女子高生のモノローグ
私が生まれたとき、お母さんが死んだ。
元々身体が弱かったってのもあって、私を生むのに全力になって自分の命を守ることを忘れちゃったらしい。だから私にはお母さんがいない。顔も声も、動画や写真で残ってるものはたくさんあるけど、私とつながりのある人だとは全然思えないから、なんかピンとこない。
その代りにと言ったら変だけど、私をとても過保護にするお父さんがいる。
めちゃくちゃ過保護。小学校を卒業するまでは毎日お風呂に一緒に入らないといけなかったし、私が友だちと遊ぶというと、その子と待ち合わせの場所まで一緒に来て、わざわざ友だちがホントに私が話していた子なのか確認して送り出したりして、友だちからは「変なお父さんだね。」て言われたりした。だからお父さんは苦手。苦手と言うか、結構嫌い。中3からは朝ご飯も別々だし、夜ご飯もそう。家に居てもつまんないから部活って嘘付いて、外で遊んだりしてた。お父さんがたまに2人で遊びに行こうって誘うときは「なんか買ってくれんならいいよ」って付き合ってあげてる感じ。端から見たら援交と間違われんじゃないかって思うときがあるんだけど、もしそれでメンドーなことになっても別に勝手にして、って思うだけ。まぁ、一回も通報されたことなんてないけど。
お父さんは私に甘くて、叱るなんてことは過去に一回だけ、私もよく覚えてないんだけど、なんかあってめちゃくちゃ叱られた記憶があるくらいで、基本鬼甘。
だから結構最近は好き勝手やってる。高2になってバイト初めて、友だちと遊んだりして、受験がチラついたりして面倒だなって思うけど、好き勝手やってる。私ががんばろうとがんばらまいと、将来は暗いと思ってるし、今を楽しまないと大人になってからの時間の方が長いんだしもったいないよねってことで、青春と言う大イベントを謳歌中。って友だちと話してたら「オウカってなに?」って聞かれてシラケた。なんか、私が知ってることってのは友だちの間ではあんまり浸透してないのか、話が噛み合ないこともある。実際言葉のチョイスもそんな感じ。なんでか考えたってしょうがないからそう言うときは「めっちゃ楽しむってことだよ。覚えて。」とか説明してあげてる。世の中ギブアンドテイクだしね。私が持ってるもんは友だちと共有してナンボだと思ってるし、それをいるいらないって決めんのはそいつ次第だと思ってる。
「ユイってそう言うとこサバサバだよねー」
「そうかな、あたしいっつも震えてるけど」
「うけるー、それなんか病気じゃない?」
「かもね」
「ユイさー、真部くんに返事した?」
「まだ」
「えー、だって断るって選択肢なくね?」
「なくはない」
「いやいや、なくなくないでしょ」
「だって真部と一昨日初めて喋ったんだけど」
「でもイケメンじゃん」
「顔はね」
「中身もだって!バスケ部だし、背高いし、顔カッコいいし、優しいし。」
「最後以外外身じゃん」
「私がユイだったら絶対付き合ってるし」
「田口いんじゃん」
「田口ぃー…、あいつはー…さぁ」
「まだ付き合ってんでしょ?」
「うんー、付き合ってるけどさー…、口臭いし」
「あー、それは最悪」
「でしょー?!だからさぁ、キスするときは息止めてる…」
「ウケンね」
「おもんないし!全然!死活問題だし!」
「がんばって。キスする前に歯磨きさせれば?」
「今度めっちゃさせる。歯茎から血が出るくらい」
「ウケル」
私は一昨日告白をされた。人生で何度目かの。
恋愛には残念ながらそんなに興味が無い。体裁を気にしてる周りの子は彼氏がいないと焦ってなんとなく番いになったり誰かを見つけようとしてるけど、私にはそんなに焦りが無いし、そもそも人を好きになると言うことがどんな状態なのかがそんなに分かっていないから、カッコイイとかだけで人選べない。レズなんじゃないかとか思った時期もあったけど、そんな感じでもないし、私自身なんでこんなに恋愛に対してモチベーションが上がらないのかが不明で正直そっちに焦りはある。このまま誰のことも好きにならんかったら最終的に孤独死か。とか考える。そんなにめちゃくちゃ長生きする気もないけどね。ロンリーおばあちゃんになって、その辺の階段登るのキツくなってる自分とかは想像するとマジでヘコむ。だからお年寄りには優しくしてる。
彼氏他、色々経験豊富なエリにどうやったら恋愛できんのか一回聞いてみたことがあるんだけど、「うける、恋とかするもんじゃなくて落ちるもんだし」ってなんかこいつマジ死ねって思うような答えしか返ってこなかったから、恋愛は暫く考えたくない、って思った直後に真部から告られた。
真部はイケメンだとは思う。部活も頑張ってるし、友だちも多いし。でもなんで私を好きになったのかは分かんないから、そこが気になってOK出せなかった。なんで話したこともない私のこと好きと言えんだろ。チャラすぎだろ。とか考えた。
「一回デートしない?」
「え、マジで。OKなの?」
「違う。デートするだけ。」
「え、だってデートって?」
「お互いのことあんま知らないから、どっか遊びに行くの。映画でもなんでもいいから。なにするかは真部が決めて。」
「いいよ。土曜日?」
「うん。土曜でいいよ。」
「マジかー!」
「マジだけど、デートだけだから。付き合う訳じゃない」
「うん、分かった!じゃ、メッセ教えてよ!」
「これ」
「さんきゅ」
「じゃあね」
正直真部の前情報をちょっと聞いたりしてたから、デートでどうなるのかは目に見えていた。けど、相手だってわざわざ面と向かって告白してきたくらいだからそれなりに色々考えてくれんじゃないかとは思った。私なりのギャンブル。みたいなもので、まぁ、賭けにはある意味勝った。予想通りの展開だったし。
「俺んち行こうよ」
昼ご飯食べて、真部が好きとか言う髭、短髪、目鼻立ちくっきりの渋いオッサンが出てるアクション映画を見に行って、ちょっと買い物して、この言葉。
「家行って何すんの?」
「俺んちにジョナスの映画他にもあるからさ、一緒に見ようよ」
「ジョナスって誰」
「さっき映画見たじゃん!」
「あーあいつか…、いいけど」
「じゃ、行こ」
道中なんか落ち着きがない真部は、ジョナスはスタント使わないとかジョナスはずっと空手やってるとか、ジョナスは左利きとか、どうでもいいジョナス情報を長々話してて、私はそれを聞きながそんなジョナス好きならジョナスと付き合えよって思ってた。
真部んちに行ってからはソッコーだった。真部の部屋行って、ジョナスの映画開始5分で肩に手回してきて、さっきまであんなに熱弁してたのにおいおいどうした真部って思って、そのままキスされそうになったから拒否ってビンタして帰った。真部がどんな顔してたかはよく見てないから覚えてない。駅まで行く途中、真部が追いかけてきたら嫌だなって思ったけど追いかけてこなかった。代りにメッセがめっちゃきて、最初に目に入った言葉がごめん。だったからマジ無理って思ってブロックした。ブロックした瞬間、今日に限ってお父さんから「今日の友だちとの映画はどうでしたか?夕飯はいりますか?」って、なんかよそよそしいメールが来て余計になんか嫌になって、帰る方と反対の電車に乗って新宿に行こうと思った。なんでか、新宿に。
で、今私は新宿の都庁にいる。
なんでか。
展望台に登ってた。
夕方だから夕焼けでオレンジ色に染まった街を見てた。
私が好きじゃない真部とかお父さんのいる、街を。




