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プロローグ

「じゃあ、最後に一つ」


男が紙から顔を上げた。


「テーマは――『嘘つき』」


少女は少しだけ首を傾げた。


「嘘つき」


「準備時間、いりますか?」


「んー……」


視線が一度、何もない床へ落ちる。


数秒。


「大丈夫です」


そう言って、少女は笑った。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「大丈夫です。ちゃんと考えてます」


背筋を伸ばし、素直な生徒の顔で答える。


少し間を置いて、今度は声が柔らかくなる。


「うん。心配しなくていいよ」


誰かを安心させるように笑った。


次は、友達へ向けるような軽い声。


「どこでもいいよ。一緒に行こ」


また、変わる。


「別に。気にしてないよ」


ほんの少しだけ困ったように笑う。


どの顔にも迷いはなかった。


やがて少女の前から、すべての相手がいなくなった。


一人。


机の上には、一枚の紙。


――進路希望調査。


少女は椅子へ座った。


ペンを取る。


第一志望。


空欄。


第二志望。


空欄。


卒業後の希望。


ペン先が紙の上で止まった。


さっきまで、一度も迷わなかったのに。


長い沈黙。


少女は何も書かなかった。


「……以上です」


顔を上げたときには、もう役の表情ではなかった。


部屋の奥で、誰かが息を吐いた。


「一つ聞いてもいいですか」


「はい」


「どうして『嘘つき』で、今の芝居を?」


少女は少し考えた。


それから、


「なんとなくです」


と笑った。

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