デフのくせに人間名乗ってんの?
次に現れたのは、恋頃だった。夢の中なのに、その神々しいまでのお美しさは健在だった。
だが、黙々とペヤングを食べていた。
「お前さん、本当にブレないねぇ」
いつの間にかちゃぶ台はいつもの居酒屋のテーブル席となり、恋頃の隣に知子さんが座っていた。
顔から下は棒人間だった。
私といえば、相変わらずようかんを食べる。
「いいの?」
「再三言うようだけど、ロリータだってスコーンがわりに羊羹や煎餅を食いたくなったりするんですよ」
煎餅っていいよね! 腹持ちするよね!!
スコーンより気楽に手に入るよね!
マカロンより安いよね!!
「いいの?」
「いいんだよ!!!!」
さっきから何が「いいの?」だよ。
「いいの?」はお前の育たない胸だろうが。ねえ、いいの?
っていうか恋頃はそれ言わないんだね。
優しいからじゃないよね。
私よりぺヤングの方が大事だからだよね。
ねえそれ、いくらで買った?
88円とかだよね。
私の存在が88円以下だと思うと、それはそれで凹むけどね!
突然、視界がぐにゃりと歪む。
次の瞬間、私は立ち上がっていた。
目の前いっぱいにに宝石箱をこぼしたような夜景が広がる。
ガラス越しに東京都内が一望できる場所。
ここは―――「あそこ」だ。
二人の若い男女が――をした運命の場所。
「商」
隣にもやもやが立っている。
この声は。
「商」をショウと呼ぶ無礼者なんて、私は知らない。
「彼」以外、知らない。
私は泣きたくなった。
でも、それを堪えてもやもやに手を伸ばす。
「りい……」
「お前――」
もやもやは、私に向かってもやもやで野村謙二郎監督の采配の如く、アバウトな方向へ指を指す。
「お前、デブのくせに人間名乗ってんの?」
「しゃあああああああああああああああああああ!!!!!」
私はベッドから跳ね上がり、戸棚からビニール袋を引っ張り出してゴミとボツ原稿を乱暴に放り込む。
適当に床に落ちていた出勤用の普段着に着替え、すっぴんのまま自転車へ飛び乗った。
ロリータしてる時間が惜しい。今はそんな場合じゃない。
目指す場所はただひとつ。あそこだ。あそこ。
「……城」
聳え立つ巨大な白いビル。
そう、田無駅が誇る超大型商業施設・LIVINだ。
ずんずんと突き進んでスーパーに直行し、カゴを掻っ攫って、速足でにんじん、玉ねぎ、セロリ、トマト、大根をそこに放り込む。
大根を入れるとか、ゴボウを入れるとか、ホールトマトは必須だとか、ローカルルールは様々。
だが、貧乏な私にはこれでいい。
弾丸をも凌ぐ速さでチャリンコを漕ぎ、家に戻った。
「うおおおおおおおおおおお!!!」
雄叫びを上げながらキッチンに立ち、包丁を持つ。
ダンダンダンダンダンダンダンダンッと、自分の指を巻き込まんばかりのスピードで買いたての野菜を切っていく。
それらすべてをこの家で一番大きい鍋にブチ込み、水を入れた所でようやく私は正気を取り戻した。
まさか、夢にアイツが出てくるなんて。
アイツが私に与えた影響がそれほどだななんて。
夢から覚めてから、悪い汗とドキドキが止まらない。
動機息切れが半端ない。
バクバクと耳元がうるさい。
救心を買い忘れた。
誰かに見張られているような気さえする。
痩せなきゃ。
本能がそう語る。
痩せなきゃ!!!
出来上がった「大しておいしくないダイエットスープ」を掻き込んでる時、私はそう決めたのだった。




