第二章 第四十三話 包囲線の向こう側
北市場第三保管庫の観測を打ち切ってから、白環治療院には再び包囲の外を直接見る手段がなくなっていた。割れた正門の外には治安局の大盾が並び、鉄帯を巻かれた破城槌も半歩ほど前へ移された位置で止まっている。高所の弓兵も残ったままで、新たな射撃も門への打撃も起きてはいない。それでも静けさが長く続けば続くほど、その意味を一つに決めることは難しくなった。次の攻撃へ向けた準備なのか、何らかの命令を待っているだけなのか、それとも白環とは別の目的で人員を動かしているのか。治療院の内側から確認できるものだけでは、どの可能性も切り捨てられなかった。
北市場で最後に確認されたのは、盾を持つ者四人を含む六人と、その少し後ろから別に進んでいた三人だった。六人のうち二人は記録鞄らしいものを持っていたが、それ以上のことは分からない。白環方向へ向かったのか、市場の別区画へ進んだのか、観測範囲から外れた後の行き先は確認できておらず、六人と三人が最初から同じ目的で動いていたのかさえ不明のままだった。
中央回復室の机には、その最後の観測記録と王都東区の街路図が並べられている。
「最初にこれ」
ミレナが紙の端を木炭筆で軽く叩いた。
「六人と三人。これを『増援』って呼ぶのは禁止」
「まだ誰も呼んでない」
レンが言う。
「頭の中では呼び始めてる顔をしてる」
「顔で決めるなよ」
「じゃあ何だと思ってる?」
「白環に来るかもしれない治安局員」
「それを一文字減らすと?」
「増援」
「ほら」
アイリが小さく笑った。
「お兄ちゃん、負けた」
「言い方の問題だろ」
「言い方が、推測を事実に変えるのよ」
ミレナは記録へ視線を戻した。
「だから、まず移動方向だけを見る」
エリリアが王都東区の地図へ手を伸ばし、北市場第三保管庫の位置と最後に人員が確認された場所を目で追った。風の魔力は使わず、街路の形と報告された進行方向だけを重ねていく。
「最後に見えた位置から南東へ進んだとしても、白環へ向かう道だけではありません」
「どこへ行ける?」
アイリが尋ねた。
「白環方面へ抜ける通り、東門側へ戻る道、市場南側の管理区画。それから市営倉庫が並ぶ区画へ向かう横道もあります。少し遠回りすれば、東地区の別の検問位置へ出ることもできます」
「つまり?」
「方向だけでは目的地を絞れません」
「九人いたってことしか分からない?」
「それも正確には、六人と三人を別々に確認しただけです。同じ行動をしていたかは未確認です」
ミレナが頷いた。
「そういうこと」
ガリックは椅子に座ったまま、最後の観測内容を改めて読み返した。
「盾四、記録鞄らしいもの二。後ろ三人は盾なし」
「何か分かる?」
レンが尋ねる。
「俺には分からん。ラウルなら、普通の治安局がどう人を組むかは知ってるかもしれない」
院長の許可を得たうえで、少し離れた治療区画にいるラウルへ記録が見せられた。右足首は固定されたままで、包囲が続いている今も患者として白環に残っている。
「この形なら、突入部隊?」
ミレナが尋ねた。
ラウルは紙をしばらく見つめてから答えた。
「俺が知ってる普通の組み方なら、白環へ正面から押し込む部隊としては少し変だ」
「どう変?」
「盾四人は分かる。ただ、記録鞄を持った人間が二人ついてるなら、戦うだけの組じゃない可能性が高い。監査記録を取る時や、施設を封鎖して目録を作る時にも盾持ちが護衛につく」
「じゃあ監査班?」
「そこまで言ってない」
「分かってる」
「それに今の状況なら、書記でも武器を持ってるかもしれないし、兵が記録鞄を運ぶこともある。そもそも俺が直接見たわけでもない」
「盾の種類は?」
「報告だけじゃ分からない」
「普通の東地区装備か、白環を囲んでる大盾と同じか」
「そこも見てないなら決められない」
ミレナが満足そうに頷いた。
「いい答え」
「何も分からないって答えてるだけだけどな」
「それが今は一番役に立つ」
ラウルは僅かに苦笑した。
「白環に来てから、知らないって言うのが仕事みたいになってきたな」
