
無線を入れると、しばらくして上官機からの通信が返ってくる。
「了解。三番空域を飛行中の、5、7番機は四番空域を回避して、五番空域へ来い。向こうはまだ終わってない」
「アイ、サー」
同じようにピーターも返事をして、揃って南西へ針路を取る。まだ模擬戦が行われているという四番空域を避け、はじめはやや東寄りに進んだ。二番空域は終わっているらしい。
「四番空域って誰と誰だったっけ? フリッツわかるか」
近距離の解放無線に、ピーターの問いが入る。引いたくじと同じなら、まだ戦闘を続けているのは、おそらく。
「ユウとライナーだったと思うぞ。どうなってんだろうな」
「そうなのか! じゃあ、そこが今回一番面白いところだろうなぁ。ライナーはもちろんだし、ユウちゃんって未知数だもんな」
「ん、ライナーって何かあるのか」
隊の中でも一番に小柄な青年。大柄なジャックスの傍にいるのもあるし、童顔な性もあってライナーはひと際小さく見える。今のところ印象と言えばそんなところか。訊ねて、それは、とピーターが答えようとした時、レーダーにも視界の隅にも、機影をとらえた。五番空域に入ろうというところ、二番空域でやっていた二機のようだ。
「三番空域の奴か、誰だ?」
近距離の無線が入る。ジャックスの声だ。名乗って近づいて、2番の数字を確認する。もう一機のナンバーは4、ピーターの並びだと考えると、あの三人のうちの誰かか。
「リー! どっち勝った?」
ピーターが4番機に寄っていって訊ねる。リー、というとあの3人の中の黒髪で細身の男か。負けちまったよ、と言うのが聞こえて、フリッツはジャックスの機に自機を寄せた。
「勝ったのか」
「あー、まぁな。アカデミーが同じだしな、知った飛び方だったからだろ」
特に誇った様子もなく、ジャックスは答える。自分とユウ以外は、みな同じアカデミーの航空科だったと聞いた。振り分けられた先でも元々顔なじみだから、顔を覚えなければならないのはフリッツだけだ。
「そう考えりゃ、あの三人は同じ配属で良かったよな。学科はそれなりに人数いただろ?」
問うと、ジャックスはそうだな、と答えてすぐ、いや、とそれを濁した。
「俺やライナーやグランツも一緒ってのはな。ここまで癖のある奴ばっかりてのも妙だ、隊長が何かしたってのが本当だろうな」
「どこまでも鶴の一声ってわけか。上を押えつけてんだか、気に入られてんだか」
短く息をつき、フリッツは片頬だけで笑う。
「まぁ、俺は学科の教官に嫌われてたからな。こうやって引っ張り上げてもらえりゃ助かる。はみ出しもんは居づらいもんだ。……お前もそういうクチだろ」
無線の向こうで、ジャックスが笑うのがわかる。同意を込めて小さく笑い返し、応える。
「それでも、俺は上が文句言えなくなるまで自力でやったさ」
そうだろうな、と返事が返ってきて、その後、揃った四機で編隊を組む。いくらもしないうちに上官機が見えるだろう。曲者ばかりを選んだとしたら、きっと当人も相当の曲者なんだろう。
数分もしないうちにひとつの機影が見え、四機はそれに接近した。が、よく見ると上官機ではない。ナンバーは6、自分のひとつ前だからグランツだ。
「来たか。隊長は、今、隣の八番空域でエドウィンとやってる」
「エディが? 隊長と」
リーがグランツの言葉に問い返す。グランツは編隊の中に入り、それに応える。
「ああ。みんな揃うまで、だそうだ。これで、あと来ていないのは四番空域だけか。次、誰か決めておくといい。もう、隊長たちは戻ってくるだろうから」
「お前はいいのか、グランツ」
ジャックスが問うと、グランツは笑み崩したように答えた。
「俺はいい。後で結果が見られればな」
ピッと電子音が鳴り、近距離の会話に上から被せるように上官機の通信が入った。
「五番空域で待機中の五機。模擬戦闘中の四番空域からまだ連絡がない、よって到着まで、高度2000フィートを保ち、そのまま待機せよ。……こっちは今終わった。誰か――来るか?」
誰でもという意味の、ただ一人を示す問い。五機の間にお互いを確かめるような沈黙があって、フリッツは近距離の通信を入れる。
「俺が行く」
ああ、と他の四機の同意があって、フリッツは上官機へと通信を入れた。
「7番機、これより八番空域に向かう」
それに応えるように、応答がある。
「了解、八番空域にて『Hawk』待機」
フリッツは南へと機首を向けた。燃料その他、機体に問題はない。グッと加速をかけ、八番空域へと向かう。風が少し荒くなっていて、出がけのユウの言葉通りになりそうな雲行きだ。これ以上風が強まれば面倒だ。空域が変わる頃、入れ違いに3番機が帰ってくるのを確かめ、フリッツはさらにその先に進んだ。お手並み拝見。きっと、向こうもそう思って、こちらを待っているはずだ。




