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侍ウィンブルドン  作者: トミー・フィロソフィー
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11/11

十の太刀 ”入らん。。。”

<前回までのあらすじ>

 ひょんなことから現代に降り立った居合い抜きの開祖、林崎甚助。

 降り立ったはテニスの大学選手権(インカレ)決勝。

 そこで居合い抜きの技を使い、相手の頭にボールを当てることで優勝した。

 また、現代にいた林崎甚助の子孫、林崎甚之助は逆に甚助のいた戦国時代にタイムスリップしていた。

 そして、数日が経ち、現代にタイムスリップした林崎甚助が次はITF(国際大会)に挑むことに。

 その予選の2試合。甚助は再び相手の頭、そして腹にボールを当てることで勝利。

 だが、運営から”次に相手に当てた場合、失格だ”と言われてしまった。

 涼華は甚助に何とかルールを叩き込むべく、マ○オテニスを一晩中やったのだった。

 そして、次の日、甚助はITF本戦一回戦を迎えた。

 さて、どうなることやら。


 

 観客席の杉本キャプテンと涼華が試合前に話していた。

「ん?ちゅーか、甚之助、やっとルール思い出した感じなん?」

「はい。ようやく理解したと思います。

 昨日一晩中マ○オテニスで説明しましたし、質問したらちゃんと答えてましたので。

 でもそのせいであんまり寝れてないんですよね。」

「マ、マ○オテニスかいな。。。

 なんか甚之助、まだかなり重症みたいやな。」

 そうこうしていると主審が試合開始のコールをした。

「The best of three set match, Hayashizaki service to play!」

 バズりニュースで集まった人だかりから拍手が沸き上がった。



 甚助はボールボーイからボールを受け取った。

「かたじけない。」

 甚助がボールボーイにきれいなお辞儀をした。

 思わずボールボーイもお辞儀をする。

 その様子に周囲から笑いが起こった。

 ”なんじゃ?なぜ笑うんじゃ?”

 甚助が不思議に思いつつも死合いに集中した。

 その瞬間、甚助の纏う気が変わった。

 周囲も何かを感じとり、笑いが消えた。

 甚助がサーブ位置 (フォアサイドのベースライン)に立つ。

 そして、相手を見た。

 ”相手の名は富野(とみの)と言っておったの。

 昨夜で死合いの作法は心得た。

 申し訳ないが、この死合い、拙者がいただく。”



 涼華が杉本キャプテンに聞いた。

「相手の選手ってどんな人なんですか?」

 杉本キャプテンが応える。

「あー、あの人な。

 名前は富野 祐二(とみの ゆうじ)。年齢34歳。

 今では日本ランキング20位圏外やけど、最高位は日本5位。

 世界でも150位くらいまで上がった人や。

 鋭いトップスピンと粘りのストロークが武器やけど、前に出てもイケる。

 いわゆるオールラウンドプレーヤーやな。」

「えー、なんでそんなすごいプレイヤーがこの大会に出てるんですか?」

「確か富野(とみの)選手、去年怪我してたからな。

 調整も兼ねてちゃうかな。

 ITFに出るってことは相当状態悪かったんやな。」

「甚助さん、そんな人相手に大丈夫かな。。。」



 富野(とみの)はサーブの位置に立つ林崎甚之助を見た。

 その纏うオーラに圧倒された。

 ”こいつ、なんなんだ?

 まるで殺しあいにでも来たみたいなオーラしてやがるな。。。

 しかも、あの動画。。。二度も相手にぶち当てて勝ち上がってきてる。

 いいさ。当てれるもんなら当ててみやがれ。”

 甚助がボールを見て、相手コートのサービスボックス (サーブを入れるエリア)を見た。

 ”さーぶとやらはあの場所に打ち込めば良いのじゃったな。”

 甚助は左手に真剣を持つようにラケットを持ち、居合い抜きの低い構えを取った。

 そして、右手にボールを持った。

 周囲が静まり返る。

 甚助が右手でボールを上に放り投げたかと思うと、その右手でラケットのグリップを握った。

 キッと甚助の目が光る。

 次の瞬間、甚助のラケットが水平を斬る。

 神速の居合い抜き。

 ボールがラケットのフレームにめり込む。

 そして、ボールが弾丸のごとく空気を切り裂き、相手コートに飛んでいった。

 ”ヴァチーーーン!”

