第三十五話
その後、無事に下りることができた。
俺は地面に座り込む。
「マジで疲れた」
下りている途中、落下せずに最後まで行けると判断した俺は、ラストスパートで斜めに向かって下りた。
結果、無事に地面の上に着地できたわけである。
お疲れ様、俺。
滝の音が聞こえてくる。
改めてみると、隣にある湖はかなりの大きさだ。
かなり高いだけあって、滝の水しぶきが半端ない。
ギリギリ俺のもとには届いていないが、とにかくすごい。
あの滝で修行したら精神が強くなりそうだよな。
絶対やらねぇ。
脳震盪を起こしそうだ。
「ああ~」
しばらく動きたくない。
本当に疲れた。
指の疲労感が凄まじい。
下りている最中はアドレナリンが出ていたせいか、さほど気にならなかったが。
今現在、指がジンジンしている。
脈打っているかのようだ。
これから俺の両手が新しい力に目覚めてしまうかも。
秘められし漆黒の炎のオーラを纏えたりしないかな?
意識してみると、手のなかの血管がドクドクしている。
これは……ガチで目覚めるかもしれないぞ。
「お、俺は他の人間とは違うのかも」
そう、人を超越した存在。
そんな俺の両手は通称、混沌の不知火。
艶やかな朧月の逆説ですら歯牙にもかけない鎮魂歌の如き終焉。
その手から放たれるオーラは虚無をも無に帰す。
「……自分で何言ってるかよくわからねぇ」
それにしても。
ほんと、よく下りてきたよな。
崖を見上げる。
すさまじく高い。
百万あげるからもう一度下りろって言われても断る自信がある。
それくらいやばい。
その後少しの間、俺はその場でじっと座り込んでいた。
魔獣が襲ってくるかもしれないという可能性があることに気づけないほど疲れていた。
「……無理をしてでも木の上に登るか」
今カンガルーや機械ライオンが現れたら危ない。
座り込むのであれば、枝の上にしないと。
重たい身体を動かして立ち上がる。
幸い周りは森のため木はすぐそばにある。
「と、その前に一度水で手を冷やすか」
湖の目の前に移動し、両手を水のなかにつけた。
冷たくて気持ちいい。
まるでヒールをかけてもらったみたいだ。
経験がないからわからんけど。
「じゃあ言うなよ! …………ん?」
なんとなく滝に視線を向けると。
滝の裏側に何かがあった。
微かにだが、穴っぽいものが見える。
崖のほぼ真横にいるため、角度的に見えたのである。
「えっ、マジで?」
そんなお決まり展開が現実にあるの?
嘘やん。
濡れた手で一度目を擦ってみるも……やはりある。
疲れているけど、今すぐなかを見てみたいよな。
男は滝の裏にある洞窟と背の低い女性に興奮する生物だ。
「なかはどうなっているんだろう」
もしかすると隠れ家として使えるかもしれない。
枝の上で休むよりも体力を回復できるかも。
「行ってみるか」
早速行動を開始した。
少しだけ崖に登り、湖に落ちないよう横に移動していく。
崖の岩を掴む度に両手がジンジンする。
だけど我慢。
湖なんかに落ちたくはない。
洞窟にたどり着けばこっちのものだ。
さすがにあそこまで辿り着ける魔獣はいない……はず。
「未知の世界である以上、いないとは言い切れない」
よく考えると、今まで出会ったことのある魔獣たちも普通に泳いでくる可能性があるし。
やっぱり探索を終えたら木の上で休むことにしよう。
うん、それがいい。