「知らないことを知ってる人は貴重よ」
「褒められてる気がしない」
「褒めてる」
ラウルの話から得られたのは、六人が明らかな突入部隊だとは言い切れないという程度のことだった。それでも意味はある。治安局員が市場へ増えたという事実だけを理由に、次の攻撃が始まると決めつける必要はなくなった。
◇
北市場第三保管庫へは、誰も戻さなかった。
観測点を閉じてから半刻近くが過ぎても、新しい情報は入ってこない。地下薬草庫の奥では旧水路へ続く石扉が閉じられ、入口側の見張りだけが残されている。旧共同貯水槽までの道そのものが失われたわけではないが、その先へ人を出す許可は一時的に止められていた。
「もう一度だけ見れば、六人と三人の行き先が分かるかもしれない」
レンが言った。
ミレナはすぐには答えなかった。
「行かせたい?」
「価値はあると思う」
「危険もある」
「分かってる」
「市場へ何人増えたのかも分からない。さっき見えた人たちが保管庫の近くへ来てる可能性もある」
「でも、見つかったとは決まってない」
「そうね」
「なら――」
「見つかったから使わないんじゃない」
ミレナが静かに遮った。
「見つかる可能性が前より上がったから、人を置かない」
レンは言葉を止めた。
「昨日までは、あそこから外を見る価値の方が危険より大きかった。でも今は、治安局の人員が市場へ増えてる。理由は分からない。保管庫へ来るかも分からない。だから今は、見られるものより、人を戻せなくなる危険の方を重く見る」
「一回だけでも?」
「一回だけ、って言って戻れなくなるのが一番嫌い」
ガリックが横から口を挟んだ。
「諦めろ、レン」
「諦めるってほどじゃない」
「顔が嫌そうだ」
「嫌だよ。せっかく外が見えたんだから」
「なら、なおさら覚えとけ」
ガリックは杖へ手を置いた。
「使える道と、使っていい道は同じじゃない」
レンは地図に描かれた北市場第三保管庫までの細い線を見つめた。前日まで存在しなかった視界であり、包囲の外側を直接見られる唯一の場所でもある。それを敵に奪われたのではなく、自分たちの判断で使わないと決めることには、別の種類の悔しさがあった。
「……分かった」
「本当に?」
アイリが尋ねる。
「ああ。人が先だ」
「昨日言ったばかりだしね」
「そんな早く試されると思わなかった」
「約束って、だいたいそういう時に試されるんじゃない?」
レンは苦笑した。
「お前、時々すごく嫌なこと言うな」
「正しいことって言って」
「嫌なくらい正しい」
◇
何も起きない時間が続いた。正門側では盾兵の列が大きく動かず、破城槌も前へ出された位置に留まっている。高所の弓兵にも目立った変化はなく、北市場から見えた人員が白環へ合流した様子も、少なくとも治療院内から確認できる範囲にはなかった。
「何も来ないね」
アイリが言った。
ミレナは別の記録へ目を落としたまま答える。
「何も起きないことも、答えじゃない」
「でも攻撃は始まってない」
「それは事実」
「じゃあ少し安心しても?」
「安心するのは自由。記録には書かない」
「厳しい」
「安心まで禁止したら嫌われるから」
「もう少しで好きになりかけてたのに」
「嘘ね」
「ばれた」
そんな短いやり取りが終わった直後、正門側を担当していた護衛が中央回復室へ入ってきた。
「東門側から書面です」
室内の空気が変わる。
「治安局?」
院長が尋ねた。
「はい。武装した使者が入ってきたわけではありません。門の外から書面を掲げ、白環側が回収できる位置へ置いて下がりました」
「誰かが触った?」
「まだです」
「封は?」
「治安局の公印があります」
これまでと同じ手順で、書面は誰か一人の判断で直接受け取らず、複数人が見える状態で回収された。封の状態と受領時刻を記録した後、院長の前で開く。
内容は、白環だけを対象とする新しい攻撃命令ではなかった。
『東地区一時保全区域拡張通知』
ミレナの表情が僅かに変わる。
