第九話
※こちらは、凍結します。年明け(2020年)に改稿版を投稿します。
改稿版URL:http://ncode.syosetu.com/n0925fx/
↑2020/1/1よりURLが使えます。
親友殿の領地に着いて数日。忙しい親友殿と、体調が優れなくてこもっていた私とで、すれ違いの生活を送っていた。ある日、私の体調が戻り親友殿と久々に時間が合うと言うことで、街を案内してもらいがてら散策することになったのだった。
彼らと出会ったのは、私と親友殿が次は市場へ行こうと行政府の前を通った時のことだ。
「お願いします!どうか我が村に街道を!せめて商人の派遣を!」
「だーかーらっ!こちらは移住の場所と支度金までしか支援できないって、言ってるじゃないですかぁ〜…。」
「それは望むところじゃないんです!村の存続は村民の意見の一致なんですよ、離れたくないんです!お願いします!」
行政府から悲痛な叫びが聞こえてきて、親友殿と顔を見合わせた。もめ方が尋常じゃなく、訴えている側もおそらく職員側もヒートアップしている声が外まで響いていた。ちらっと親友殿の方へ視線を向けると、思うところがあるのか口元に扇をあてて悩むような表情をしている。そして私の方へ視線を向けると、行きましょう、とだけ言うと行政府の方へ向かっていく。そしてくるっと私の方へ振りかえると、茶目っ気たっぷりに笑みを浮かべてこう言った。
「民の声を聞くのもわたくし達貴族の役目なの。付き合ってちょうだい、ミーナ。」
親友殿に続いて行政府に入ると、奥の方の受付に件の諍いをしているようであった。どうやら男女の2人組と、やはり行政府の職員が言い争っているようだ。その男女は、この街の人にしては珍しい乳白色の肌に金髪と見紛う茶髪で、独特の不思議な雰囲気を纏っていた。
親友殿は厭うことなく真っ直ぐにその3人の許へと向かい、扇で顔を隠しながら声を掛けた。
「───…御二方、あなた方の村はなんと言って?」
「イニーツィオと申します。お願いします、このままじゃ皆が飢えてしまうのです。」
「イニーツィオ?どこかしら…あら。いえ、わかったわ。ここで問答しても解決しないと思うの、後であなた達の滞在先に人を遣るからお話しなさいな。」
ルミナス様!?と驚く行政府の人間を置いてきぼりにして、親友殿は男女に問いかけていた。そして答えに一瞬戸惑いを見せてから彼らにそう声を掛けると、行くわよミーナ、と先に進んでしまう親友殿に違和感を覚える。しかしながら、彼女なりに考えがあるのだろうと大人しくついて行った。厄介ね、とぼそりと親友殿が呟いたのが聞こえたのは恐らくすぐ隣にいた私だけだろう。
「じいや、イニーツィオって頑なに移住しない村よね?」
「左様でございます。旦那様も何度かお話なさいましたが、彼の地を離れることを拒むのです。しかし援助は欲しいとのことで、頭の痛い問題です。」
帰宅後。親友殿とサロンで居るとじいやこと執事長を呼び寄せていたらしく、早速問いかけていた。執事長も打てば響くようにスラスラと即答しており、それを聞くと親友殿は少しくたびれたように椅子へともたれかかった。
「見た目と名前からそうじゃないかとは思っていたけれど。今年も来たのねぇ。確か、街道か水路が欲しいだったかしら?」
「左様でございます。あそこは山々の間にあり川の支流からも距離があると聞いております。」
移住の手当は出すのに何故かしら…、と不貞腐れたように言う親友殿。しかし次の瞬間、椅子から身を少し起こして、何やら思いついたように親友殿の執事長に問いかけている。
「じいや、私とミーナの予定はどうなっているかしら?」
「頑張って3日ほどでしょうか。それ以上は、暫くは動かせませぬ。」
「ちょっとしたツアーには、3日もあれば充分ね!」
「ミーナ、イニーツィオに行くわよ!じいや、彼らに使いの者を出しなさい。」
言い出すことがわかっていたのか、承知しましたお嬢様、とだけ返すと執事長は部屋から出ていった。
親友殿と執事長の会話を聴きながら、フルーツジュースに舌づつみ打っていた私は驚いて思わず噎せた。最近、さっぱりしたものしか受け付けなくなってきたので、無理言ってサロンやお茶会でも紅茶ではなくフルーツジュースを用意してもらうようにしている。いや、それはそうと親友殿の突拍子もない発言だ、と噎せて咳き込んでいたのが治まった私は親友殿に問いかけた。
「どうして彼らの村に行くことに?」
「もちろん、生の声とやらを聞くためよ。」
「私も行くんですね?」
「研究者のミーナがいた方が、いい事ありそうだもの。」
それに魔学術院時代に戻ったみたいで今が楽しいわ、と少し頬を染めはにかむ親友殿にうっ、と言葉を詰まらせる。自由奔放で天真爛漫な御方なのだ、この親友は。そう言われてしまうと、というより元々こちらとしてもやぶさかではない。
トントン拍子に彼らの村へと向かうことになり、親友殿の3日間予定のあく初日となった。
なお、その日に親友殿が最初に叫んだのは以下の通り。
「あなた達、どんな場所に住んでるのよ!?」
水上魔車で近くへと来たものの、ここから数キロ先ですと方角を指さした先には、険しい山々が並んでいたのだから、叫んでも仕方ないと思う。かくいう私も、頬を引き攣らせたのだった。