第十話:永遠に解けない愛の結界と、五人の愛しき未来
第一節:一歳の生誕祭と、国中を巻き込む過保護大祝祭
四季が巡り、ヴァルハイト公爵城はかつてない華やかさと祝福の空気に包まれていた。
本日は、公爵家の宝物である三つ子——レオン、シエル、ノエルの『一歳の誕生日』である。
「全使用人、全護衛隊に告ぐ! 本日は我がヴァルハイト公爵家の歴史において最も神聖なる日である!」
大広間の壇上に立ち、正装を纏ったルーカスが青灰色の瞳を輝かせて宣言した。
「本日の生誕祝宴にかかる全ての費用は我が公爵家が全額負担する! さらに、領民全員に特製のお祝いの品を配布しろ! 三天使の健康と幸福を祝う宴の開始だ!!」
『おーっ!!』
公爵城の大庭園には、色鮮やかな風船と魔法の花々が咲き乱れ、料理長ボリスが数日間徹夜で作り上げた高さ二メートルの特大「三つ子用・無添加フルーツ生クリームケーキ」が鎮座していた。
「素晴らしい……! 三つ子様方が無事に一歳を迎えられた……!」
ボリスが感涙にむせび泣き、
「ハーブティーと胃薬のお世話になった一年でしたが……感無量でございますな」
執事長ジャンが、温かな眼差しで会場を見渡していた。
第二節:一歳の『選び取り』と、父親のハラハラ
宴のハイライトとして、三つ子たちの一歳の将来を占う伝統行事『選び取り(子供の前に様々な道具を置き、最初に手に取るもので将来を占う儀式)』が執り行われた。
絨毯の上に置かれたのは、
剣(将来の騎士・武人)
魔導書(将来の魔法使い・学者)
クローシュ・木製のおたま(将来の料理人・美食家)
羊皮紙とペン(将来の領主・文官)
そして……ルーカスの胸元から抜き取られた高級な『宝石付きの髪飾り(アリアへの愛の品)』
「さあ、みんな。どれが好きかしら?」
マタニティ期を終え、以前にも増して可憐で母性あふれる美しさを纏ったアリアが優しく声をかけた。
「あー! うー!」
最初に動いたのは、元気いっぱいの次男シエルだ。
よちよちと力強い足取りで進み、迷わず鷲掴みにしたのは——【剣】であった!
「おおっ! シエル様は将来、公爵家を守る偉大な騎士になられますぞ!」
カルロス隊長と影の護衛隊員たちが大歓声を上げる。
続いて、クールな長男レオンが選んだのは——【魔導書と羊皮紙】。
二つを同時に小さな手に抱え、知的な紫の瞳でルーカスを見つめた。
「ふむ……レオンは将来、次代のヴァルハイト公爵として我が領地と魔法を完璧に治める男になるな」
ルーカスが満足げに頷く。
そして最後、可憐な長女ノエルがトコトコと歩み寄り、小さな手で掴んだのは——。
ポンッ。
ルーカスの『アリアへの愛の髪飾り』と、アリアの手そのものであった。
「……あうー! まぁー! ぱぱー!」
ノエルが二人を見上げて天使のような笑顔を咲かせた。
「……っ!!」
『氷の冷血公爵』のポーカーフェイスが、音を立てて崩壊した。
「可憐だ……! ノエルは将来、アリアのような世界一温かく愛される美しき貴婦人になるのだな……! 誰もノエルを嫁にはやらん! 世界中の男を排除してやる!!」
「また気が早すぎます、旦那様!!」
乳母エレナの紙扇子が、祝宴の会場に快音を響かせた。
第三節:三天使の健やかな成長と、変わらぬ親バカ
夕暮れ時。賑やかなパーティーが終わり、三つ子たちは楽し疲れ満足そうに三人並んで特大ベッドですやすやと深い眠りについていた。
長男レオンは、夢の中でも冷静に魔導書をめくるような寝顔。
次男シエルは、元気いっぱいに両手を広げた寝相。
長女ノエルは、アリアのハンカチをギュッと握りしめた可愛らしい寝顔。
その三人の毛布をそっと掛け直し、アリアとルーカスは愛おしそうに見つめていた。
「ルーカス様……あっという間の一年でしたわね」
「あぁ……。お前が命を懸けてこの子たちを産んでくれてから、私の世界は毎日が眩しいほどの光で満ちあふれている」
ルーカスはアリアの腰に優しく手を回し、その華奢な身体をそっと抱き寄せた。
「レオンが走り回り、シエルが暴走し、ノエルが笑う……。そして何より、お前が私の隣で微笑んでくれている。これ以上の幸せが、この世にあるだろうか」
「ふふ……私もです、ルーカス様。あなたとこの子たちと一緒にいられる毎日が、私にとって一番の宝物です」
第四節:永遠に解けない愛の結界
バルコニーへ出ると、夜空には満天の星々が散りばめられていた。
秋の心地よい夜風が、二人の髪を優しく揺らす。
「アリア」
ルーカスはアリアと正面から向き合い、その柔らかな両手を愛おしそうに包み込んだ。
青灰色の瞳には、初めてアリアに出会ったあの頃から変わらない……いや、日に日に深く、強くなり続ける狂愛の炎が宿っている。
「私はかつて『氷の冷血公爵』と呼ばれ、誰をも寄せ付けず生きるだけの存在だった。だが……お前が私の凍りついた心と世界を溶かしてくれた」
ルーカスはおずおずとアリアの額に口づけを落とし、続いて愛おしい頬、そして柔らかく熟した唇へと重ねた。
「アリア……愛している。お前と、お前がくれた三人の天使たちを……私の命、魂、そしてこの身体が果てるまで守り抜く。私が張った『愛の結界』は、一生涯解けることはない」
「……はい、ルーカス様」
アリアは可憐な頬を桜色に染め、ルーカスの胸元にすっぽりと寄り添った。
「私も、ルーカス様を愛しています。ずっと、ずっと……私を抱きしめていてくださいね」
「あぁ……! 一生離さない!!」
星空の下、深く深く重なり合うふたつの影。
過保護で、狂おしくて、少しだけ騒がしくて、けれど世界で一番あたたかな愛に満ちたヴァルハイト公爵家。
冷血公爵と可憐な妻、そして三天使たちの愛の物語は、これからも永遠に、どこまでも幸せに続いていくのであった——。