現在実施中の監査及び証拠保全に伴い、白環治療院周辺から北市場南部にかけて複数の市有施設を一時的な保全区域へ追加する。該当施設については、管理者以外の立ち入り、物品移動、記録搬出を制限し、必要に応じて治安局員及び監査担当者が現地確認を行う。
「施設一覧」
ミレナが言った。
院長が紙を下へずらす。
道路補修資材庫、旧市場管理小屋、北側排水点検所。そして、その中に一つ、白環の全員が見覚えを持つ名前が記されていた。
『北市場第三保管庫』
誰もすぐには口を開かなかった。
「見つかった?」
アイリが最初に尋ねた。
「分からない」
ミレナが即座に答える。
「でも、これで使わない理由は十分」
「地下の蓋を知ってるから指定した可能性は?」
レンが尋ねた。
「ある。でも指定された施設は一つじゃない」
「市場の市有施設をまとめて?」
「そう見える」
ミレナは施設一覧を指で追った。
「だから、北市場第三保管庫だけを狙った通知とは言えない」
「じゃあ六人と三人は、この保全区域を作るために動いてた?」
アイリが尋ねる。
「それもまだ言えない」
「でも記録鞄を持ってた人がいた」
「関連してる可能性は上がった。でも、同じ人たちがこの通知を実施していたとは確認できてない」
ガリックが書面へ目を落とした。
「理由が何であれ、保管庫へ治安局が入る可能性は上がった」
「はい」
エリリアが頷く。
「しかも『必要に応じて現地確認』と明記されています。こちらが使っていると知られていなくても、普通の施設確認だけで床下点検蓋を見つけられる可能性があります」
「上から見れば蓋は分かる?」
レンが尋ねる。
「市修繕班の札が残っています」
ミレナが答えた。
「隠された蓋じゃない。床下点検蓋として普通に存在してる」
「開けられたら」
「地下側へ続く構造が分かる可能性はある」
「なら閉じる」
ガリックが言った。
「もう閉じてる」
「蓋じゃない。使用をだ。北共同貯水槽から先は止める」
「貯水槽までは?」
「必要な内部確認だけなら残す。患者移動にはまだ使ってない。問題は地上側階段だ」
エリリアが図面を確認する。
「北共同貯水槽から上の階段を一時使用停止にして、誰も点検蓋へ近づかないようにしましょう。もし地上側から蓋を開ける音がしても、確認のために上がらず戻る」
「蓋を地下から固定する?」
護衛が尋ねた。
「しない」
ミレナが答える。
「今まで普通に閉じていたものを、急に地下側から強く固定したら、地上から点検した人に不自然だと思われるかもしれない」
「じゃあ何もしない?」
「使わない。それだけ」
「痕跡は?」
「前回、何も残してない」
院長が頷いた。
「それでいい。今の状態を変えず、人だけ近づけない」
◇
新しい通知は、白環の地下だけを考えていれば済む問題でもなかった。
アイリは対象施設一覧を見ながら眉を寄せる。
「北市場って、まだ人がいるよね」
「いるでしょうね」
ミレナが答えた。
「全部閉鎖されてるわけじゃない」
「保全区域になったら、お店の人とか住んでる人は?」
「通知には、市有施設への立入制限しか書かれてない」
「通りは?」
「周辺移動については、『現地判断により制限する場合あり』」
「それ、普通の人も止められるってこと?」
「可能性はある」
アイリはラウルを見る。
「こういう時って、先に住民へ知らせるの?」
ラウルは少し考えた。
「俺が知ってる普通のやり方なら、完全に区画を閉じるなら事前に知らせる。住民を全員外へ出すとは限らないが、出入りできる時間や通行できる道くらいは示す」
「今回は?」
「俺は外を見てないから分からない。ただ、今の白環周辺みたいなやり方を普通だと言う気はない」
「市場の人が巻き込まれる可能性は?」
「ある」
「じゃあ記録する」
アイリは患者表とは別の紙を出した。
「何を?」
「市場に人がいるってこと」
「名前は分からない」
「だから人数も決めない。『民間人居住・営業の可能性あり』だけ」
ミレナが僅かに笑った。
「あなたまで私みたいになってきた」
「嫌?」
「少し怖い」
「褒めてる?」
「かなり」
アイリは紙へ書いた。
