第二十四話
先に口を開いたのは鈴。
「……あのさ、零くん」
「ん?」
「あの時。楽しかったね」
「いつだよ」
「…………全部」
鈴がそう言ってから数秒後。
だんだんと胸が熱くなってきた。
右手で胸を抑える。
苦しい。
もう泣かないと決めたのに。
目から勝手に涙があふれてくる。
「何男の子のくせに泣いてるの? ……こんな人の多い所でみっともないなぁ」
「うるせぇ。鈴だって泣いてるだろ?」
「泣いてない……もんっ」
「思いっきり泣いてるじゃねぇか」
「……うぅ」
鈴が俺の胸に顔を埋めてきた。
泣き顔を見られたくないのだろう。
「おい、鈴?」
「……零くん。…………わ、私ね」
「ん?」
「実はずっと前から……零くんのことが──」
「──好きだ!」
鈴に言われる前に言った。
男の自分から伝えたかった。
「えっ?」
「俺は鈴のことが昔からずっと好きだった」
「……そっか。……うん。私も」
よかった。
「昔からずっと一緒にいたよな?」
「うん。それで小学生の頃はよくクラスの子にからかわれていたけどね」
「そういえばそうだったな」
「ねぇ、零くんはいつから私のこと好きだったの?」
えっと。
いつだったっけ?
「……あっ、そうだ。小学三年生の時に異性なんだなって意識し始めたんだよ。遠足で二人だけ遠くの森に行った時」
すると鈴はこちらを指さし、
「あー。私が怪我した時のこと?」
「そうそう。で、痛いとか歩けないとか言って泣いててさ。結局俺がおんぶしてみんなの所まで戻ったっけ」
「……? その時に私を女の子だって意識し始めたの?」
非常に言いにくいな。
けどまあ最後だし。
本当のことを言おう。
「なんというかお尻と太ももが柔らかかった」
「!? ……零くんのエッチ。スケベ。変態」
言われると思った。
「し、仕方ないだろ。俺も男なんだし。……というか鈴はいつから俺のことが好きだったんだよ」
「知りたいの?」
「めちゃくちゃ気になるな」
「じゃあ教えてあげる。あれは……小学三年生の時」
「ん?」
「遠足で二人だけ遠くの森へ行った時にね。私が怪我しちゃって」
「へぇ……って! 一緒じゃねぇか!」
「ふふっ、実はそうなの。帰りにおんぶされてる時、なんかドキッときちゃって」
「そうなのか?」
女の子ってそういうものなの?
なんか想像はできるけど。
「うん。……なんというか。男の子の背中って大きくて硬いんだなって思って」
「……なるほど」
とその時。
電車の音が聞こえてきた。
「あっ……もう時間だね」
鈴が寂しそうに言った。
「別に次の便でもいいだろ」
「けど。集合時間はもう過ぎているんでしょ? 本来なら学校にも行かなくてよかったのに」
「まあ」
「じゃあ行かなきゃ。これ以上遅れたらみんなに迷惑だよ」
「……それもそうだな」
そこで鈴が真剣な表情で口を開く。
「ねぇ、零くん。目を閉じて」
「えっ……」
これってまさか。
キスをされるパターンじゃね?
だけど気づかないふりだ。
こういう時くらい鈍感になろう。
キス……したいし。
「早く閉じてよ」
「……別にいいけど」
言われた通り目を閉じる。
それから数秒後。
唇に柔らかい感触を感じた。
温かくて優しいキス。
脳が痺れる。
言葉では表せないほどの感覚。
その幸せは長くは続かなかった。
少しずつ唇が離れていく。
「じゃあね。……零くん」
目を開けると、鈴は後ろを向いて走り出していた。
「……鈴」
本当のお別れ。
もう二度と鈴に会うことはない。
再び涙があふれてきた。
最後に何か言わなきゃ。
何がふさわしい最後なのかなんて知らない。
だから伝えたいことをそのまま言おう。
「鈴ー! 百年後で待ってるからなー!」
すると彼女はこちらを振り返り、
「うん! 絶対生き残るからね!」
そう言って再び反対を向いて走り出した。
一粒の涙を散らしながら。




