第二十三話
夕日に染まる帰路。
「ねぇ零くん。今日が最後の登校日だったけど……何かいいことあった?」
隣を歩いている幼馴染が尋ねてきた。
「いや……特に変わらないな。鈴はどうだった?」
「三人から告白された」
「……えっ?」
鈴はモテる。
だから学校最後の日に思いを伝える男子がいても……おかしくないのか。
「あはは。零くんが動揺してる」
「し、してねぇよ」
「けど、告白されたのは本当。……まあ、断ったけどね」
「そうか」
ならよかった。
「それにしても私、未だに信じられないんだけど。……明日、この地球と惑星エリスが衝突するんだよね」
「そうらしいな。どの番組でもそのニュースしかしてないし」
こういう時くらい神アニメを全話放送とかして欲しいよな。
「ほんとにみんな死んじゃうのかな?」
「学者たちを総動員して計算した結果、人類が滅亡する確率はほぼ間違いないって結論が出たらしいし。もうだめだろうな」
「ま、零くんは生き残るわけだけどね」
「……なぁ、もう何度も言ってるけど。俺、やっぱり今日冷凍保存される集合場所へ行きたくない」
一人生き残っても意味がない。
「そんなのだめだよ。優秀だから選ばれたんだから」
「実際俺の代わりなんていくらでもいるよ」
「そうかな?」
「そうだよ。……それに、俺は鈴と一緒にいたい。たとえ死んだとしても」
「えっ、それって」
うわっ、ど、どうしよう。
長年伝えられなかった思いを今伝えるか?
「す…………すき……やきが食べたいなぁ」
言えなかった。
途中で躊躇ってしまった。
「ふふっ。何言ってんの?」
「別にいいだろ。最後の日くらいすき焼きが食べたくても」
実際あんまり好きじゃないけどな。
ラーメンとかの方が好みだ。
「まあいいけどね。……あっ、もう駅に着いたよ」
「これで永遠にお別れ……か」
「そう……だね」
「仮に惑星が衝突した後に鈴が生き残れたとしても、百年後なんて生きているわけないだろうし。……いやでも鈴なら、なんやかんや生きているような気がしなくもないけどな」
「えぇー、それどういう意味?」
「ははっ、鈴ならきっと大丈夫だ。惑星同士が衝突したところで死ぬタマじゃない」
「絶対無理だと思うけど」
「……いや、生きるよ」
「? ……うん、生きたいよ」
「鈴は絶対に生き残る。生き残ってくれ。俺が目覚める日まで。必ず」
「うん。生き延びてみせるよ。零くんと出会える日まで」
「約束だ」
小指を差し出す。
「うん。約束」
そうして指切りをした瞬間。
鈴の目から一粒の涙がこぼれ落ちた。
「……鈴?」
「ごめんね。今までの零くんとの思い出が溢れてきちゃって」
「その気持ちわかるよ。俺も昨日の夜そうだったから」
枕をどれだけ濡らしたことやら。
「……零くん。百年後では絶対に幸せになってね。好きな人と結婚して、子どもを作ってさ……」
は?
「そんなこと言うなよ。本当なら俺は鈴を置いて冷凍保存なんてされたくないんだから」
「ううん。選ばれた以上、チャンスなんだよ。日本でたった50人しかいない狭き門なんだし」
「でも……」
「私は零くんだけには生きていて欲しい。だからお願い。生きて」
「…………わかった」
それから長い沈黙が続いた。