『北市場南部――市有施設以外にも店舗・住居あり。保全区域拡張による民間人への影響未確認。』
「これでいい?」
「いい」
レンがその記録を見る。
「白環から助けに行くわけじゃない」
「分かってる」
「でも忘れない」
「うん」
今できないことと、覚えておくべきことは別だった。助けへ出られないからといって、市場で暮らす人々まで地図から消していい理由にはならない。
◇
ミレナは新しく届いた通知と、北市場で最後に観測された人員移動の記録を、一枚の紙へ重ねようとはしなかった。机の上へ並べ、一方には盾を持つ六人と後方の三人、もう一方には北市場南部を含む保全区域拡張の内容を置く。
「時間は?」
レンが尋ねた。
「通知の発出時刻は、最後の観測より少し前」
「じゃあ六人と三人は、通知を実施するために動いてた可能性がある」
「ある」
「高い?」
「前よりは」
「言い切らない?」
「もちろん」
ミレナは新しい記録へ丁寧に書き込んだ。
『北市場で確認した人員移動と、近接時刻に発出された東地区一時保全区域拡張との関連可能性あり。確認人員が当該通知の実施担当者であったか、北市場第三保管庫を目的地としていたか、白環治療院への増援であったかはいずれも未確認。』
「長い」
アイリが言う。
「短くすると大事なところが消える」
「読んでる途中で忘れそう」
「じゃあ忘れないように読んで」
「厳しい」
エリリアは通知に記された対象施設の位置を、一つずつ地図へ落としていた。
「一つ気になることがあります」
「何?」
レンが地図を見る。
「保全区域に追加された施設は、白環だけを中心に円形へ広がっているわけではありません。北市場の南側と東側へ少し偏っています」
「何か意味がある?」
「意味はまだ分かりません。ただ、白環を囲むことだけが目的なら、別の施設が入っていても不自然ではありません」
「じゃあ、ほかに対象がある?」
「そうとも限りません。道路の管理区分や、市有施設の配置に従っただけかもしれない」
「でも位置は残す」
ミレナが言った。
「重ねないけど、残す」
ガリックも地図へ視線を落とした。
「俺が気になるのは、保全区域が広がれば、白環の外側へ人を割く必要が出ることだ」
「包囲が薄くなる?」
アイリが尋ねる。
「そうなる可能性はある。逆に、新しい人員を足して両方維持する可能性もある」
「今見えてる盾兵は減ってない」
「だから現時点では、白環の包囲に変化はない」
ラウルが言った。
「治安局が本当に区域を広げるなら、現場の兵に新しい担当を割り振るはずだ。ただ、外に誰が増えたのかはここからじゃ分からない」
「結局、分からないことが増えた」
レンが言う。
「違う」
ミレナが返した。
「分からない場所が細かくなった」
「それ、前進なのか?」
「かなり」
◇
北市場第三保管庫の使用停止は、その場で正式に記録された。
地下経路図から線そのものを消すことはしない。道は今も存在しているからだ。代わりに、旧共同貯水槽から地上側階段へ向かう部分へ二本の斜線を引き、その横へ現在の扱いを記す。
『北市場第三保管庫地上側――一時使用停止。地上側保全対象指定のため。地下経路発見の有無は未確認。再開には地上側状況の再評価を要する。』
レンはその文字をしばらく見つめていた。
「消さないんだな」
「何を?」
「道」
「道は消えてないから」
「使えないだけ」
「今はね」
「また使えるかもしれない?」
「それも分からない」
「最後までそれか」
「嫌いになった?」
「むしろ慣れてきた」
ミレナは木炭筆を置いた。
「道があることと、使えることと、安全なことは別。昨日からずっとそうでしょう」
「うん」
レンは図面から目を離した。
「閉じるのは嫌だけど、分かった」
「本当に?」
「人を置かない。蓋へも近づかない。見つかったかどうかを確かめるためにも行かない」
「合格」
「何の?」
「昨日より少し賢くなった試験」
「勝手に試すな」
アイリが笑った。
「でも合格したならいいじゃん」
「お前はどっちの味方だよ」
「正しい方」
