ただいま!
久しぶりに外に出れた。空気が新鮮でとても美味しい。まだ、太陽は出てきていないが、もう時期太陽も顔を出すだろう。俺が犯した犯罪の罰は俺から確実に外の世界を永遠に奪うものだった。無期懲役。俺に出された判決はそれだった。そして、刑務所に入れられ、6年がたった。
しかし、たった今、俺は釈放されたのだ。最初は何故だかわからなかったが、すぐにそのわけがわかった。
あと、13時間で人類は滅亡する。
猟奇的犯罪者以外は最期のときを自由に過ごす権利をもらったのだ。
釈放された人の中には喜びを外に出す人もいた。もうすぐ死ぬことにかわりないがそれでも外に出れるのはうれしいのだろう。
しかし、俺の心境はとても複雑だった。あと、数十時間で死ぬということもあるが、あんな犯罪を犯した自分が釈放されても良いのかと思ったからだ。
俺の名前は米原 渉。
父親が子会社で働いていて、母親は専業主婦をしているいたって普通の家庭の子供として産まれた。高校生のある日、父親が自殺した。それはあまりにも突然の出来事だった。母親は声が枯れるまで泣いていたが、俺は泣くことができなかった。父親が突然自殺した理由がわからなかった。だから、俺は父親の死を受け止めることができずに泣くことができなかった。
俺と母親、2人だけの生活が始まった。母親は働いてはいなかったがこのままでは生活が苦しくなるから働き始めた。俺も高校は卒業したが大学へは進学せずに働くことにした。父親が自殺したという同情でもあるのだろうか、俺は父親が働いていた子会社に入れてもらえた。俺はそこでまじめに働いた。会社は大きくはならなかったが、俺の役職はどんどん上がっていき、部長になった。俺はこのときはとても嬉しかった、自分の努力が報われた気がしたからだ。
そんな、ある時、俺は古い資料を見つけた。そこで、俺は父親の自殺の事実を知ってしまったのだ。俺の父親は現社長、当時の副社長に騙され、会社をクビになるところまで追い詰められた。そのことを誰にも言えずひとりで抱え込み、そして、最終的に自ら命をたったのだ。俺の目からは涙が流れた、しかし、それは悲しみからくるものではなく怒り、憎しみからくる涙だった。俺は社長を許せない。その怒りをとめることはできず、俺は社長の家をつきとめ、その家に火を放った。火は一瞬で家に燃え広がった。
後日、新聞で社長と社長の家族の死を知った。社長は死んだのだ。しかし、俺の気持ちは晴れなかった。社長だけじゃなくてその家族も殺してしまった。そして、何よりも人の命を奪ってしまったのだ。後悔の念が一気に自分に押し寄せてきた。俺はなんてことをやってしまったのだ。
俺は会社を休んだ。もともと、社長がいなくなった会社はしばらく営業休止していたが、休止期間が終わっても俺は会社にはいかなかった。
そんな、俺のもとに警察がやってきた。
俺はすなおに捕まった。母親はそんな俺を泣きながら見送った。
俺は人の命を奪った。
関係のない人の命も奪った。
燃やした。跡形もなく燃やした。
そんな俺の最期に自由をもらっても良いのだろうか?
そんなことを考えながらいつのまにか俺は実家の前にいた。
久しぶりの我が家だ。
捕まる前とあまり変わっていない。
庭の松の木にはいつも通りにたくさんのセミがとまってないている。
俺は家に帰ってきた。
家に入ろうと思ったが、俺は躊躇った。
母親になんて言おうか。
母親に言う言葉が俺には思いつかなかった。
犯罪者の俺が母親に対して何を言えばいいのだろうか?
俺は家に入ることを諦めようとした、その時、家の玄関のドアがあいた。
そこにいたのは母親だった。
俺は母親と目が合った。しかし、俺は何も言わなかった、言えなかった。
そんな俺に対して母親は言った。
「帰って来た時の挨拶は!ただいま!でしょ!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は涙を流した。
そうか、母親はまだ、俺のことを息子として見ていてくれたのか。
母親は人の命を奪った殺人者をちゃんと自分の息子として見ていてくれたのか。
俺は泣きながら言った。
「ただいま!」
人の命を奪ったという罪は決してなくならない。それでも、それを反省し生きていくことが大切なんだ。そして、それを応援してくれる人もこの世の中にひとりはいる。もう、俺には明日はこないが、俺はそのことを知れただけでもよかった。
ありがとう。
18時すぎ、母親に感謝を伝えることができた米原 渉は母親とともに最期のときを迎えた。