 ボールは富野(とみの)の頭の2mほど右横を通り抜け、ノーバウンドで奥のコートの壁に激突した。

 聞いたこともないほど激しい衝撃音がコートに木霊した。

 観客たち全員が一斉に身体をビクつかせた。

 富野(とみの)は全く動くことも目で捉えることもできていなかった。

 身体中を今まで感じたことのない恐怖が駆け巡る。

 ”なんなんだ!?このスピードは。

 こんなスピード、トッププロでも見たことないぞ。。。”

 審判も身体をビクつかせた一人だった。

 だが、咳払いをして気持ちを落ち着かせ、コールする。

「フォルト(フォー)!!」

 フォルトにはなったもののSNSきっかけの”にわか”には絶好のシーンだった。

 観客席から大歓声が上がった。



 観客席の涼華の血の気が引いていた。

「あわわわ。。。甚助さん、また当てちゃうんじゃ。。。」

 杉本が冷静に分析していた。

「いや。壁に当たった位置から察するに、コースはたぶんサービスラインの端を狙ってたみたいやで。

 ダウンザラインっていうやつやな。まあ入ってればやけどな。」



 甚助はまだ同じ位置にいる相手を見て感じ取った。

 ”(ふぉー)と言っておったが、これは(ふぉると)というやつじゃな。

 もう一度打って良いはずじゃな。”

 甚助がボールボーイからボールを受けとる。再びお辞儀。

 観客席からも再び笑い。

 もう一度、甚助が居合い抜きの構えに。

 そして、再び居合い一閃。

 次はボールが富野の頭の1.5mほど左横を通り抜け、またノーバウンドでコートの壁に激突した。

 再びけたたましい衝撃音がコートに響く。

 富野(とみの)は今度も全く動くことができなかった。

 息が荒くなり、冷たい汗が頬を伝う。



「フォルト(フォー)!!ダブルフォルト(ダブゥフォー)、0-15(ラヴ、フィッティーン)!!」

 主審のコール。

 観客席から再び大歓声が沸き上がった。



 甚助が主審のコールを聞いて点を取られたことを悟った。

 ”なんじゃ?あの場所に落とすにはどうすればよいのじゃ?”

 甚助がアドコートに移った。

 再び居合い抜き打ち。

 だが、先ほど同様、ノーバウンドでコートの壁に。

 また轟音がコートに響く。

 観客全員がビクつく。

 そして、富野(とみの)の中の恐怖はさらに積み上がった。

 だが、轟音によって積み上がる富野(とみの)の中の恐怖とは裏腹にポイントは富野(とみの)に入っていった。

 ドヴァーーーン!!ドボォアーーーン!!

「0-30(ラヴ、サーティ)!!」

 バガーーーン!!ボギャーーーン!!

「0-40(ラヴ、フォーティ)!!」

 ドゥガーーーン!!ヴァドゥーーーン!!