「一番困る答えだ」
◇
北市場第三保管庫の観測点を閉じたことで、白環は再び包囲の外を直接見る目を失った。それでも、最初の状態へ戻ったわけではない。旧水路がどこへ伸びているのかを知り、旧共同貯水槽が残っていることも、北市場第三保管庫の床下まで階段が繋がっていることも確かめた。そして今回、その場所を使い続ける危険が高まった時、道へ執着せず、人を残さないという判断までできた。
エリリアは地下図面の脇へ置かれた古い施設記録をめくった。
「ほかの候補を、今すぐ調べる必要はありません」
誰かが次の探索を口にする前にそう断ってから、一枚の古い図面を机へ置く。そこには以前整理した三つの地上側候補が残っていた。一つは、すでに確認した旧共同貯水槽。二つ目は東側旧整備場。三つ目は川沿いの排水塔だった。
「東側旧整備場」
レンが読む。
「埋まってる可能性が高かった場所?」
「はい。古い記録では、地上側が後年の造成で塞がれた可能性が高い。ただし、完全に埋め戻したという記録までは見つかっていません」
「次はそこ?」
アイリが尋ねる。
「まだです」
エリリアが答えた。
「北市場第三保管庫が使えなくなったからといって、すぐ別の道へ人を送れば、同じことを繰り返します」
「まず紙」
ミレナが言う。
「またそこに戻るんだな」
ガリックが笑った。
「一番安全だから」
「一番遅い」
「死ぬより速い」
「それはそうだ」
院長も異論を挟まなかった。
「東側旧整備場について、現在の地上利用、造成記録、地下との接続記録を先に洗う。それまでは誰も向かわない」
「川沿いの排水塔は?」
「人が通れる構造かどうかも未確認です」
エリリアが答える。
「候補として並べるだけ」
「全部、まだ候補」
アイリが言った。
「でも一つは、本当に繋がってた」
レンが返す。
「だから次もあるかもしれない」
ミレナが木炭筆を持ち直した。
「あるかもしれない。でも、あることにはしない」
「はいはい」
「返事が雑」
「意味は分かってる」
「ならいい」
◇
夕刻へ近づいても、治安局による新しい攻撃は始まらなかった。正門の大盾も破城槌も高所の弓兵も残り、包囲の形そのものに大きな変化はない。一方で、北市場第三保管庫を含む周辺施設には、一時保全区域という新しい線が引かれた。
その線が白環の地下道を知った者によって引かれたのか、それとも監査と証拠保全の範囲を広げる通常の手続きとして引かれたのかは分からない。北市場を横切った六人と三人が、その通知を実施するために動いていたのかどうかも確認できなかった。
だからこそ、白環は確かめるためだけに人を送り返さなかった。便利だから守るのではなく、危険が高まれば手放す。分からないから何としてでも見に行くのではなく、分からないまま待つ方がいい時もあると判断する。その結果、ようやく手に入れた包囲外への観測点は、一日も経たないうちに自分たちの手で閉じることになった。
それでも、失ったものばかりではない。どこまで見え、どこから先は見えず、何を確かめれば次の判断へ進めるのかを、白環の者たちは以前より正確に理解し始めていた。
レンは北市場第三保管庫へ引かれた二本の斜線を見つめた後、その少し東に残る「東側旧整備場」と記された古い印へ視線を移した。そこがまだ道と呼べる状態なのかさえ分からず、地上まで繋がっている保証もない。使えるかどうかを考えるのは、さらにその先の話だった。
それでも、一つの目を閉じたからといって、白環が完全に盲目へ戻ったわけではない。
次に何を調べるべきなのかを、彼らはもう知っていた。
ここまで読んでくださり、そして『アストラエオン 炎と影』を応援してくださって、本当にありがとうございます。
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皆さんからの応援は、これからも物語を書き続けていくうえで大きな励みになります。
いつも本当にありがとうございます。これからも『アストラエオン 炎と影』をよろしくお願いいたします!




