第三十四話
下り始めて三十分くらい経った頃。
次の足場は……あれがいいな。
まずは軽く足のつま先を置いて、突いてみる。
うむ、崩れる心配なし。
「ガァーガァー」
続けて足が置けそうなのは。
ちょっと距離が近いけどあの黒っぽい岩かな。
無理して体のバランスを崩すのは良くないし、無難に行こう。
「ガァーガァー」
右手でこの岩を掴んで。
おっと、ちょっと砂が乗ってるな。
滑りそうだ。
ササッと払ってから再び指を乗せる。
「ガァーガァー」
肩をつつかれた。
「うるせぇ! なんだよさっきから」
大声で叫びながら後ろを振り向くと。
「──うわっ!?」
めちゃくちゃ大きな鳥がいた。
バサバサッという羽の音。
なんだこいつ!?
大きさが俺の三倍はある。
全身が緑と茶色の迷彩色。
翼には青色の斑点。
くちばしがやたら大きい。
「ガァーガァー」
軍隊のような色の鳥はじっとこちらを見つめてきている。
「嘘だろ、こんな忙しい時に」
俺はズボンのポケットに入っているサバイバルナイフの鞘を太ももと崖で挟み、右手でナイフを取り出した。
左手で岩を強く握りながらナイフを相手に向ける。
「ガァー」
軍隊鳥は羽ばたきながらくちばしを寄せてきた。
「くるな!」
大きくナイフを振ると、相手は一度後ろへ下がる。
だがすぐにこちらへ近づいてきた。
「ガァーガァー」
おそらく面白がっているのだろう。
どうする。
考えろ、俺。
あのくちばしの大きさからして、いつ咥えられてもおかしくない。
早く何か策を考えないと。
飛び降りるか?
ナイフでけん制しつつ、一瞬下を向く。
だめだ。
高すぎる。
目測だが、まだ50メートルはある。
と、その時。
「ガァー」
今度は腕をつつかれた。
「うわっ!!」
反射的に大声を出すと、相手はすぐに後ろへ下がり始めた。
あっ、この距離なら当たるぞ!
急げ。
瞬時にナイフで斬りかかる。
くちばしに当たった瞬間、カキンッ! という甲高い音が響いた。
「いや、硬すぎだろ」
軍隊鳥は何事もなかったかのように、こちらを見ている。
見るからに効いてないな。
やはりダメージを与えるには胴体を斬らないと。
その程度で勝てるとは思えないけどな。
「ガァー!」
今度は肩をつついてきた。
「今だ!」
目を狙ってナイフを突きつけたが、相手が早いうちに後ろへ下がり始めていたため、惜しくも届かなかった。
くそ。
こいつマジで何がしたいんだ?
さっきからつつかれても全然痛くないし。
「ん? 待てよ?」
攻撃する気がない……ってことか?
そういえば最初から好意的だよな。
じゃれあって欲しいみたいな。
最初に肩をつつかれて。
次に腕。
最後にまた肩……。
「ガァー!」
考え事をしていると。
再びくちばしを近づけてきた。
俺は反射的にナイフを使って、けん制する。
「とりあえず寄るな!」
本当に何がしたいのかわからない。
毎回右側ばかり狙ってきやがって。
「……ん?」
右側?
あっ。
もしかしてだけどさ。
りんごピオーネが欲しいのか?
俺は肘で葉っぱのかごを持っている。
今までもらおうとしていた可能性はあるな。
試しにあげてみるか。
サバイバルナイフをポケットのなかにしまい、りんごピオーネをひとつ手に取った。
さっそく軍隊鳥に向かって投げる。
すると。
「ガァー!!」
軍隊鳥はくちばしでキャッチし、そのままどこかへ飛び去って行った。
「……」
あぁ、そう。