「Game!Game count 1-0(ワン、ラヴ) Tomino leads!!」


 チェンジコートとなり、甚助は涼華に教わった通り、相手がいた方のコートにスタスタと移動した。

 すると観客が移動する甚助に向かって言った。

「おい!侍さんよ!早く当てて終わらせろよ!!」

 観客がドッと沸いた。

 主審からは静粛にの合図が飛んだ。

「Please...」

 スタスタと歩く甚助だったが、立ち止まりその声の者の方に向いて応えた。

「次当てれば拙者の敗けとなるゆえ、それはできかねるぞ。すまぬな。」

 するとヤジを飛ばした観客がさらに言った。

「なんだ、それ?それ、見にきてんのによ。

 そんなんじゃ、つまんねーじゃねーか。」

 甚助がそれを言った観客を睨んだ。

 観客は甚助から放たれる殺気を感じ取った。

 それからは身体が強張り、冷や汗が吹き出した。

 そして、その観客はそれ以上言葉を発せなくなった。

 甚助が言った。

「てにすというものはそういうものではないようなのでな。

 お主もま○お殿に聞いてみるが良いぞ。」

 そう言うと甚助が再び歩き出した。

 主審が小さく笑い、主審は”Time” (選手にコートに出るように促す合図)を告げた。



 富野(とみの)は激しく汗をかいており、チェンジコートの間にドリンクを飲み、汗を拭いていた。

 できるだけ恐怖を取り除くために時間を費やした。

 そして、主審の「タイム」の合図と共に先程甚助のいたコート側に出ていった。



 富野(とみの)はフォアサイドでボールをつき、サーブの体勢に入った。

 甚助を見る。

 ラケットを居合い持ちしてはいるが、足を開かず、むしろ1点に両足を揃え、不安定な構えに見えた。

 だが、そこから放たれる甚助の殺気は尋常なものではなかった。

 富野(とみの)は身体を強張らせたが、何とかサーブを繰り出した。

 ボールがネットの白帯に当たり、富野(とみの)側のコートに落ちた。

「フォー」と主審の声。

 富野(とみの)がセカンドサーブを打った。

 緩やかに大きくループを描くトップスピンサーブ。

 ボールは甚助の左側に飛んでいく。

 バウンドして大きく跳ねようとしていた。

 その時、甚助の身体がヌルッと動いた。

 一瞬で甚助が前に詰める。

 そして、居合い抜きの一閃。

 ボールの上がり様、いわゆるライジングショットであった。

 難易度の高いショットだが、甚助にとってこの緩やかなサーブはまるで止まった相手を斬るようなものであった。

 ラケットのフレームが完璧にボールを捉える。

 弾丸となったボールが相手コートに飛んでいく。

 それはアドサイドのシングルラインの真上を通っていた。

 だが、またしてもボールはノーバウンドでコートの壁に叩きつけられた。

 激しい衝撃音がコートに木霊する。

 リターンを待ち構えていた富野(とみの)だったが、全くボールに目が追い付かず、衝撃音で身体がビクッと震えた。

 主審の唾を飲み込む音、そしてコール。

「アウト(アウッ)、15-0(フィッティーン、ラヴ)」

 富野(とみの)の全身に鳥肌が泡立つ。毛穴という毛穴から汗が吹き出た。

 続いて、富野(とみの)のアドサイドからのサーブ。

 身体が強張りながらも今度はファーストサーブが入る。

 相手のバックハンドを狙う癖から再び甚助の左側に入った。

 すると、またしても甚助は案山子(かかし)のような立ち姿勢から身体をヌルッとシフトさせ、上がりかけたボールに対して居合い抜き姿勢となった。

 そして刹那の間にラケットが水平に振り抜かれた。

 その直後、コート壁からの激しい衝撃音。だがノーバウンド。

「アウト(アウッ)、30-0(サーティ、ラヴ)」

 正直、主審もボールを追えてなどいなかったが、一瞬視界に残る黄色い残像でノーバウンドだと判断していた。

 富野(とみの)の恐怖心はかなり募ってきていた。冷や汗が止まらない。

 そして再びフォアサイドのサーブと壁からの衝撃音。

「アウト(アウッ)、40-0(フォーティ、ラヴ)」

 もう一度続き、とうとうそのゲームが終わった。

「Game!Game count 0-2(ラヴ、トゥー) Tomino leads!!」



 その場所でボールを受けとる甚助。そして忘れないお辞儀。

 だが、甚助の胸中は困惑していた。

 ”なぜじゃ?入らん。。。

 ま○お殿はどうやっておるのじゃ?”



<次回予告>

 再び回ってきた甚助のサービス。

 そして、思い出される過去。

 その過去は甚助を助けることとなるのか?

 次回、十一の太刀 ”京弁の羽子板使い”

 次回も乞うご期待!!


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